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主人公、ヒロインとくれば、愛玩動物は必須だと思う

「何だ? あの、ちんまいの?」


 立ち上がりスタスタと歩いて毛玉の所まで行くと、それを手で摘まんで顔の高さまで持ち上げる。

 おお、触り心地がモフモフで気持ちいい。だが、これはもしかして……。


「え? もしかして、ホワイトグリフォン?」


 思わず口にした言葉に、フィアが目を丸くする。

 くるりっと掌を返せば、目の前にある毛玉には、大きな円らな瞳が二つと愛くるしい嘴がついていた。


「え? マジで可愛いんだけど、これ本当にホワイトグリフォン?」


 あんぐりと口を開けた俺を、そいつは涙目で睨みつけてくると、フサフサの翼をパタパタとばたつかせ、甲高い声でやけくそ気味に叫んできた。


「そうじゃ! 脅威の魔物ホワイトグリフォン様じゃ! じゃが、お前のせいで魔力が無くなってしもうた! 儂が千年も月光を浴びて蓄積した魔力がすっからかんじゃ! お前が上位魔法等何発も一斉に放つからパーじゃ! パー……う、うえーーーん!」


 途中から滝のように両目から涙を噴き出したそいつは、俺の掌に小さな前足で蹴りを入れると、フィアの胸に飛び込んで泣きじゃくった。


「まぁ、お可哀想に」


 自業自得だとシラケた視線を向けた俺とは違って、フィアはさっきまで敵だったホワイトグリフォンの頭をよしよしと撫でている。

 まぁ、確かに千年も月光を浴びたのがパーとか、ちょっと可哀想かなと思い視線を送ると、チラリと目が合ったそいつは優越感に浸った表情をしながら、フィアの胸に顔を押し付けていた。


「うへへ……ええーーーん!!!」

「おい、待て。何故、勝ち誇った顔をした?」


 明らかに嘘泣きになったそいつを、俺が殺気を込めて睨みつけると、益々声高に泣き叫びながらフィアの胸の谷間に顔を埋める。


「げへへ……びえーーーん!!!」


 甲高い声で泣きじゃくってはいるが、そいつは嘴の片方を上げながらフィアの胸の谷間に顔を擦りつけていて、羨ましいことこの上なかった。


(おい! それ夢にまでみたパフパフじゃねーか! 俺より先にしてんじゃねぇ! 獅子の尻尾を興奮で、はちきれんばかりに揺らすな!)


 という前半の科白を飲みこんで、後半だけを吐き捨てる。


「つーか、襲ってきたのが悪いんだろうが!」


 ベリベリとフィアから剥がすと、俺に摘まみあげられたホワイトグリフォンがキッと睨んできた。


「儂の棲家に勝手に入ってきたのは、お前たちじゃろうが!」


(いや、全然怖くないんですけどね。むしろ見た目だけならフワフワモフモフで愛らしいんですけどね? くそエロ鳥のくせに手触りは最高じゃねーか、ちきしょう)


 なんて心の葛藤はおくびにも出さず「棲家?」と聞き返すと、ホワイトグリフォンがワナワナと震えだす。


「ダンジョンの端っこで快適に暮らしてた儂の昼寝の邪魔をしたからじゃ!」

「そんなの知るかよ」

「これからどうしたらいいんじゃ……魔力も無くなったか弱くて愛くるしい儂なぞ、きっとこのダンジョンの外へ出る前に、他の魔物に食われてしまうわ」

「あら? でしたら私達と一緒に外へ出ませんか?」

「よいのか?」


 フィアの言葉にパッと顔をあげたホワイトグリフォンが、俺の手を振り払おうとするのを制止する。


「おい、どこへ行く?」

「マシュマロクッションが儂を呼んどる」


(何だマシュマロクッションって? 胸か!? フィアの胸のことか!? マシュマロクッションなんて……俺だって触りたいわ!

 ぬおお! 俺の邪な両手が、勝手に半球体を掴む形状になっている! 静まれ! 静まれ、俺の両手よ!)


