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108話 ハイン、成長を実感する

「……あぁ。それで構わねぇよ。あと残りの首は三つだ。今お前も見た通り、真ん中の首は毒液を放つ。他の二つは大丈夫だとは思うが油断は出来ねぇ。警戒して仕掛けようぜ」


 コーガの隣で自分も剣を構えながら言う。その間にザガーモとカミラもこちらに駆け寄ってきた。ザガーモが自分に声をかけてくる。


「これで首はあと三つか。ハイン、お前の言っていた毒液を吐き出せるタイプのヒュドラみてぇだな。……他の首も同じ芸当が出来んのか?」


 ザガーモがヒュドラから視線を外さぬままこちらに問いかけてくる。


「いや、分からねぇ。一つの首だけが出来る時もあれば複数の首が出来る場合もある。毒や炎のブレスを吐くタイプのヒュドラもいるからそれに比べりゃこいつはまだマシな部類だけどな」


 そう言って他二つの首を見る。こちらに威嚇の構えを取ってはいるが、見た感じでは毒液を吐き出す様子は見られない。あくまで推測だが、他の首は毒液を吐けないと予想する。


「……コーガ、仕掛ける前に一つ聞くぞ。お前、『解毒(キュアー)』や『防御障壁』は使えるか?ザガーモもだ」


 自分の質問に二人が答える。


「……使えねぇ」


「……俺もだな。『回復(ヒール)』は一応使えるがカミラやお前の様には上手く使えない。悪いが気休め程度の治癒力と思ってくれ」


 二人の回答に了解、と頷く。戦闘スタイルから予想してはいたが二人とも根っからの近接攻撃タイプだ。カミラは完全に防御タイプのため、自分が言わずともサポート役に徹してくれるだろう。


「分かった。ならアタッカーはお前ら二人に任せる。毒液を吐く首にだけ気を付けて他二つの首を仕留めてくれ。肝心の首は俺がどうにかする。頼むぞ」


 自分の言葉に二人が頷くのを確認する。同時に詠唱を開始する。


「【疾き精霊よ。汝の疾さを我が命にて貸し与えん】『速度強化』」


 まずはコーガに、続けてザガーモに強化魔法をかける。


「なっ……」


 突然自分が強化魔法を唱えた事にコーガが驚きの表情を浮かべる。


「……凄ぇなハイン。お前、補助魔法まで使えるのかよ」


 自分にかけられた加護の効果を確認しながらザガーモが言う。きっといつか必要になると思い、プランやルーツに教えを乞い覚えた甲斐があったというものだ。当時の記憶が蘇る。



『うふふ……ハインさまとても優秀……教えがいがあります……こ、このまま次はベッドで私へ個人指導までよろしくお願いします……』


『プ、プランさんそれは流石にまずいかと……でも、本当凄いですねハイン先輩。この短期間で僧侶クラスでもないのに補助魔法をここまで使いこなせるようになるなんて思いませんでした』


 プラン一人に頼めばプランが暴走すると思い、ルーツにも声をかけたのは今思っても英断だった。ヤムから新人育成クエストの一部始終を聞いていたお陰でプランもルーツに対して敵対心を抱くこともなく、二人で自分へ真摯に補助魔法の習得のコツを互いの視点から的確に指導してくれたのも大きかった。


(……二十五年前の俺は、補助魔法どころか回復魔法すらろくに学ぼうとしなかった。隊士として施設にいるうちに学べることは一つでも多く学んでおかないとな)


 結果として今回の任務でいきなりその成果が表れたことに、改めて二人に心の中で感謝する。


「まぁな。……とは言っても流石に僧侶クラス程の効果や持続時間はないからな。短期決戦で仕掛ける時の補助ぐらいに捉えておいてくれ」


 自分の言葉にザガーモが頷く。その横でコーガがぼそりとつぶやく。


「……礼は言わねぇぞ。こんな補助、なくたって余裕なんだからな」


 憎まれ口を叩きながらも、自分にかかった加護の効果を確かめるようにその場で剣を振るコーガ。


「いらねぇよそんなもん。さ、今はとにかくあいつを一刻も早く仕留めようぜ」


 自分の言葉に二人が身構える。次の瞬間先に動いたのはコーガだった。


「言われなくとも……やってやるよっ!」


 早い。今しがた自分がかけた身体強化の効果を差し引いてもかなりの速度だ。負けじとザガーモがそれに続く。


「おらよっ!」


 コーガを狙おうとするヒュドラの首を牽制しつつもその首に一撃を放つ。手傷を負ったヒュドラが痛みのため咆哮をあげながらのけぞる。間髪入れずにコーガが狙いの首へと技を放つ。


