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回想が長くなるのは、ここで本筋が決まるから(言い訳)

 一人でダンジョンへ潜る気だった俺に、いつもは邪険にする兄のサムソンが友人二人とともについて来てくれたのは、嬉しい誤算だった。


 魔法使いのサムソンはギルドのB級冒険者だけあって、遭遇した魔物を威力の高い中位魔法を繰り出し屠ってゆく。その友人である僧侶のデボラと剣士のロータスも、C級冒険者だけあって程々に強いようだった。


 この世界の冒険者登録を行っているギルドは、ダンジョン制覇や依頼成功によってランクが上がってゆく仕組みだ。

 もちろん登録時に桁外れのMPを持っていたり、剣聖などと巷で噂になっている人間の場合は、いきなりS級認定される場合もあるそうだが、そんな輩は滅多にいない。

 大抵の場合ランクは見倣いから始まりE級~SSS級まであり、A級以上になれる者は結構少ないため、サムソンのB級は程々に高いランクとなる。

 最もこの国でエリートと呼ばれる王城の魔法師団は、全員がA級以上だそうだが。

 ちなみに俺もギルドへ登録に行ったが、サムソンからMP値を聞いた受付嬢に失笑され、門前払いされたことは記憶に新しい。


(ギルド、憧れてたのになぁ~。失笑されるんだもんなぁ~)


 嘲笑には慣れてるとはいえ、やはり愉快ではなかったなとぼんやり考えていた俺の目の前で、サムソンが派手な攻撃魔法を炸裂させている。

 だが逃げようとする魔物や弱り切った魔物へも、威力の大きい中位攻撃魔法を放つサムソンのMPは大丈夫なのだろうか?

 以前にも魔物が多かったダンジョンの帰路に、魔力切れを起こしたことを思い出す。

 あの時はとにかく敵に遭わないように、スキル『探索』で迂回しながら、やっとのことで帰還した記憶がある。帰宅してから役立たずと一緒だと苦労すると、俺がすげー怒られ、兄に無理をさせた愚か者だと父親からも殴られたのだが。

 だから今回も「少しMPを温存したほうがいいのでは?」と言ったら、露骨に侮蔑した顔になった。


「MPがない奴はこれだから」


 兄サムソンの呆れた声に、釣られたようにデボラがクスクスと笑う。


「サムソンってば会う度に最大MP増えてるもんね。中位魔法をこれだけポンポン打てるなんて流石だわ」

「デボラの回復魔法も実は既にB級レベルだって話じゃん」

「まあね~」


 クルリと得意気に聖杖を回すデボラに、ロータスが派手なピンク色の髪をかき上げながら少し不服そうに口を尖らせた。


「とは言ってもこのダンジョン、C級の割には魔物が少ないし遭遇しても弱すぎて、かすり傷一つ負っていないけどな」

「もう~、サムソンもロータスも強すぎ! 私の出番ないよぉ」

「俺らが強過ぎるのが悪いんだな、な~んて」


 勝ち誇ったように笑うサムソンの顔を、デボラがやたら露出度の高い服で、胸の谷間を強調するように上目遣いで覗き込む。


「でもレッドアイって、今まで誰も入手できなかったんでしょ?」

「何でも宝石のある台座の、封印解除魔法陣が複雑だと聞いたが?」


 デボラの言葉にロータスが思案気に顎に手をやりサムソンを伺うと、兄は笑いながら自信満々に親指を突きたてた。


「あ~それなら、楽勝、楽勝~。俺に任せとけって!」

「さっすがサムソン! 頼りになる~」

「B級魔法使いにとっちゃ、C級ダンジョンの宝物奪取なんて楽勝任務ってか」

「そうゆうこと! それにもうすぐA級になる予定だしな」

「本当!? すごーい!」


 はしゃいだように大声で兄に抱き着くデボラを、思わず睨んでしまう。

 何故なら、いくらスキル『探索』を使用しているとはいえ魔物に聞こえたら面倒なので、ダンジョンでそのキンキラ声はやめてほしいからだ。

 しかし俺の考えとは裏腹に何を勘違いしたのか、ニヤリと笑ったサムソンが見せつけるようにデボラの腰を抱いた。


「まぁな。俺の女になって正解だっただろ?」


 サムソンはそう言って、デボラに押し付けられた胸を上から厭らしい目つきで見ると、嘲るように俺に視線を寄越す。


(いや、勝ち誇った顔をされても、俺は香水臭い女を抱きたいとは思わないのだが。童貞だけど、何でもかんでもに欲情するエテ公じゃないんで。僧侶なのにその露出の多い服もいただけない。やはり見えそうで見えないチラリズムこそ、男のロマンだろう。てか、兄の女だか何だか知らないが、ダンジョンでキンキラ声も香水もやめろ! 魔物の聴覚と嗅覚は人間の何倍だと思ってんだ? 冒険者なのにバカだろう! 俺の『探索』がなかったら、どんだけ魔物に出くわしたかわからないんだぞ。現に今だって鉢合わせしないように回り道をしているのに、魔物が少ないだの弱いだの勝手なこと言いやがって!)