 俺は半球体の形をしだした両手をガシィっと握り合わせて誤魔化し、鋭い視線をホワイトグリフォンへ投げつけた。


「フィアは俺の婚約者だ。勝手に触れるな!」

「うけけ、さっき羨ましそうに見とったくせに。童貞か? どうせ童貞なんじゃろ?」

「てめぇ、毟るぞ!」

「うえーん! 暴力男が幼気な儂を脅す~」


 俺が手を離したことで逃れたホワイトグリフォンは、一目散にフィアの胸に貼りつくと、あざとくグスグスと泣きまねをしだす。

 それをフィアは抱きしめて、あやしながら首を傾げた。


「クリス様ったら、こんな小さい子を虐めちゃダメですよ?」

「いや、さっきまでそいつ凶悪MAXな敵だったし! 小さくなっても魔物だし!」

「うえーん! 暴力男が幼気な儂を虐める~!」


 俺の抗議に苦笑したフィアが、胸に顔を押し付けるホワイトグリフォンを撫でながら目を細める。


「大丈夫ですよ。クリス様はとても優しい方ですから。ね?」

「マシュマロクッション~!」


 俺は、またしてもフィアの胸でパフパフを堪能しようとした猛禽類(小さくても猛禽類には変わりない!)を捕獲して、グリグリと自分の胸元に押し付けた。


「誰が暴力男だ!? そうは問屋が卸さないっての!」

「ぐぬぬ、離せ~! 儂は男でパフパフする趣味はないのじゃ~」


 俺の胸元で、心底嫌そうに愛くるしい顔を歪ませたホワイトグリフォンに、フィアは楽しそうに笑いながら声を弾ませる。


「そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたわ」

「名前?」

「はい。教えていただけますか?」

「ない」

「え?」


 ホワイトグリフォンの返答に瞳を瞬かせたフィアに、そいつはしたり顔で答える。


「儂に名前などない。孤高に生きる儂にそのようなもの必要ないのじゃ」

「孤高に生きる奴がダンジョンから出られなくなって、人間パーティーに加入かよ」


 すかさず俺が突っ込めば、キッと睨んで捲し立てた。


「それはお主の上位魔法を防ぐために、全ての魔力を防御と生命維持に変換してしもうたからじゃ!」

「魔力を生命維持に? だから縮んだのか」

「そうじゃ! 魔力を生命維持に変換すると最大MP値が減ってしまう。それに伴い魔力で大きくなっていた身体も縮むし、寝れば回復する通常のMPと違い、魔力=最大MPは、また千年も月光を浴びぬ限り元には戻らんのじゃ」

「ああ、なるほど。命の危機に最大MPを生命エネルギーへ変換できる魔物がいるって文献を読んだことがあったが、ホワイトグリフォンのことだったのか。つまり今のお前は最大MPを生命維持へ回したから、魔力がなくなって身体も縮んだってことだな」

「上位魔法の指先同時発動など、見たことも聞いたこともないわ! 明らかに地味で弱そうな見た目のくせに詐欺じゃぁ!」


 魔法陣は文様を正確に描かなければ、威力が弱まったり不発に終わる。それゆえ歪みがあっても解り易いように、陣は地面に描くのが普通だ。

 大昔に存在したといわれる伝説級の大魔導士は両手で空間に描くことが可能だったそうだが、それでも同時に二つまでしか出来なかったそうだ。その大魔導士も空間に描いた魔法陣では陣が小さいため、威力も小さくなってしまうと気づき、結局その方法は廃れてしまった。


 だから俺は既存の魔法陣にアレンジを加えて、威力がおちないように工夫してみたのだ。

 拘り中二病の執念の結果、完成した魔法陣はその分複雑になったが、まぁ問題ない範囲だった。あとは正確な空間把握能力を身に着け、指が正確に魔法陣を描けるように只管練習を繰り返し精進した。

 MPが5から一向に増えなかったため、全く披露する機会はなかったワケだが。


 それよりも今、気になるのはホワイトグリフォンの言葉だ。


「あ~、それなんだけど俺も不思議なんだよなぁ? さっき俺のMPは2しかなかったはずなのに、何で上位魔法が発動したんだろ?」

「は?」


 俺の言葉に間抜けな声を出したホワイトグリフォンに、解り易く説明してやる。


「だから俺は最大MP5しかないんだって。下位の火魔法一発分が俺の最大MP。で、封印解除魔法で3使ったから残りMPは2。魔法陣は完璧だと自負してたけど、そもそもMPが足りないから、上位魔法なんて発動しないはずだったってワケ!」

「はぁ!?」

「不思議だろ? 何で発動したんだろうな?」

「そうですねぇ。私はMP0ですし」


 俺の言葉に首を傾げるフィアと、先程歓談していた疑問をもう一度考えてみる。が、答えはさっぱりわからない。

 だがそんな俺達に、ホワイトグリフォンが円らな瞳を更にまん丸にして叫んできた。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待てぇぇ!!!」


 怪訝な顔をする俺にビシっと前足を突きだして、唾を飛ばす勢いで嘴を開く。


「お主が最大MP5のわけないじゃろうが! それにマシュマロクッションがMP0!? お、お前ら人間の目は節穴なのか!?」

「へ? だって魔力測定の時に、そう診断されたよな?」

「はい。前代未聞の数値だって言われました」

「人間ってバカじゃあぁぁぁ!」


 そう絶叫するなり、ホワイトグリフォンは天を仰いだ。



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