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8.興味が無いわけでは無い

宜しくお願いいたします。

 王都から徒歩で行ける場所にある初心者向けの迷宮の前の列に、ロアとミトは並んでいた。

 

 シンプルな門と木製に見える扉。ソコに続く一間程の石造りのポーチ。それが迷宮の入口だった。

 基本的に上級になるにつれて、門も扉もポーチも規模と装飾を増していく。あくまで基本的に、であって時にはあまりに簡素な外見で潜ったら上級冒険者でも対処出来ないようなドラゴンしか出てこない迷宮もあるので過信は出来ない。

 また中には門だけのものもある。

 

「ここは個別迷宮でしたっけ?」

「ああ」


 迷宮には大きく分けて個別型と統合型とがある。

 個別型は入るパーティー毎に同じ迷宮であるのに別の空間に繋がる。僅かな時間差で入っても他のパーティーに出会う事が無い。

 これが最もよく見られる迷宮だ。


 統合型の迷宮は外と同じように皆同じ場所に行く事になる。当然獲物などは早い者勝ちの場所だ。しかし発生する魔獣の数や種類、環境などが中に入った人数によって変わる事がある為、入った瞬間に個別型と同じように空間が発生しているものの、統合されている為に一緒の場所に居ると定義する学者がいたため、その学説が広まって以来、統合型と呼ばれるようになった。

 統合型の迷宮は門だけの場合が多い。


 更に半統合型とも半個別型とも呼ばれる、ある一定の人数で分けられたり、入った人数を等分に分けて別れるものもある。後者では新たな人が迷宮に入ると、戦闘中でも別空間に急に投げ出される事もあり、入り口に監視が置かれる場合が多い。コチラは扉だけの場合が多い。


 迷宮の分け方には他にも、○○系資源、特殊、特化、等の持ち帰れる物による分け方や、洞窟、草原、海、城、遺跡、歴史、物語、等といった中の構造による分け方、更には樹系、岩系、水系、等と言った出る魔獣系統による分け方と多岐に及ぶ。


 今、二人が並ぶ迷宮は最も多い、環境持続型自然系の浅い迷宮だ。周囲の自然とほぼ同じ環境で、ただ魔物や魔獣の発生が外よりも多く、また階層があり、ある一定以上は歩き回れない見えない壁がある、という迷宮だ。浅く狭い階層のみの迷宮が殆どそうであるように、道もある意味単純である。真っすぐ行こうと思えば行ける。しかし周囲の茂みの影などに宝箱が潜んで存在して居たり、金貨や宝石といったものが木の洞の中に転がって居たりする。多くを得たければ、隅々まで探すしかないタイプの迷宮でもある。


 契約から三週間も過ぎ、そろそろ迷宮での動きも見ておこうという事と、ロアもランクが最低から一つ上がり、この迷宮の適性ランクになった事もあり来ていた。


 迷宮に潜るのにギルドの許可は必要無いが、一応ランク分けされているのは事故を少なくする為であり、最低ランクでは迷宮への潜行は推奨されていなかった。


 段々と近づいて来て、ロアはふと気になって門の上の部分を指さした。


「迷宮の名前って誰かが彫ってるんですか?」

「いや、出来たばかりは大抵探してもどこにもねぇが、冒険者が適当に呼び始めるとそのどれかが勝手に門や扉、足場の石とかに気付けばある。大抵はあんな彫り物だが、どこだったか扉にやたら装飾過多なプレートでかかってたとこもあったな」

「へぇ」

「門や扉、つか迷宮のもんは決まったもんしか人間が傷つけられねぇからな。入口も同じ仕様らしい」


 ふむふむと頷いくロアにミトは暇つぶしも兼ねて普段よりも丁寧に答えていた。

 まだ順番が来ない事を確認して、ロアは依頼書を取り出した。


 依頼内容は素材採取だが、少量ずつ多岐に渡る。横から見下ろしたミトは軽く眉を寄せた。

 細々した素材がそれぞれの量は多く無いがそれなりの数、リストになって並んでいる。


「ココは獲物は小型なら殆ど残るから、討伐系のは直ぐ集まるが、下層の樹木系は運だぞ?」

「今回で集まらなければ明日また来ます。幸い期限は長いですから」


 微笑み返されてため息を零す。こういう依頼は普通受けてから潜るのでは無く、他の依頼で端数が余っていて、更に討伐系が僅かに足りない位でくるものだ。


「どんだけ持ってる?」

「全く」


 ロアの所有する素材の豊富さを知っているだけに、もしかしたらあるかも、と問いかけるが所持ゼロと返されて、弱い敵しか出ない迷宮は面倒だとため息を零した。


「それにここの迷宮産限定って、書かれているじゃないですか。大丈夫ですよ」

 

 ニコリとのんきに言うロアにミトはまたため息を一つ零し、来た順番にロアを促した。




 一度閉じた扉を開くとそこには暗い闇が広がっている。

 大抵の冒険者は初見では戸惑うのだが、二人とも躊躇なくそこへと踏み入った。


 警戒を怠る事が無いのは時折入った瞬間に安全圏が無い迷宮が出る事があるからだ。幸い今回は問題無く、ただ森の一角に出た。振り返れば向こうの見えない扉がある。

 

