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ちょいエロ主人公と天然ヒロインは王道だがやはりいい、いいったらいい!

 俺が既存の魔法陣を、威力はそのままに縮小させて放つ陣形を発見した時も、その魔法陣を地面に描かないで放てる指先魔法陣なる理論を説明した時も、フィアだけが目を輝かせて聞いてくれていた。

 他の奴は机上の空論だと、魔力無が絵空事をほざいているだけだと馬鹿にするだけだったのに、俺の言うことを全く疑うことなく聞いてくれた婚約者。実践して見せたら、我が事のように興奮して喜んでくれた笑顔が瞼に浮かぶ。


 家にも学園にも、この世界に俺の居場所はなかったけれど、誰に信じてもらえなくてもフィアがいれば平気だと思えるようになっていた。

 俺が魔力もないのにここまで頑張ってこられたのは、前世が中二病だったからだけではなく、彼女の屈託ない笑顔が見たかったからなのかもしれない。

 だから魔力もないのにレッドアイを取りにきた。

 彼女の……フィアが喜ぶ顔が見たかったから。


「それなのに無駄足だったどころか、俺との婚約は破棄されて、他の奴と婚約するなんて絶望しかないよな」


 俺だってカッコイイ魔法使いになりたかった。

 せっかく魔法が使える世界にきたんだからって、必死になって頑張った。

 でもいくら高度な魔法陣を正確に覚えても、更にそれを発展させる技法を編み出しても、地面に描く以外で発動させる方法を見つけても、魔力がないんじゃ意味がなかった。いつまでも叶わない夢なんて早々に諦めて、魔法使いになんて拘らずに、堅実に生きていく方法を探してれば良かったんだ。そんなことに今更気が付くなんて大馬鹿だ。

 それにせっかく今世では婚約者がいたっていうのに、俺は、俺は……!


「こんなことになるのなら……。こんなことになるのなら……フィアに色々しておけば良かったぁぁぁ!!!!!」


 俯き呟いていた俺の独り言は、気がつけば絶叫になっていた。


「何、何なの!? 転生したのに二回とも童貞で終わるって! オーマイガーなんて言葉じゃ言い表せない位ショックなんだけど!? しかも前世と違って今世では婚約者がいたにも関わらずに! だ!!! ぬぉぉ! 聖人君子ぶるんじゃなかったぁぁぁ!!!」


 痛恨の悔恨に俺の中で理性という名のタガが外れる。

 どうせ死ぬんだ。だったらはっちゃけてやろうじゃないか。

 魔物ども、耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ! これが通算33年童貞男の断末魔の叫びだ!


「フィアーーーーーー!!! やりたかったーーーーーー!!!」

「はい!」


 至極最低な科白を、今まで生きてきた中で最大の声量で絶叫した俺に、返事と共にひどく柔らかいものが突進してきて、尻もちをついてしまう。

 だが、そのおかげで正面から薙ぎ払われたアウルベアの鈎爪は、俺の髪の毛を数本掠っただけですんだようだった。


「え? なに? え?」


 何が起こったのか解らず呆けた俺の膝の上には、魔道学園の制服を着て、濡羽色の長いストレートの髪をハーフアップにしている漆黒の瞳をした美少女が、ちょこなんと座っていた。


「呼んでくださるの、ずっと待ってたんです! 私も混ぜていただけるんですね!」

「ずっと? 混ぜる? てか、何でここにフィアが?」


 状況がイマイチ飲み込めず唖然とする俺に、突進してきた美少女--俺の婚約者フィアツェーン--が拗ねたように口を尖らす。


「レッドアイを取りに行くって伺ったので。でもクリス様ったら私のことを誘ってくれなかったから、黙ってついてきちゃいました。とは言っても途中でクリス様に見惚れていたら、うっかりトラップにひっかかってしまって、追いついたのは先程なんですけど」

「先程?」

「はい。アウルベアさん達と『だるまさんが転んだ』をし出した辺りからです。私の名前を呼んで、やりたかったって叫んでくれたってことは、私も仲間に混ぜてくださるんですよね」


 無邪気に微笑むフィアは俺が言った『やりたかった』を誤解したらしい。更に言えばアウルベアに囲まれたこの状況も誤解したらしい。

『だるまさんが転んだ』……確かに教えたよ。少しでもフィアに触れられる遊びがしたくて、やりましたとも!