「『絶滅(ディストラクション)』!」


 コーガが叫ぶとほぼ同時に、高音を放ちながら剣先から放たれた一撃がヒュドラの首を盛大に弾き飛ばした。次の瞬間にはヒュドラの血と体液が吹き出す。返り血を浴びながらも動じる事なく地面に着地したコーガが残りの首に向かって体勢を整える。


『———!!!!』


 残り二つとなった首からは痛みと怒りが混じった咆哮があがる。同時に真ん中の首からコーガに向かって勢いよく毒液が放たれる。


「くっ……!」


 咄嗟に回避をしようとするコーガ。だがそれよりも早く、自分がヒュドラとコーガの間に立ち、即座に詠唱を唱える。


「『防御障壁』!」


 コーガに向かって放たれた毒液が防御結界に弾かれる。すかさず剣を構え、更に毒液を吐こうとする最後の首に向かって剣を構える。


(次の毒液を吐き出すには時間がかかる。その前に……仕留めるっ!)


 魔力を剣に込め、首を狙って技を放つ。


「風の化身よ!渦巻き貫け!『旋風斬(スパイラル・ブレード)』!」


 バネのように渦を巻いた風の刃がヒュドラに向かい、突き刺さると同時にヒュドラの首を削り取る。やがて回転が収束し、ヒュドラの首を完全に吹き飛ばした。


「ふう……。久しぶりの技だったから少し不安だったがどうにかなったな」


 自分が体力的にも技術的にも成熟していた時に編み出し使っていた技であったが、今の自分でも発動出来たことに安堵する。とはいえ、威力は全盛期の六割程度ではあったが。


(当時の俺じゃ使うには到底無理な技だからな。ひとまず問題なく発動出来たってだけでも成長しているって訳だ)


 そう思い無事にヒュドラが絶命している事を確認し、コーガ達の元へと戻る。


「流石だなハイン。今の最後の一撃なんざ凄かったな。よくあんな威力の技を瞬時に発動出来たな」


 ザガーモがこちらに駆け寄り開口一番に自分に声をかけてくる。後ろにいるコーガが呟くように言う。


「……お前、得意属性は『風』なのかよ?」


 放つ技の系統から見ても、コーガの使う技の属性が『風』メインなのは明白だ。先程の自分の技を見て聞かずにはいられなかったのだろう。だからこそ素直に答える事にする。


「いや、一番の得意属性を言うなら……『炎』だな。火属性に偏っちゃいけねぇから今回は発動時間が早い『風』を今回は使ったまでさ」


 そう言うとコーガが少し驚いた表情を浮かべる。……これでいい。たとえコーガが過去とは違い自分を嫌う対象になってしまったとしても、努力によって己をより高める対象があればある程コーガが強くなる事には違いないのだ。


「……後で、少し話を聞かせろ」


 そうコーガが言ったその時、カミラが気絶していた隊士を連れてこちらに駆け寄ってきた。


「三人ともお疲れ!彼も無事意識が戻ったよ。傷も毒も完全に治癒したから大丈夫!これで……」


 カミラがそこまで言ったその時だった。全員が即座にその気配を感じた。同時に、耳をつんざくほどの大きな咆哮が聞こえた。


『——————!!』


 その声の方に皆で一斉に振り返る。程なくしてその声の主が姿を現す。


「なっ……」


 思わずコーガが声を漏らす。続けてザガーモが口を開く。


「マジかよ……こいつが言っていた奴かよ……」



 ……そこには、先程までのヒュドラ達の比ではないサイズかつ、赤黒い色をしたヒュドラが立っていた。


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