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いつでもどこでもキスができる、主人公のための設定なんだなぁ

 広間にホワイトグリフォンの「バカじゃぁ、バカじゃぁ……」という声が木霊し、奴の片目が青色に染まる。


「儂のサーチアイはMPスカウターのようなものじゃ。それで鑑定するとだな、よいか!? そこなマシュマロクッション! お主の魔力は確かに前代未聞じゃ! 低いのではなく高い方のな! 魔力が体外に出ておらぬから、人間の装置では0と判定されたのじゃろうが、マシュマロクッションのMPは……何だと? 寝てもいないのに回復し続けているじゃと!? 何じゃこの回復力は!? 10000、15000、20000……まだ増えていきよる!? これは、この数値はひょっとして魔王よりも……」


 そう言って片眼を青く光らせ、とんでもない早口でしゃべりだすホワイトグリフォンを、ニコニコと眺めながらフィアが少し溜息を吐いた。


「なんだか、また胸やけがしてきました」

「背中さすろうか?」

「まぁ、ありがとうございます」


 優しく背中を擦ると、俺を見上げてくるフィアと目があって、ドキドキと心臓が高鳴る。


(あ、これワンチャン到来だわ。なんかちんまいのがブツブツ言っているが気にしないことにしよう)


 そう考えてフィアに顔を近づける。

 それに気づいたフィアが瞼を閉じると、すぐにプニっとした感触が唇に当たる。


(あ~やっぱ柔らかくて気持ちいい~。でもちょっと角度を変えてみたいな~)


 なんて思って体勢を変えようとした俺の頬に、小さな手羽先が飛んできた。


「おのれら、儂の大事な話を聞けぇぇぇ!!!」

「邪魔すんな!」「す、すみません!」


 思わず唇を離してしまい不機嫌な俺とは対照的に、フィアはモジモジしている。可愛い。が、キスを邪魔された俺の機嫌は一気に急降下だ。

 しかし俺の機嫌を他所に、ホワイトグリフォンは青く光る片目で、フィアをマジマジと見つめて呟いた。


「わかったぞよ……。そうか、そういうことじゃったのか」


 性懲りもなくフィアへ伸ばしてきた前足を、ペチっと叩き落とす。すんませーん、アイドルにはお触り無しでお願いしまーす。

 しかしそんな俺の態度も気にならないのか、ホワイトグリフォンはぐりんっと首を回すと、今度は俺の顔を凝視した。


「マシュマロクッションは眠らずとも無限にMPを回復できるが、それを放出する出口がないんじゃ。反対に暴力男は最大MPは青天井なのに、MP回復力がまるでない。いくら寝ても5まで回復したら、それ以上は一向に回復しない仕組みになっとる」


 ホワイトグリフォンから告げられた言葉に一瞬呆けた後、奴を掴んでマジマジと円らな両目を覗き込む。


「なんだと!? つまり俺のMPが少ないのは、全く回復していなかったせいなのか?」

「そうじゃな」

「はっ! もしかして誰かの呪いか!?」


 ここは異世界。ファンタジーの世界。

 そういう呪いがあっても不思議じゃないと中二病を発症した俺に、ホワイトグリフォンはシラケた視線を向けた。


「いや、単に身体が怠けとるだけじゃ」

「ガッテーーーーム!!!」


 行き場のない怒りを叫んだ俺を憐れむように見たホワイトグリフォンに、フィアがおずおずと手を挙げる。


「あの~、でもMPを回復できないクリス様が、何故上位魔法を発動できたのでしょうか?」

「あ、それは俺も聞きたかった」


 フィアの質問に俺も頷くと、ホワイトグリフォンはニヤリと嘴を上げた。


「そりゃ接吻のせいじゃ」

「は?」「へ?」


 フィアと同時に間抜けな声が出た俺に、ホワイトグリフォンが得意気に講釈を始める。


「マシュマロクッションと接吻をしたじゃろ? マシュマロクッションの出口のなかった膨大なMPがマウストゥマウスで暴力男に移行した結果じゃ。どうやらマシュマロクッションのMPは口移しでしか放出できんらしい。

 ほれ、現に今の暴力男のMPは50000じゃ。ギルドのSSSクラスどころか魔王でさえも凌ぐMPなど、もう規格外すぎてついていけん」


 言われて自分の身体を気にしてみれば、何だか力が溢れているような気がする。


「そういえば、なんか調子いい」

「私も胸やけが解消しました」


 胸に手をあてて微笑むフィアに、ホワイトグリフォンが偉そうに頷きながら嘴を尖らせる。


「しかしいくらMPが増えたと言っても、指先で上位魔法陣を放つなど反則じゃ。しかも複数同時とか有り得んじゃろ」


 ブーブーと文句を言う奴に、俺は素直に思ったことを口にした。


「やる気になれば10個までいけると思うぞ?」

「なんじゃと!?」

「さすがに足の指では練習していないから、それ以上は無理だと思うけど」

「じ、上位魔法を10個も同時で放つなど邪神だって敵わんぞ!」

「そうなのか? MPがあって正確な魔法陣さえ描ければ、練習次第で誰でも可能だと思うが?」

「じゃから、その魔法陣を描けるのがどれだけすごいか解っとらんのか? ましてや上位魔法陣なぞ複雑怪奇で、普通に描くのも時間がかかるというのに、お主はものの数秒で描いた挙句に複数を同時に発動させたんじゃぞ!」