 俺もフィアも魔力無だから人間の友人が皆無で、学園だと馬鹿にされるから森でよく魔法陣の練習をしていた。その時にE級にも満たない極弱魔物のスライムや、豆一角兎なんかと一緒に遊んだのだ。

 魔物には俺達と遊んだ奴のように、害がない者もいる。

 だが、俺達を囲んでいるアウルベアはあきらかに違うと、周囲を見渡して首を横に振る。


(だって、敵意剥きだしだもの! あの鈎爪、俺を切り裂く気満々だもの! どうみても『だるまさんが転んだ』じゃないもの!)


 フィアは前々から天然の気があるなとは思っていたが、本物だった。

 その辺も可愛いし『やりたかった』発言スルーは有難いが、この状況を誤解したままでは俺も彼女も命が危ない。既に十分危ないが、とにかくツッコまなければ。


(いや、エロ願望でフィアに突っ込むのと、ツッコミをかけてるわけじゃないから。我ながら上手いとか、座布団一枚とか考えてないから!)


 命の危機のせいなのか、フィアの天然のせいなのか、おかしな方向へ暴走しだした思考を中断して、諭すようにフィアに言い聞かせる。


「いやいやいや、そんな楽し気な遊びなんてしてないし。ピンチだったよね? 俺、どう見ても命の危機だったよね?」

「そうなのですか?」

「そうなのですよ! そして今もまだピンチだから! こいつら倒さないと永遠にピンチのままだから! っとおおお!!!」


 会話の途中で叫び声をあげて頭を下げた俺の頭上スレスレの壁に、アウルベアの腕がめり込む。その状況にフィアはキョトンとすると、トンっと胸を叩いた。


「でしたら私にお任せください」

「へ?」


 フィアの言葉に、俺の脳内は疑問符だらけになる。


 くどいようだが俺の最大MPは5しかない。攻撃魔法なら下位の火魔法1発しか打てない位に低い。さらに今現在に至ってはMP2のため、何の攻撃魔法も使えない。おまけにMPそのものが0のフィアは、当然ながら魔法が全く使えない。

 つまり魔道学園の制服を着ているくせに魔法が使えない俺とフィアが揃っても、たとえるならペーパードライバーならぬ、ペーパー魔法使いが2人いるだけにすぎないのだ。


 挙句に2人共、剣士や格闘家の素質もない。

 だから当然俺達では、アウルベア一体にさえ掠り傷すら負わせることもできないはず……だった。


 しかし、そんな俺の目の前では、信じられない光景が広がっている。


 そこには俺に背を預けて座ったままの姿勢で、二射同時に弓をつがえながらヒュンヒュンと、次々にアウルベアの脳天をぶち抜いてゆくフィアの姿があった。


 少し小ぶりな弓ながら二射同時に射つつ、どちらも外さない命中率の高さと矢をつがえる素早さに、俺は前世のゲームキャラを思いだしてしまう。

 その時はコントローラを連打しつつ、女の子がこんなに早く打てるわけがないって~と思っていたが、実際目の前では女の子がとんでもない速さで敵を倒している。その光景は圧巻の一言で……いや、もう、これ、マジで、惚れてまうやろ~(リターンズ)である。


「フィア、マジでかっけえ。てか、いつの間に弓なんて練習してたんだ?」


 バタバタと倒れてゆくアウルベアに、目を丸くする俺の心の声はダダ漏れだったらしく、フィアは最後の一体の脳天をぶち抜くと、にっこりと微笑んだ。


「クリス様との婚約が決まった時からです。MP0じゃお役に立てませんから」

「その腕前なら国王だってフィアに関心を寄せたんじゃないのか? 俺との婚約だって破棄になって、もっといい条件の奴と婚約できたのに」


 そこまで言って立ち上がった俺は、サムソンの言葉を思い出して項垂れる。


「……そっか、だから裕福な商人と婚約したのか。その弓の腕前なら、ギルドでもA級、いやS級ランクになるものな。元々王女であるフィアと、しがない貧乏子爵家の次男でMP5の俺では、不釣り合いな婚約だったんだ。やっぱ諦めるしかないよな……ハハハ……」


