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105話 ハイン、疑念を晴らす

 ザガーモの言葉に一瞬場が沈黙に包まれる。少しの間を置いてカミラが冷静な口調で口を開く。


「……うん。確かにハイン君の説明、特徴や対処法も今聞いた感じ、これ以上ないってぐらい的確だよ。施設にある資料じゃなくて実際にヒュドラと対峙した事がなければとても分からないレベルの知識量だよ。ハイン君、特級に上がる前にそんなにヒュドラと対峙した経験があるの?」


 二人のこの反応は予測していた。確かに特級に上がり立ての自分が、特級でも一部の隊士を除いて未だ相手をした事がない魔獣に対しての対策を流暢に話せば怪しまれたり不思議に思われて当然である。だが、それを承知の上で二人に話したのだ。


(……そう思われるのは百も承知だ。だが、戦う前に二人が最初からヒュドラに対して注意点や対処法を把握していれば万一自分たちだけでなく、他の隊士に何かあった時にスムーズに対応出来る。自分一人だけじゃなく三人が不測の事態に対応出来る状態なら何か起きても色々な意味で事を有利に運べるはずだ)


 二人が訝しむのは当然だ。だが、今のうちにここでヒュドラに挑む前に伝えておかねばならなかったのは事実だ。なので、嘘の中に真実を混ぜて二人に話す事にする。


「……あぁ。上級時代に偶然、ヒュドラと戦う機会があったんだよ。野良パーティーの集団クエストでな。高難度クエストに参加した際、ヒュドラと対峙した時に経験者の他のクラスの隊士にヒュドラとの戦い方や注意点を色々教わったんだ」


 二人に向かってそう話す。嘘は言っていない。事実、二十数年前の当時、野良パーティーを組んでクエストに出た時に本来の討伐目的である魔獣を探していた際にヒュドラと初めて遭遇し、目的の魔獣と一緒にヒュドラを討伐したのは紛れもない事実である。


(……もっとも、それを実際に体験したのは当時も特級に上がってからだったんだけどな)


 特級に上がり、高みに上り詰めるべく試行錯誤をしていた時に経験を積むべくSランクのクエストの中でも難関とされる超高難度のクエストを受けた時に自分は初めてヒュドラと遭遇した。


 その際にパーティーを組んだ他クラスの特級の三名の隊士は既に全員過去にヒュドラと対峙、および討伐経験があったため、自分に親切に対処法や攻略法を教えてくれた。私利私欲に走りがちな野良パーティーでのクエストの中で、まだ特級としては駆け出しの域を出ない自分に対して様々なアドバイスを与えてくれたため印象に残っている。その後、自分がソロでヒュドラの討伐クエストをソロで成し遂げられたのはこの時の経験があったからだと今でも思う。


(……そういや、あの三人はこの時代も特級クラスにいるんだろうか。もし今も在籍しているならいつか会えるだろうか)


 話しながらそんな事を思っていると、ザガーモとカミラが自分に声をかけてくる。


「なるほどな。過去に既にヒュドラとやりあった事があるって事か。どうりで具体的に話せるわけだ。いや、気になったから思わず聞いちまったんだがそれなら納得だ」


「そうだね。……でも凄いねハイン君。特級に上がる前にそんな体験が出来ているなんて。噂通り……いや、噂以上のルーキーだね」


 二人の様子にこちらの発言を怪しむ様子は見受けられないため、ひとまず安心といったところか。


「分かって貰えたらなら良いさ。……それより、そのルーキーっていうのをいい加減止めて欲しいんだけどな。今は同じ特級クラスの仲間なんだからよ」


 自分の言葉に二人が笑う。実際はルーキーどころか四十路のおっさんなのだが。


「そうだな。悪い悪い。んじゃハイン。さっきのヒュドラの対策に関してなんだが、もう少し聞かせて貰っていいか?」


「あ、僕も詳しく聞きたい事があるんだけど良いかな?毒液を浴びた時の対処法なんだけど……」


 こうして、二人に自分の持てる知識を最大限に伝えてヒュドラ討伐に向けて動き出した。



「……お、やってるな。見たところ苦戦している様子もないし、あいつらはこのままスルーして大丈夫そうだな」


 ザガーモの視線の先には平地でヒュドラと戦う二人の隊士の姿があった。ザガーモの言葉通り、首の数も少ないし個体値的にも小さめなヒュドラだ。立ち回りを見る限り、あのまま二人で問題なく仕留められるだろう。


「……だな。下手に手を貸して文句を言われる事もないし俺たちは他のヒュドラを探そう」


 自分の言葉に二人が頷いたのを確認し、次の出没箇所へと向かう。二十分ほど歩いたところで次の出没箇所へと辿り着く。


「……ビンゴ、だな。残念ながら目当ての赤い奴じゃねぇけどな」


 ザガーモの言葉に視線を向けると、水辺で小型のワームを捕食している四つ首のヒュドラがいた。周りに他の隊士の姿は見当たらない。


「どうする?僕たちが仕留めなくてもいずれは他の誰かが仕留めるとは思うけど……」


 カミラが剣を構えながら言う。


「そうだな。目的は別として、他に誰もいないなら殲滅のためにここは俺たちで始末した方が良いだろう。俺たちの互いの実力や連携を今のうちに試しておいた方が後々楽だろうしな」


 二人が当時からペアで組んでいた事は知っているが、あえてそう口にする。


「へっ。心配すんなってハイン。これでも俺たちゃ割と場数を踏んでいるんだぜ?」


 ザガーモがそう言うと、カミラもそれに続く。


「うん。僕たちは割とペアでクエストに行く事が多いからね。ハイン君を含めた三人の連携を今のうちに精度を上げておこうよ」


 初めて対峙するであろうヒュドラを目の前にしても全く臆することのない二人。これなら大丈夫だろう。


「……だな。それじゃ、三人での初討伐といきますか」


 そう言って気配を殺し、ヒュドラの元へと向かった。


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