第二話 鋼の完成
前世の頃の俺、伊回幸雄には、仲のいい友達なんていなかった。
家族とも不仲だった。
友達を作ろうとしたことはあったんだよ。
人と喋ることは楽しいし、木彫りのクマに話しかけるのとは違った良さがある。
でも、それも中学まで。
高校に入ってすぐのこと。
声がでかいイケメンのクラスメイトに因縁ふっかけられて、喧嘩、というか……
一方的にボコボコにされた。
空手だか柔道だかをやってたらしい。
涙を呑んでそこで終わらせとけばよかったんだけどね。
ちょっと悔しくて、後日、挨拶するとみせかけて、たまたま家で捕まえたゴキブリをそいつの顔面に投げつけようと試みた。
あ、もちろん俺は手袋をしていた。
汚いから。
仕返しに、ちょっとビックリさせよう、くらいの軽い気持ちだったんだ。
後から思うと、別に仲良くもないのにこんな悪戯仕掛けるのは頭がおかしいとしか言いようがないんだけどね。
で、朝のホームルーム前、登校してすぐ、そいつの近くに行って、ゴキブリを投げつけたんだ。
だがその時!
俺の手元の狙いがずれた!
そのままゴキブリは、隣の女子の首元に飛んでいき……
ーーーーーー制服の中に入った。
彼女は泣いた。
俺は、謝罪のために土下座しよう……としたところで、イケメン君に再びボコボコにされ、言い訳も謝罪もできなくなってしまった。
言い訳に関しては意味ないだろうが、謝罪くらいはその場でしたかった。
こうして俺は一人になった。
「あいつマジで最低だよね〜」
「○○ちゃんかわいそう。あんなの一生のトラウマだよねー」
「関係ない女子に八つ当たりして泣かすとか……ホント人間のクズ……! 」
でも今思うと、成功してちゃんとイケメン君に被弾したとしても、どうせハブられるようになったと思うんだよな。
彼、人気者だったし。
被害者の女子生徒にはホントに申し訳ないと思う。
とにかく、俺は懺悔の意味も込めて嫌われることを受け入れ、休み時間は読書か昼寝に注力。
授業でペアを作る時とか、女子に悲鳴を上げられるたびに傷を負い続けた。
物隠されたりとかのいじめ行為もあったけど、それは先生にチクリまくってたら止んだ。
嫌われるだけなのと、実害が出るいじめは流石にね、区別しないと。
それがボッチに拍車をかけたんだろうけど。
ただ、そんな生活を三年近く続け、分かったことがある。
それは、孤独であることは不便だが、それ自体は辛いものではない、ということ。
クラスでの班作りとかは大変でも、休み時間に一人で読書するのは楽しい。
ぼっちをバカにされるのはムカつくが、友達がいないことは別に悲しくない。
……負け惜しみみたいで虚しいが。
周囲の視線や意見も、時間が経てば全く気にならなくなった。
悪口を言ってる奴らに、わざと親しげに話しかけてみた時はすごい面白かった。
我ながら、なかなかいい性格してるな……
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人格が変わったからか、苦痛の記憶しかない朝食も、純粋に味を楽しめている。
けっこう美味しい。
「ーーーーそれで、ダリオルドはもう中級魔術が使えるようになったのか。 やるじゃないか。我がローライト家を任せられるのは、お前しかいないようだなッ!」
父であり、現ローライト家当主であるルドルフが、俺の弟を褒める。
「いえ、私はまだまだですよ、父上。まあ……天才という評価をいただくことは多いので、ローライト家はぼくに任せてください。」
「その年でその才能なら驕り高ぶっても仕方がないものなのに……なんて謙虚なんだッ……!」
謙虚か……?
「ところで、ベリオルド兄様はそろそろ初級魔術はできるようになったのですか?」
「ハッ……! 聞くだけ無駄だろう。 そこの無能が何年初級魔術に時間かけてると思ってるんだ。そもそもがカスみたいな魔力しか持ってないんだからな。初級魔術が満足にできても、中級魔術は練習すらろくにできない。」
うむ、全くもってその通りだ。
モグモグ……。
「なんとか言ったらどうなんですか、兄上? ......あれ? ......いつもならそろそろ癇癪を起こして逃げていくのに、今日はずいぶん耐えるんですね? 成長しました?」
なんというか……弟の性格がとても歪んでいる……
これは……家庭環境のせいですね、かわいそうに。
「モグモグ……そうですね……ゔ、ゔんッ……ゴクッ…… 少しでも成長したと思われたならよかったです」
「口にものを入れたまま喋るな、下品な。貴族の恥め……!」
これもその通りだ。
なんかすみませんね……。
うん、ご馳走様でした。
「では、私は失礼します。」
腹も膨れたし、さっさと退出しよう。
転生後はじめての朝食、味は良かった。
……空気は悪かったけど。




