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1話 おっさん勇者四十歳、ラスボス手前で過去へと戻される

ご覧頂き、ありがとうございます。

以前に書いた短編を連載形式にして加筆修正しております。


不定期更新となりますが、読んでいただけましたら幸いです。

「……ここまでだな、魔王。お前たちに殺された仲間の(かたき)や罪もない人々の無念……今、ここに晴らさせて貰うぞ」


 そう言って俺は、目の前の首だけとなり、もはや虫の息の魔王に向けて、自身も傷だらけのまま痛みに耐え、剣を振りかざした。


『転生』。――生まれ変わること。次の世で別の形に生まれ変わること。――


 辞書を引けば、誰でも分かる言葉だ。それは自分だって理解している。

 ……だが、それがいきなり自分の身に降りかかるとなれば、話は別である。


 しかも、それが世界を救おうとする、最後の最後の瞬間であれば尚更である。


「……何だよ、これ。何なんだよ、一体……」


 今の今まで憎き魔王の首に向かって、剣を突き立てんとしていたはずの自分の右手は、空しくベッドの上で高々と掲げられていた。


 俺の名前は、ハイン=ディアン。齢四十になる勇者である。

 勇者として様々な修練を重ね、長きにおける旅の果て、数々の出会いと別れを繰り返し、共に旅した多くの仲間たちの犠牲を乗り越え、遂に自分の剣は憎っくき魔王に届き、その首を胴体から跳ね飛ばした。


 これで全てが終わる。あと一息で世界に皆が望んだ平和が訪れる。

 ……だが、魔王は死ぬ前に、最後の最後で奥の手を放った。


時空転移(メタスシス・デジョン)』。対象者を自らも分からぬ次元の狭間に放り出す、禁断の魔法。

 何故、これが禁断と言われているかというと、時空を歪めてしまう規模の魔法のため、唱えた方にも大きなリスクを伴う諸刃の剣のような呪文であるからだ。

 ……そして、よりにもよって魔王は死の間際にその呪文を唱えたのだ。


 もはやこれまで。どのみち、どうせこのまま死ぬのなら、せめて最後にこちらへ一太刀浴びせてやろう、という程度のイタチの最後っ屁のようなつもりで唱えたのであろう。

 ……そして、その魔王の嫌がらせは皮肉にも、最高の形で成就することとなった。

 かくして自分は、前世での記憶と知識を引き継いだまま、二十五年前の世界に強制転移されることとなった。



「……うわぁ、本当に俺、十五、六の頃に戻っているんだなぁ……顔の傷も、魔獣に裂かれた腹の傷も、何もかも綺麗になくなってらぁ……」

 ひとまずベッドから飛び起き、頭から冷水をかぶり、シャワーを浴びて自分の身体を鏡で見て改めて実感する。


 まだまだ自分が若く未熟な頃に、止めを刺し損ねた魔獣の爪の一撃を受け、引き攣れの痕が残った脇腹も、ある剣士との戦いの果てに付いた顔の切り傷も、全て消えている。鏡に映る自分の姿を見て冷静になり、自分がどの頃に戻されたのかを改めて頭の中で整理する。


 ……早くに両親を亡くした自分は他に身寄りもなく、頼れる者もいないため、孤児院に引き取られることとなり、そこで育てられた。

 孤児院の中では着るものも食べるものも満足に支給されているとは言いがたく、自分よりも幼い子らの食い扶持を少しでも増やすためと、自身が食いっぱぐれることがないように、と自ら魔王討伐の志願兵へと入隊した。


『魔王討伐隊』。国を守るための兵士としてではなく、魔王を倒すための隊士を育てるための施設である。

 そこでは入隊時に数々の適正検査と訓練を受け、勇者だけではなく戦士や魔法使い、僧侶に司祭など、魔王討伐のために数々のクラスの隊士を育成するための場所であった。


 育成、と言えば聞こえは良いが、強大な存在である魔王を前に、絵本のようなおとぎ話のように伝説の勇者やその仲間たちのような存在がそうそう簡単に現れる訳もなく、魔王やその配下の前に、数々の勇者や戦士たちはその命をことごとく散らされている現状であった。

 施設で修練を積む日々の中で、施設から旅立つ先輩勇者たちのその後の知らせの中身は吉報よりも訃報が圧倒的に多かった。

 その知らせを耳にしつつも、自分たちは日々の訓練に明け暮れ、次々と隊士が育てられていった。


『下手な鉄砲 数打ちゃ当たる』の精神とまではいかないが、現状魔王に歯が立たないまでも、手当たり次第に国で育てた隊士のその中に、もしも魔王を倒せる者がいたなら儲けもの、のような感じで様々なクラスの育成を次々に国で行っていた。

 皮肉なことに、訃報が届けば届くたびに志願兵の数は増えていった。


 志願兵となれば、旅立ち後の命の保障はないものの、それに応じれば旅立ちまでの衣食住は国から完全に保障され、戦果を挙げれば手厚い手当てが支給されるということもあり、自分のような身寄りのない者や、日々の暮らしもままならず明日の食事にも困窮する者、魔王を倒して一山あててやろう、という野心を持つ連中で主にこの施設は形成されていた。


 孤児院の皆に別れを告げ、施設入隊時に行われた適性検査で、『剣技及び、魔法の素質有り』という判定が出されたため、自分は勇者育成クラスへの入所が決まったのだ。

 当時十五歳。およそ二十五年前のことであった。


「……マジかよ。俺の苦節二十五年の時間が、無かった事になって全部やり直しかよぉ……」


 まだ体を拭いていないため、体中から水滴が滴り落ちる中、俺は全裸のままで頭を抱えてシャワールームで一人うずくまった。


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