「戦闘中に時間なんてかけられないだろ?」


 前世のゲームでは、呪文詠唱するだけでパっと魔法が放てたイメージがあるせいか、俺はこの世界の魔法陣を描く時間が無駄だなと感じていた。

 とはいえこの世界の理として、魔法は魔法陣を描かないことには発動しないらしいので、とにかく早く描く練習をした。


「でも、やっぱり呪文詠唱でパパっと打てる魔法に憧れてる俺にとっては、まだまだ時間がかかりすぎだと思うんだよな」


 思わずそう呟くと、ホワイトグリフォンがあんぐりと口を開けた。


「呪文詠唱? パパッと? 時間かかりすぎ? お主何を言っておるのじゃ? 大体指先で描いたような小さな魔法陣では、普通威力が格段に落ちるはずじゃ。にも係わらずお主の魔法は強力なままじゃったことも解せんのに、これ以上儂を混乱させるでない! 威力を落とさずに上位魔法を10個も放つなんぞ不可能じゃ!」

「ああ、威力ね。アレは既存の魔法陣を、ちょっとアレンジしたんだよ。ま、論より証拠。たぶんいけると思うんだよなぁ?」


 そう言って俺は両手の指先で、それぞれ異なる魔法陣を描く。

 俺の10指にはそれぞれ、火、炎、水、氷、木、風、土、雷、岩、闇の上位魔法が渦を巻いて湧きだした。


「うん、できるみたいだ。MPがあるって有難い」(フィアに感謝!)


 確認ができたので、イレースとばかりに魔法陣を描いた順とは真逆に描きなおし、ぎゅっと掌を握りしめると、今にも爆ぜ散りそうだった魔法陣が跡形もなく消え失せた。


「な!? お主、今、何をしたのじゃ!?」

「何って……消去したんだけど? 解除魔法の応用ってやつ? ここで10個も上位魔法ぶっ放したんじゃ危ないし」


 俺の言葉にホワイトグリフォンが目を見開いて絶句しているので、首を傾げる。


「何だ? 何か変なこと言ったか?」

「発動し始めた魔法陣を自らの意思で止めるなど、反則技もいいところじゃ……もう規格外すぎてついていけん……じゃが、決めた! 儂はこのダンジョンを出ても、お主たちと共にいてやる。無知なお主らには儂の知恵が必要じゃろうし、儂の最大MPが増えるまでは、強い者といた方が安心じゃからのう」

「は? 何、勝手に決めてんだよ?」

「どうせ仲間に囮として置き去りにされたんじゃろ? ならば儂と世界の珍味を食する冒険に出ようではないか!」

「何で珍味なんだよ!? つーか、何で俺が置き去りにされたの知ってるんだよ?」

「珍味は儂が食べたいからじゃ! それと儂の耳はお昼寝中でも聞こえる地獄耳じゃ。お前らのくだらん問答は丸聞こえじゃったが、あの時は眠気が勝ったから放っておいたのじゃ」

「はあ~。まぁ、置き去りにされた時点で家に戻る気なんかないけど、学園卒業してない俺と来たって、別にいいことなんかないぞ?」

「お主……全く自分の実力を把握しとらんのじゃな。阿呆なんじゃな」


 聞き捨てならない科白を吐きながら、俺を可哀想な眼で見るホワイトグリフォンに、それまで微笑みながら俺達のやり取りを見ていたフィアが、ポンっと手を叩いた。


「ホワイトグリフォンさんだからホグ様!」

「ん?」


 前後の脈絡なしの言葉を発した相変わらずのフィアの天然っぷりに、俺は首を傾げる。

 するとフィアは無邪気な笑顔で、ホワイトグリフォンの頭をなでなでしながら嬉しそうに続けた。


「ホワイトグリフォンさんの名前です!」

「へ?」

「ふむ、よかろう」


 ポケっとした俺を他所に、大仰に頷いたホワイトグリフォンは(ちんまくなってしまったため威厳は皆無だったが)モフモフの可愛らしさ炸裂のため、フィアが若干興奮しながら奴の円らな瞳を見つめて、頭を撫でくりまわしている。


「本当ですか!? あっ、それでは私のことは……」

「マシュマロクッションじゃから、マシュと呼ぼう」


 ドヤ顔で言いきったホワイトグリフォンを摘み上げてメンチをきる。メンチをきることなんて、前世でも今世でもないと思っていたが、今きらずして、いつきるというのだ。


「おい待て。人の婚約者におかしな渾名をつけるな!」

「なんじゃ、度量の低い男じゃの」

「喧しい! フィア、嫌ならはっきり嫌と言わなければダメだ!」(マシュマロクッション略してマシュなんて、エロいことばかり想像してしまうだろうが!? 言っておくが俺の両手は、フィアの胸への吸引力が変わらない○イソン並なんだぞ!)


 しかし俺のそんな願いも虚しく、フィアはあっけらかんと承諾してしまう。


「あ、私マシュでいいですよ~」

「ほらの~、マシュはいい子じゃの~。暴力男は暴力くそ男と呼べばええかの~」


 ウケケ、とでも言いそうな表情をしたホワイトグリフォンが、三度フィアの胸へ突進する。


「ふさけんな! クリス様と呼べ!」

「くそクリス~。略してクソス~」

「お前、いつか全力でぶっ飛ばしてやるからな!」

「うえ~ん、クソスが虐める~」


 フィアの胸に顔を埋めながらニヤリと笑ったホワイトグリフォンへ、俺が今すぐ拳固をかましたくなったのは言うまでもない。

 大人なので我慢したけれど。精神年齢33歳の大人なので!

 俺だってめっちゃパフパフしたいのを、ちゃんと我慢しましたとも! 

 ホワイトグリフォンへ拳固? あ、パフパフに気をとられて忘れてた。


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