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110話 ハイン一同、死闘を繰り広げる

(さてと……ここからどう仕掛けていくか、だよな)


 先程の戦闘で判明した情報を元に脳内で思考を張り巡らせる。


(七つの首のうち、三つは特殊攻撃を行ってくる。二つは毒液、一つは炎のブレスを吐く。まずはこの三つをどうにかしない限り、俺たちが勝つのは難しい)


 過去も含め、初めて対峙する原種ではないヒュドラを前に戦略を練る。完全に対策を立てる余裕はないものの、ひとまず原種と同じように対処すべきと考え、皆に向かって叫ぶ。


「皆っ!今見た通り七つの首のうち三つは厄介な攻撃を仕掛けてくる!ブレスと毒液!まずその首を特定する!そしてなるべくその首から落とすんだ!そうすれば他のヒュドラと大差はない!」


 自分の声に皆が反応する。これで自分の意図が伝わった。あとはそれに狙いを定めるだけだ。仕掛ける前に今一度状況を分析する。


(……まず、最初にブレスを吐いたのは……おそらくあの首。毒液を吐いたのは最初に威嚇の構えのままだった首の一つ。それは間違いねぇ。もう一つの毒液を吐く首は……駄目だ。まだ狙いを絞り切れねぇ)


 噛みつきや首を使った体当たり等の攻撃であれば原種のヒュドラと同じ様に対策が可能であり、コーガやザガーモの実力があれば対処は充分に可能なはずだ。だが、ブレスと毒液を待つ首だけはそうはいかない。対処を誤れば一撃が即致命傷になる。


(ここにいる面子で『回復(ヒール)』と『解毒(キュアー)』を使えるのは俺とカミラだけだ。万一首の数を減らす前にどちらか二人が致命傷を負ったら事態は相当ヤバい事になっちまう)


 もしも自分とカミラが同時にやられてしまえば、治療役を失った時点でこのパーティーはほぼ終わりだという事は間違いない。それを避けるためにも自分かカミラのどちらかに何かあった際には片方が回復に回れる状況はキープしなければならないのだ。


(戦闘スタイルからして、俺よりもカミラの方が回復役に適役なのは間違いねぇ。……なら、俺は攻撃役の二人をサポートしつつ中近距離で立ち回る必要がある)


 そう考え、最低でもブレスを吐く首だけは何としてでも自分が落とさねばと思った。自分に万一の事があっても最悪カミラが無事なら体制は立て直せる。そう判断して再び皆に聞こえるように大声で叫んだ。


「皆!炎のブレスを吐く首は俺が必ず落とす!カミラはサポートに専念してくれ!ザガーモとコーガはブレスと毒液を吐く首に気を付けながら他の首の対処を頼むっ!」


 そう叫んだと同時に剣を構えてヒュドラの方へ駆け出す。膠着状態のままではこちらも動けない。そう思ってまずはこちらが少しでも有利に動けるように向こうの戦力を削る必要がある。ブレスや毒液の首を優先的に仕留めるのは勿論だが、まずは一つでも相手の首を落とすべく動くことにする。


「了解っ!じゃ、厄介な首の対処はお前に任せたぜハインっ!」


 自分の言葉にいち早く反応してくれたザガーモが先陣を切る。ザガーモに向かってヒュドラの首が一斉に狙いを定めんと鎌首をもたげる。


「おらよっ!」


 ザガーモが一番近くのヒュドラの首に狙いを定めて切り掛かる。他の首を警戒しながらザガーモが狙いの首に技を放つ。


「『双流水牙』っ!」


 ザガーモの放った水の刃がヒュドラの首に炸裂する。だが角度が浅く、斬り飛ばすには及ばなかった。自分が追撃を放つべきか一瞬悩んだところにコーガの声が響く。


「『軋み』っ!!」


 コーガの風の衝撃波がザガーモの水の刃をヒュドラに押し当てるように命中し、そのままヒュドラの首を刎ね飛ばした。


「まず……一つっ!」


 そう叫んだコーガに向かって毒液を放とうとするヒュドラの姿を捉えて即座に自分がサポートに回る。


「『防御障壁』!」


 毒液を防御結界で弾き、他の首から追撃がない事を確認し全員で一度ヒュドラと距離を置く。


「……これで残りの首は六つ。毒液を吐く首も一つは分かったな」


 そう自分が言うと、後ろからカミラがつぶやく。


「うん。後ろから見ていてもう一つの首も分かったよ。向かって左から二番目の首だね。他の首と違って毒液を吐こうとしたのか後ろにのけぞる動作に入っていたから。ブレスの首はまだ特定出来ないけど、真ん中かその隣の首だと思う。同じ挙動をしていたからね」


 後ろからこちらの攻撃を見守っていたカミラが冷静に言う。この状況でこちらの様子を伺いながらもヒュドラの動作を観察していたのだろう。その洞察力に改めて感謝する。


「了解だ。なら、ブレスの首を警戒しつつまずは他の首を減らそう。出来れば毒液の首から仕留めたいところだな」


 そう自分が言ったと同時に、今度はヒュドラの方からこちらへ襲い掛かってきた。カミラの予測通りの首ともう一つの首がこちらに向かって毒液を勢いよく放って来た。


「来ると分かっていれば避けられるんだ……よっ!」


 コーガがその場を跳躍し、毒液を回避する。もう一方の首が放った毒液の先には既にカミラがザガーモの前に立ち詠唱を唱えていた。


「『防御障壁』!」


 防御結界で毒液を弾く。それを見届けると同時にザガーモが毒液を放った首へと切り掛かる。


「ここなら返り血も浴びねぇで済むだろっ!『双牙斬』!」


 二つの斬撃で狙い通りに毒液の首を斬り落とすザガーモ。その勢いのまま他の首へと狙いを定める。


(上手い!これで毒液を吐ける首はあと一つ!ザガーモとコーガの攻撃で更に首を減らせれば、このまま押し切れるっ!)


 自分がそう思ったと同時に、二人も同じように考えていたのか波状攻撃を仕掛けようと横に並んだその瞬間、真ん中の首から炎のブレスが勢いよく放たれた。しかし、すぐに違和感に気付いて叫ぶ。


「……まずいっ!さっきと炎の勢いが違うっ!」


 先程は放射状に放たれた炎のブレスが、射程距離を絞って直線的に勢いよく放たれた。それを見た二人もそれに気付いて瞬時に回避しようと左右に飛ぶ。だが、それを見越していたのか二人の回避先に向かってヒュドラが二本の首をしならせて体当たりを放った。


「ぐっ……!」


「がはっ!」


 空中で向きを変える事も出来ずにまともにヒュドラの一撃をくらい同時に吹き飛ぶ二人。したたかに地面に叩きつけられてしまった。


「……カミラっ!」


「うんっ!」


 飛ばされた位置的に自分はザガーモへ、カミラがコーガの方へと駆け出す。幸いにもヒュドラからはそれ以上の追撃がなかったため、互いに二人の元へと即座に辿り着く。


「ザガーモ!大丈夫か!?」


 ヒュドラの方へ意識を向けながらザガーモに声をかけるものの、地面に叩きつけられた際に頭を強く地面に打ち付けたのか返事は無い。コーガの方へ駆けつけたカミラの方に視線を向けるが向こうも気絶しているのかコーガに向かって声をかけているようだ。


「……まずいな。二人が欠けた状態ではこいつの相手は難しいぞ……」


 ザガーモを庇うように前に立ち、剣を構えながらどちらに狙いを定めるかのように首をうねらせて威嚇している赤ヒュドラを睨みながら思わずそうつぶやいた。


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