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全世界のクリスさんへ土下座をしないとダメでしょうか?

 俺達の後を尾けてきていたフィアは広間手前で最後のトラップに引っかかったらしく、サムソン達が通れなくした通路とは別の入口から広間に入ってきていた。

 そこで俺はその通路から出口を目指すことにする。

 何故なら『探索』スキルを発動してみたら、往路で来た通路に結構な数の魔物がうろつきだしたことが判明したためだ。


 ホワイトグリフォンの説明によれば、俺のMPはまだまだ上位魔法を何発も発動できるほど有り余っているし、MPを無限回復できるフィアと一緒にいる限り無敵らしいが、ずっと魔力無しと蔑まれてきたのでイマイチまだ信用できない。

 もし戦闘中に魔法陣が発動しなかったらと考えると恐怖しかないので、フィールドに出て、逃げられる環境になってから徐々に試していこうと思う。

 俺は堅実派(決して怖がりではない!)なのだ。


 そんなわけで、いつもの通り『探索』スキルを発動した俺に、ホワイトグリフォンが驚愕の眼差しを向けてきた。


「お主『探索』まで持っておるのか?」

「ああ、スキルだけは結構使えるだろ?」

「ア、アホかぁ! 『探索』じゃぞ! 『探索』‼ 索敵、危険回避、マップ掌握、宝物発見、何でもできるマルチスキルじゃぞ! それだけでギルドB級認定スキルじゃ!」


 可愛らしいモフモフの毛並みを揺らしながら叫ぶホワイトグリフォンに、俺は眉を寄せる。


「嘘つくな。門前払いされたぞ」

「何じゃと!? スキルの話はしたのか!?」

「いや、MP値だけで失笑されて追い出された」

「人間、やはりバカじゃーーーーー!!!」


 絶叫するホワイトグリフォンを宥めるようにフィアが顎の下を撫でると、肩で息をしていたそいつは胡乱な瞳を俺に向け、盛大に溜息を吐いたのだった。



 レッドアイの台座まで半日かけてやってきたダンジョンの通路を、出口に向かい進む。


 途中のトラップを壁や床の微妙な違いで危なげなく回避する俺に、ホワイトグリフォンがまたしても驚愕の眼差しを向けていたが何故だかわからない。

 さっと見ただけでも色も形も微妙に違うし、ヒビの角度や位置が一つ一つ違うのだ。間違うわけがないだろう? 俺が魔法陣を正確に描くために習得した空間把握能力を侮ってもらっては困る。

 だが魔物回避のために大幅に迂回せざるを得なくなり、結果ダンジョン内で野営することになってしまった。


 折れ曲がり奥まった通路の隅で、結界魔法陣を三重で発動してみる。

 すると、ここはダンジョンなのに聖地ですか? という位に空気が澄んだ空間が隔離された。

 ホワイトグリフォンが「高難度補助魔法の結界魔法まで三重でかけられるんじゃな」と遠い目をして呟いていたが、いちいち相手にするのも面倒なのでスルーする。


 結界魔法はダンジョンで野営をする時に便利な魔法だが、ちょっと魔法陣が複雑なため普通は魔石を用いて使用するのが一般的だ。

 魔物を倒すと時折手に入る魔石は、MPがなくても魔法を放てる便利な代物だ。当然使用すればなくなるし、大きい程魔力量も多くてその分貴重だ。

 そんな魔石の内、結界の魔石は小さくても高価な部類に入るため、低ランク冒険者は余程のことがない限り、ダンジョンで野営することがないように注意している。

 ダンジョンにランクがあるのはこのためで、冒険者はこのランクを基に日帰りで踏破可能なダンジョンを選ぶのである。だから、たまにこのC級ダンジョンのように間違ったランクづけをされていると、冒険者は泣きを見ることになるのだ。


 そんなことを考えながら、結界の中心で焚火をし、食料調達のためわざと遭遇して倒したオークの肉を煮込むフィアから少し距離をとり、薄汚れた魔石を水魔法で綺麗にしてゆく。

 オークと遭遇する前に、迂回路がない一本道で出会ったアンデッドを倒した時に見つけた魔石は、稀少な闇魔法が使える魔石だった。MPがあることが判明した俺には必要ないが、売ればかなりの高額になるだろう。


 片手で闇の魔石を弄びながら、昔、一つだけ祖父から譲り受けた小さな水魔法の魔石を持っていたが、兄にとられてしまった過去を思い出す。しかも奴はその魔石を女の子に見せびらかすためだけに使用してしまったのだ。

 あの時は悔しくて父親に言いつけたが、兄贔屓の父に取り合ってもらえなかった。横でその話を聞いていた母にも見事なまでにシカトされ、何故かその後3日ほど俺が飯を抜かれた。