 力なく笑った俺に、しかしフィアは怒ったように眉間に皺を寄せた。


「それが嫌だから隠していたんです! それに商人との婚約はお断りしてきました!

 クリス様はMPはちょっと少ないですけど、魔法陣は誰よりも正確だし、指先魔法陣なんてすごいことは発見しちゃうし、他にも尊敬するところとか素敵なところとか沢山あります! だから私、少しでもクリス様のお役に立ちたくて弓を練習したんです」

「いや、俺のMPちょっと少ないどころか、限りなく0に近いんだけど」

「だから何ですか!? それでもいいんです! 私はクリス様がいいんです!」


 手にした弓を振り回しながら叫んだフィアの、漆黒の瞳が不安そうに揺れ俺を見上げる。


「それともクリス様はMP0の私が婚約者では、ご迷惑ですか?」


 じわっと黒い瞳に涙を湛えたフィアはヤバい。何がヤバいって? 可愛いが過ぎるのだ。

 なんかもう、さっきまでの後悔と絶望が嘘みたいに消えてゆく。


「いや、全然。……本当はフィアが他の奴と婚約したって聞いて発狂寸前だった」

「え!? ほ、本当ですか!? どうしよう……すごく嬉しいです!」


 即答した俺に、フィアが頬を染める。

 そのまま見つめ合うことしばし。


(あれ? この流れ、いい感じじゃない? 押し倒してもいい流れじゃない? さっき死ぬ程後悔したから、これはもう卒業しちゃえって天の啓示じゃない?)


 しかし前世でクラスの女子連中が、初めてはシチュエーションが大事だと言っていたことを思い出す。

 フィアとの視線は逸らさず辺りを確認すると、足元にはアウルベアの残骸が転がっている。つまり血みどろの絨毯は敷き詰められているが、当然俺が求めている寝具はない。


(これはダメなのでは? 千載一遇のチャンスに、このシチュエーションはダメなのでは?)


 内心焦りつつも見つめあったままフィアの手をとって、少しづつ場所を移動してゆくと、何やらふかふかの物体に触れる。

 不思議に思いそちらへ視線を向けると、白いふかふかのベッドらしき物がででんっと鎮座されていた。


(ホワイ? 何故ダンジョンにベッドがあるんだい? しかも柔らかフカフカの高級仕様だぜ? 前世でやったゲームでダンジョン内に宿屋が出てきたときは、超ハッピーな気分と同時に世界観台無しだとシラけたものだが、ワッツ? この世界でそんな親切設計はなかったはずだぜ? ベイベー?)


 混乱してまたも脳内に外人化した俺が出現するが、手ではフカフカの感触を楽しんでしまう。

 手に伝わるフカフカでモコモコの質感のそれは、適度な弾力と程よい温かさでまさに極上のベッドといえた。

 フィアも気が付いたらしく、あまりの気持ちよさにうっとりと頬擦りをしだす。俺も頬擦りしようかと顔を近づけた所で、それはいきなり身震いをした。


(……ベッドは身震いをしない。うん。知ってる。前世でもこの世界でもベッドは身震いをしない)


 恐るおそる顔をあげた俺の視線の先で、ぐるんっとこちらを振り返ったベッド(だと思っていたもの)と目があう。


「ホワイトグリフォン……!?」


 S級冒険者がパーティーを組んでも遣り合うのが大変な、凶悪S級魔物が何故C級ダンジョンにいる!? と驚愕で固まっていると、俺達を見下ろしたホワイトグリフォンが鷹の嘴の口角をニヤリと上げた。


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