今日は風が主役
風に主役をもっていかれた、ある日のこと
久しぶりだな、昼間のデートは
お互い、仕事が忙しくて、なら
格好はつくけれど
そんな事情のふたりではないことを
君はじゅうぶんに理解している
約束した日がこんなにも
待ち遠しいものだったなんて
僕は何年か前の君との出会いを
思い出していた
会社のデスクにあるカレンダーの印
家の冷蔵庫正面にマグネットで留めてある紙
玄関ドアの内側に貼られた付箋
すべて、この日を忘れないようにと用意した
今日の君との約束
君に会って、
すっぴんに近い?と勝手に思っていた僕は
普段は夜に会う君と比較することが
ごく自然なことで、
君に聞かれても、許してくれるものと
ひとり納得していた
君の歩調に合わせて歩くのは
君の横顔を見ていたかったから
君の言葉を優先したのは
君の笑顔を少しでも見ていたかったから
途中、
君の言葉が一瞬、聞こえなかった
僕は光と同じくらいの速度で
君に聞き直したけど
君は、何でもないよ、と言って
空を眺めていた
あのときの言葉
風がちょうど吹いてきたから
僕は聞きとりづらかった
立ち止まり、
もう一度、君に聞いてみようかと
思ってみたけど
君には悪いから
僕は次の君の言葉を優先した
もしも、どうしても聞きたいなら
風に聞いてみたら、分かるのかな?