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102話 ハイン一同、対抗戦開始

 翌日、施設を出てチームごとに分かれて集合場所へと集まった。道中、チーム毎で互いにどう動くか話しあう者たち、誰とも会話を交わさぬ者に分かれていたが、集合場所に近付くにつれて皆自然と無言になっていった。到着するとムシック教官が待っていて開口一番に言った。


「うん、皆時間通りに到着だね。素晴らしい。それではこれからチーム対抗戦という形で今回の任務に挑んでもらうわけだが、スタート地点だけは皆同じ場所から始めてもらう。昨日街の代表者から出没地域の場所を聞いたから頭には入っているだろう?ここから一番近い出没場所に向かい、そこにいる魔物を殲滅。そこから対抗戦スタートとさせて貰おう。君たちの動向や成果はどこにいようが私と彼が把握しているからそこから先は好きに動くといい」


 ムシック教官がそう言って例の教官を指差す。相変わらず言葉を発する事なく腕を組みこちらを一瞥したかと思うとまた下を向く。彼が何も言わないのを察したのか引き続きムシック教官が話を続ける。


「うん。では我々は影から君たちの動向を見守ろう。大きなトラブルが起きない限り、私たちは殲滅完了まで口も手も出さずに粛々と成果をカウントするからそのつもりで動くように。それじゃあ検討を祈る」


 そう言ってもう一人の教官と瞬時に姿を消すムシック教官。皆もその様子を察したのかそのまま代表から聞いた最初の出没箇所に全員で向かう。聞かされていた出没場所に近付いたその時、自分とほぼ同時に気配を察したテートが口を開いた。


「……いるぞ。気を付けろ」


 テートの言葉で皆の空気が張り詰める。気配を殺し少しずつ前進し、物陰から様子を伺う。


「……ワームの群れだな。見た感じあの中にヒュドラはいないようだな」


 無数のワームの群れが互いに小競り合いをしながら暴れている。どうやら縄張り争いのようだ。ワーム同士が暴れる中、周囲の建物や壁がなぎ倒されて壊れていく。


「目当てのヒュドラではないが、このままにはしておけんな。殲滅といこうか」


 テートの言葉に自分も頷く。別チームではあるが自分も含めてテートの言葉に皆が反応する。やはりテートには人を率いるカリスマ性があるのだろう。


「……そうだな。まずは前哨戦といこうか」


 そう言って自分も戦闘に向けて剣を抜き身構える。それに倣い何人かも戦闘準備を始める。


「では、ここからはチーム戦という事でお前ともライバルという訳だな。では……俺が先陣を切らせて貰うぞハインっ!」


 言うと同時にテートが長剣を構えて駆け出した。間髪入れず自分も含め数人がワームの元へ同じく駆け出す。


「ふんっ!」


 テートの勢いよく振りかざした長剣の一撃が一体のワームを二つに分断する。


「『螺旋斬(ヘリックス・ブレード)』」!


 自分も負けじと風の刃でワームを切り裂きながら周囲を確認する。皆それぞれの技でワームと対峙している。テートの様に難なくワームを仕留めていく者たちの中、相性が悪いのかワームの動きに慣れずにやや苦戦する者もいた。自分が切り裂いたワームが絶命したのを見届け、そっちに駆け出す。


「くっ……!」


 ワームのしなる様な一撃を剣でどうにか受け取めながらのけぞる隊士を咄嗟に支えて声をかける。


「慌てるな!中途半端に距離を置かずにまずワームの懐に潜り込むように動くんだ。胴体が長いぶん、地面に接した部分を常に意識しながら攻めろ」


 それだけ伝えてまた別の方向に向かうと、両手に剣を持った隊士がワームの頭の部分を斬り落としていた。


「よっし!まず一体目!」


 そう言って斬り落とした頭に背を向け、次のワームに狙いを定めようとしている彼に向かって叫ぶ。


「……危ねぇ!下がれっ!」


 不意に叫ばれた事に驚いたものの、自分の言葉に反射的に彼が飛び退く。次の瞬間、先程まで彼がいたところに斬り落としたはずのワームの首が伸びてきた。それが最後の足掻きだったとみえ、今度こそ本当にワームが絶命した。


「なっ……」


 驚いた様子の彼に声をかける。


「危なかったな。ワームは生命力が強いからすぐには死なねぇんだ。今みたいに最後に首だけで最後の抵抗をする事があるから頭を叩き潰すとかでもなければある程度の距離をすぐ取った方がいいぜ」


「あ……ありがとな。助かったよ」


 そう自分に声をかけてきた彼に無言で頷き、自分も次のワーム討伐作業に戻る。


「……炎よ!剣に宿れっ!」


 『炎』の属性を剣に纏わせ一体のワームに狙いを定める。即座にワームに技を放つ。


「炎の化身よ!我が刃に宿れ!『炎撃斬(フレイム・ハザード)』!」


 刀身から放たれた炎の斬撃でワームの上半身を消し飛ばす。完全に絶命したのを確認してから改めて状況を見渡す。仕留めていく間に違和感に気付く。


(……おかしい。テートをはじめ、特級の面子がこれだけ揃っているならこの程度のワームの群れならもうそろそろ全ての群れを仕留め終わっていてもおかしくねぇ。ヒュドラもいないのになんでだ?)


 そう思い周りを見ると、その理由が分かった。


「……ほっ」


「……ふん」


 自分と相手チームの面子を問わず、何人かの隊士がワームをまともに相手にしておらず、攻撃が自分に向かった時のみ回避するような形で討伐に加わっていないのが分かった。そこで彼等の狙いを把握した。


(……あいつら、ワーム程度の相手じゃ仕留めても大した戦績にならないと思ってやる気がねぇのか、この後の大物狙いのために体力か魔力を抑えているのかのどっちかだな)


 あくまでノルマや戦績はこちらの方で勝手に設けた事であり、自分に無念を訴えてきたあの子や街の住人の被害を食い止めるために一刻も早くこの街を平和にしなければならない。それだというのに自分の事を優先している連中に苛立ち、そいつらに怒鳴ろうとした。


「おい!お前ら……」


 だが、自分より一瞬早くそんな連中に叫んだ者がいた。


「おいテメェら!何もしねぇで避けてばっかりいるんじゃねぇよ!それでも本当に勇者クラスの特級か!?数値や成績だけが大事なら引っ込んでろ馬鹿野郎!」


 周囲の面々が思わず動きを止めるほどの大声でコーガが絶叫した。


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