103話 ハイン、仲間が出来る
自分たちどころかワームの群れまでもが動きを止めるぐらいの怒号に近い形のコーガの叫びに周囲の空気が震える。その勢いのままコーガが更に叫ぶ。
「自分たちの損得やノルマの事しか頭にねぇんなら、とっとと施設に帰るか教官のご機嫌取りでもしてろ!俺はそんな奴を勇者とは思わねぇけどな!」
コーガのその言葉に、渋々ながらワームの討伐に参加する者、それでも頑なに己の回避に務める者には分かれたが、それによってワームの群れの殲滅作業はスムーズに行われた。
「うむ。これでひとまずこの場所に出没していたワームの殲滅は完了だな」
誰よりも多く、かつ早くワームを仕留めていたテートがワームの返り血を拭いながら言う。
テートが一番多くワームを仕留めたのは誰の目から見ても明らかではあるが、それを鼓舞する事もなく淡々とそう話すテート。やはり自分にとって越えねばならぬ存在であると改めて実感する。
(……やっぱり現時点ではテートの首席の座は揺るぎねぇな。この時点で既にこれだけの実力を付けていたのなら、当時自分が頑張っても追いつけなかった訳だ)
当時の自分はもちろん、コーガを含むクラスの面々も首席になるべく必死に上を目指したが、僅かに及ばずテートが首席の座を保ったまま卒業となった。
(当時、俺はこのクエストには参加していない。……なら、ここでも何かが変わるかもしれねぇな)
そんな事を思っていると、コーガが自分に向かってぼそりと言った。
「……とりあえず、口だけの奴じゃねぇって事は認めてやるよ」
それだけ言ってすたすたとその場を離れるコーガ。先程のワームの群れとの戦いを見たからか、どうやらただの『成り上がり』ではない事は理解してくれたようだ。
(……とはいえ、あの口ぶりじゃまだ昔のようにはいかねぇよな。これからの間にあいつに自分を認めて貰えるようなチャンスがあれば良いんだがな)
次の出没場所に向かおうとした時、不意に声を掛けられた。
「よう。さっきは助かったぜ。ありがとな」
「ぼ、僕も助かりました。お陰で一体だけですが、自分だけでワームを倒せました」
その声に振り返ると、先程自分がアドバイスをした二人だった。……誰だろう。さっきは戦いながらの咄嗟のアドバイスだったため顔を見る程の余裕がなかったのだが、二人ともどこかで見た面影がある。
「……あぁ。別に大した事じゃねぇよ。二人とも無事で何よりだ」
自分の言葉に二人が更に言葉を続ける。
「お前の話は聞いてるぜ。飛び級からの混合試合準優勝、推薦クエストやあのムシック教官の無理難題を経て鳴り物入りで特級に来たルーキーだってな。俺はザガーモ。ザガーモ=ブイファだ。よろしくな」
「ぼ、僕も噂には聞いていました。噂通りの強さと知識なんですね。僕はカミラ。カミラ=イルハです。よろしくお願いします」
……二人の言葉に一瞬言葉に詰まる。二人にどこか面影があったのも納得する。
ザガーモもカミラも、当時自分が特級クラスに入った時には既に華々しい活躍をしていた面子だったからだ。だが、二人の見た目が当時とは似ても似つかなかったため、思わず二人の顔を二度見した。
(マジか?……俺の当時の記憶だと、ザガーモはつるっつるの坊主頭だったし、カミラは前髪も顔が隠れるくらい長くて肩まで伸びた長髪だったはずだ)
今自分の目の前で双剣を腰に構えるザガーモは長髪で襟足は背骨まで届くのではと思うくらいの長さだし、バスタードソードを重そうに背負うカミラは長髪どころか額が見える爽やかな短髪だ。二人とも当時のイメージとは似ても似つかない。
(……俺が当時特級に上がる前に、二人に何があったんだ?……いや、今はそんな事はどうでもいい。今はとにかく同チームで仲間が出来た事を歓迎すべきだ)
しばしの間無言になった自分を怪訝そうに見ている二人に言葉を返す。
「……こちらこそ、よろしくお願いします。改めて名乗らせて貰います。自分はハイン。ハイン=ディアンです」
そう言うとザガーモが笑いながらこちらに声をかけてくる。
「ははっ、無理すんなよハイン。わざわざ敬語で話す事なんかねぇよ。さっきみたいにタメ口でいこうや。とにかくお前さんの実力は噂通りっていうのはさっきので充分分かったよ。ここからはチーム戦のために協力しようや」
ザガーモがそう言うと、カミラもそれに続く。
「ぼ、僕もタメ口の方がいいな。その方がお互い気楽だし。よろしくね、ハイン」
二人の言葉に安堵する。当時も自分が特級に上がった時にテートほどまではいかなくとも、よく声をかけてくれる面子の中の二人であったからだ。当時をふと振り返る。
『ハイン。お前、筋が良いな。剣に魔法を込める速度と精度が段違いに速い。それを更にしっかり磨けよ。きっとお前の武器になるぞ』
『ハイン君。君は普段どうしても『火』の属性に偏りがちだね。悪いことではないけど、もっと他の属性を使い分けるようにしておいた方が後々便利だと思うよ。君ならどの属性も上手く使いこなせそうだけど……そうだね、僕からは『風』あたりがおススメかな。君の剣技と相性が良さそうだしさ』
前線にどんどん真っ向から飛び込み、戦果を挙げていくタイプのザガーモと大剣を攻撃よりも防御寄りに用いて冷静に状況確認をし、正確なサポートによって評価を得ていくタイプのカミラ。正反対の二人は仲が良く一番多くペアで行動していた。たまに共にクエストに一緒に参加をしていた時はよく二人に的確なアドバイスを受けた事を思い出す。
「……じゃあ、お言葉に甘えてそうさせて貰うことにするよ。よろしくな、二人とも」
何にせよ、これでテート以外、しかも今回の任務で同チームで共に行動する仲間が出来たのは助かる。
チーム一丸という形は先程の様子ではおそらくどちらのチームも不可能だろう。そうなれば一人で行動するよりも意見のすり合わせの必要はあるだろうが複数で行動した方がメリットも大きい。
(何にせよ、これで少しは光が見えたな。これからだ)
任務序盤で図らずも仲間が出来た事に心の中で一人再度安堵した。