 と力説したいところだが、俺の我儘に付き合ってダンジョンまで来てくれているわけなので、ぐっと堪える。


(早くお目当ての物を見つけて、可愛いフィアツェーンの顔が見たい)


 溜息を吐きたくなるのを我慢して視線を動かすと、目があったロータスが見下すように鼻で笑った。


「それにしても、サムソンの弟は地味だな? 存在感がなくて、たまにいることを忘れるよ」

「はぁ」


 ロータスのどうでもいい指摘に、何と返せばいいのかわからなくて、俺は曖昧に返答をする。

 するとデボラがサムソンの腕にぶら下がりながら、俺の顔を不躾に覗いてきた。


「サムソンは綺麗な金髪で青い瞳なのに、弟君は茶髪茶目なのね」

「それな! クリスは魔力も地味だし見た目も地味だから、兄弟だって思われるの恥ずいんだよね」

「ああ~確かに。言っちゃなんだけど、マジで戦闘では逃げてるだけの役立たずだもんなぁ」

「そうよね~。E級弱小魔物相手にも逃げだしたのには、悪いけど笑っちゃった」

「E級なんて、下位魔法でも一発で昇天する弱さなのにな!」


 ギャハハハと笑う彼らに、俺は乾いた笑いしか浮かんでこない。


 少し前に回廊の端にいたE級魔物。

 俺は避けて進めば襲ってこないだろうと判断し、足早に通り過ぎたのだが、俺達に気づいた魔物が逃げようと背を向けた所を、兄が背後から態々火の中位魔法陣を放ち絶命させたのだ。

 戦闘の意思がない魔物なんて可能な限り放っておけばいい、というスタンスの俺とサムソン達の考えは違うらしく、戦う意思のなかった魔物が焼け焦げる様を、ロータスとデボラは可笑しそうに笑って見ていた。


 それに金髪、銀髪、赤眼に青眼と多種多様なこの世界で、俺の茶髪茶目は確かに地味だが結構気にいってる。

 人のことを地味だと宣ったロータスだが、前世日本人の俺に言わせればショッキングピンクの髪に橙色の瞳のお前なんて、偏見かもしれないがちょっとイカレた奴にしか見えない。

 デボラのエメラルドグリーンの髪色は、前世の入浴剤○スクリンを思い起こさせるし、白色の瞳はそれちゃんと見えてるの? と、ちょっと心配すらしてしまう。


 とはいえ神様にチート能力どころかイケメン要素も貰えなかった俺に、とやかく言える権利はないので黙っておくけれど。


 大体入ってから気づいたのだが、このダンジョンはC級じゃない。ギルドでもB級クラスがパーティー組んでくる所だと思う。

 ダンジョンのランク認定は、一度されてしまうと中々更新されないので、たまにこういうことがおこるのだ。

 サムソンに連行されてダンジョンを制覇しているうちに、何となくそのダンジョンのレベルがわかるようになってしまった俺が言うのだから間違いない。手柄はいつも兄のものになっていたが、俺だってMP以外は成長しているのだ。

 強い魔物に遭遇しないのは、俺のスキル『探索』があるからである。


 俺はスキルだけは優秀らしく『探索』を発動すると、周囲にいる魔物の行動を把握できる。

 つまり俺のスキルは一本道で挟み撃ちにでもされない限り、魔物を回避することが可能で、おまけにトラップなんかも回避できてしまう優れものなのだ。

 戦闘には確かに参加していないが、先頭を歩く俺が魔物と遭遇しないように回り道したり、わざと弱い魔物がいる方の道を選び、トラップも全て回避しているわけなんだが、サムソン達はまるで気づいてないらしい。


(あ~、マジで早く帰りたい。可愛い婚約者のためじゃなければ回れ右して、今すぐ帰りたい)


 俺を蔑む会話で盛り上がる三人を、しらけた目で見ながら心中でぼやきつつ、魔物とトラップを回避し黙々と進んでいく。

 そうして俺が幾度目かの溜息を吐いた頃、とんでもなく広い空間に辿りついたのだった。


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