 いつだって両親は魔力がある兄、サムソンの味方だった。


 今、俺の手には、あの時持っていた魔石とは比べものにならないほどの大きな魔石が転がっている。

 両親にこれを見せたらどんな顔をするんだろうなと考えて、やめた。

 驚愕し手の平を返して猫なで声で擦り寄り取り上げる。そんな不快な光景がすぐさま脳裏を過ったからだ。


 兄弟で差をつける両親に子供の時は傷ついたものだが、前世の記憶が戻ってからは貴族なんてこんなものかと、なるべく係わらないように生きてきた。

 今更懐かれた所で、傷ついた過去が塗り替えられる訳じゃないしな、と溜息を吐いて顔をあげると、パタパタと羽音がしてホグ(フィアが命名したから使用してやることにする)がフィアの肩にとまった。


「マシュ、先程倒したオークの中に美しい魔石を持つ奴がおった。そなたにやるゆえ持っておけ」

「まあ、ホグ様。ありがとうございます」


 フィアが嬉しそうにホグから綺麗な魔石を受け取っている。そのやり取りをジト目で眺める。


(ホワイ? 何故、あのとっつあん坊やは俺のダーリンに魔石を渡してるんだい? あのオークを倒したのは俺で、魔力をくれたのはダーリンだってのに、ウウン? おかしいだろ? それに、オ~ゥ、俺も素敵にご機嫌なダーリンに愛称で呼ばれたいんだぜ? ドーユーアンダスタン?)


 またも脳内で外人化した俺は、パチパチと音をたてる焚火の前で嬉しそうに鍋をかき混ぜるフィアを見つめる。

 時折香辛料を加えながらクルクルとスープを煮込むフィアはやはり可愛い。そんな彼女にあのとっつあん坊やが、ちゃっかりと愛称で呼ばれて肩にとまっているのが気に入らない。


(だが俺の名は短すぎて略せないんだ! ベイベー! ノォ~、なんてこったい。それじゃダーリンに呼んでもらえないじゃないか! オーケー、トニー。ここは俺のエキセントリックなニックネームを考えようじゃないか!)

「クリスか……クリ? リス? どっちも却下だ。栗と栗鼠ってもう違う生き物になってんじゃん! クリとリスしか選択肢がないなんてあんまりだ! ……ん? クリとリス? ……うおお! 気づいた! 気づいちゃったよ、俺! はい、ここで一句。

 俺の名は 分離接続 超キテる」

「お前はアホかぁぁ!!!」


 無意識に思考を口にしてしまっていたようで、(本人申告によれば)地獄耳のホグ(すっかり定着してしまった)に、後ろどたまをスパコーンと威勢よく叩かれた。


「途中から心の声がダダ漏れになっとるわ! 謝れ! 世界中のクリスさんに謝るんじゃ!」

「謝らん! むしろ男のロマンを見つけたことに感謝してもらいたい!」

「クリスなんて名前、女の子だっているじゃろう! なんて失礼な奴なんじゃ!」

「ぶほおっ! 女って……お前、俺の理性を粉々にする気か!」

「お前、バカじゃろ! 真正のバカじゃろ!」

「真性だと? 真性なんて言葉に続く単語は一つしか連想できんだろうが! そんな卑猥な言葉つかうな! ちなみに俺はむけている」

「R18の壁を超えようとするなぁぁぁ!!!」

「クリとリス……言わせたい! 世界中のクリスさんを敵にしてもいい。フィアに言わせたい。そして言ったあとに気づいて、恥ずかしがってもらいたい」


 チラリとフィアに目をやるが、彼女はニコニコしながら鍋をかきまぜている。うむ。可愛い。早く嫁にしたい。


「何なのじゃ? こいつ本当に何なのじゃ? 上位魔法の複数指先魔法陣など、とんでもないことをしよるのに、何故に頭がこうも残念なんじゃ?」


 羽毛で頭を抱えたホグと興奮で目を輝かせる俺。

 そんな俺達にフィアの呑気な声がかかる。


「ご飯、できましたよ~」

「「は~い」」


 思わず仲良く返事をしたあと、お互いに舌打ちをし、俺はフィアの隣に腰かける。

 その間にホグが割り込む。

 それを俺が押しのける。

 またホグが割り込んで、そして俺が押しのけるのエンドレスループを繰り返しながら食事をするうちに、俺は邪なクリとリス作戦のことはすっかり忘れてしまったのだった。


(オ~ジーザス! なんてこった!)


 ちなみにフィアが作ったオークストロガノフは、原材料を気にしなければめっちゃ美味かった。


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