 どうやって識別しているのか、パーティーを組んでいなくとも、一緒に行こうと互いに了承している間でしか同時に扉を通れない。これは他のタイプの迷宮でも同じだった。


 フードを下ろして周囲を確認した後、一度戻ってみようとするロアの首根っこをミトが捕まえる。


「一度出たら並び直しだ」

「あ、そうなんですね」


 仕組みを気になっていたロアは、それでは仕方ないと止めた。

 迷宮の扉を初めて経験したロアはその仕組みが気になりはしたが、今は依頼だと先に足を進める。


 目の前には森が広がっているが、ココは両手を広げると透明な何かに当たる。


 暫く進むと草が無くなり、土がむき出しになった場所があり、魔法陣が敷かれていた。


 ミトが踏むと微かに光り真ん中から四角柱の透明な何かが生えて来て、腰の位置で止まる。

 ロアが横に並んで見降ろせば、一から五の階層表示がされていた。迷宮はそれぞれによりこの魔法陣のあり方が違う。浅い迷宮なら各層にあり、深くなると五階層毎、十階層毎、となったり、攻略中の最も深い層からの十層だけが各層毎他は十層毎表示されるようになったりする。

 初級にも満たない初心者向けとされる迷宮は浅層構造で、各層の魔法陣が置かれている事が多い。


「俺が踏破してるから、最終階層まで出てる。まぁ、今は関係無い」

「こうなってるんですね」


 感心したようにロアは良い、その横を抜けて歩く。少し先に木の枝が絡まったアーチがあり、ソコに下へと続く階段が出来ていた。


「まずは一階層の採取に向かいましょうか」

 

 気楽に告げられる声にミトも魔法陣の上から出て続いた。



 それから暫く、四層に降りたったミトは身体的には全く疲れていないが心情的には疲れたため息を零した。


 ちらりと横を見れば相変わらず気の抜けたような、それでいて目を引く笑みを浮かべた横顔があった。


「では、待っていて下さい」


 そう言って歩いていく後ろ姿に軽い頭痛さえ覚える。いくらこの階層の魔物がコチラから手を出さなければ襲ってこないタイプのものだとしても、あまりに無防備過ぎる。

 力を入れれば一足で駆け付けられる距離で後ろをついていく。

 そこから繰り広げられる惨状に、軽く眉間を抑える。


「ある意味ひでぇ」


 ここに潜る前の下調べもしたのだろうが、ゆっくりと歩きながら時折立ち止まり、出て来る種別ごとに罠を張っておびき寄せて階層毎一網打尽にしていく姿は、何とも言えないものがある。

 勿論その間に襲われはするのだが、このレベルの迷宮で出現する魔物では弱くて、装備を抜けない上にロアが自身にかけた守護結界すら抜けられない。一応、と階を下る毎にミトにもかけられている。


 暫くするとリポップ……再び敵性生物が発生するまでは生き物の気配が途絶えるのは、数多の迷宮に潜っているミトにしても初めてかも知れない。これまで一人で潜って居たときに駆け抜けながら、視界に入った物全てを斬り捨てていた事もあったが、ここまで容赦無かった事は無い。


 迷宮の魔物は討伐すると持ち帰れる素材以外はまるで空気に溶けるように消える。

 

 肉系は獲物毎残るこの迷宮では、その籠を一杯になると付け替えて血抜きから解体の処理をしている以外、毒虫や植物系の魔物が倒され素材が籠に溜まる音が響く。流石に下層に来て、数が増えて来たために籠換えと解体を手伝いながらミトはこんなに簡単で面倒な迷宮攻略は初めてだと内心ため息を零す。


 そうして暫く罠の作動が止まると、ロアは解体を中断して罠と獲物を回収し、集計をしてから収納する。今度は白い液体の入った薬瓶を取り出す。

 それを自分の周囲に撒くようにくるりと一回転したロアは、ミトを振り返って呼ぶ。


「コチラの様です」

「ああ」


 ロアの腰の辺りには先ほどの液体が浮遊しており、幾つかの大きさの矢印となって浮いている。


「一階でこの迷宮の宝箱が見つかって良かったです」


 のんびりと言うロアが一番大きい矢印にそって向かうと、そこには宝箱が茂みに隠れるようにしてあった。


「どちらが開けます?」

「今回は俺は受けてねぇからいい」

「では遠慮なく」


 そう一階でやりとりして以降、宝箱は全てロアが開けていた。宝箱を一つ開けると、それを示していた矢印は別の矢印に合わさって消える。そうして次に一番大きな矢印になった方向へ向かった。近い程に大きくなるらしい。

 そうして矢印分だけ回収し、そのついでにこの階層で必要になる樹木を見つけては回収していた。


「なんで全部素材になんだよ」

「そういうの選んでますから」

「は?」

 

 素で訳が分からないと見下ろしたミトを、逆に不思議そうに見上げたロアが樹を指さす。


「大抵持って帰れる物は、迷宮ごとの特性魔力が一定以上溜まっているんです。それを視れば見分けつきますよね?」

「……俺は魔力が使えん」


 憮然と言い放ったミトに、不思議そうにロアは首を傾げた。その視線が一瞬、迷宮に入った時から消えている耳と尻尾へと向かう。


「鍛えてはいないようですが、魔力量は多いですよね?」

「……動かない」


 そう答えたミトにロアはそうですか、とそれ以上は言わなかった。


(身体強化にあれほど動かしているのに気づいていない? まぁ、本人に興味が無いなら無理強いする事でも無いか)


 特に気にせずに先に進むロアの後頭部を、逆に僅かに不機嫌そうにミトは見つめて追った。


 結局最後の獲物もサクッと嵌めて倒し、あっさりと初めての外から入る迷宮を攻略して帰還した。

ありがとうございました。

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