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瞳なのに卵とは何ぞや? などとツッコミを入れてはいけない。そしてこの章、短くない? というツッコミも入れてはいけない

 今度は忘れずに『探索』のスキルを使用したため最小限の戦闘だけで進めたのだが、出口までのトラップが悉く発動していることに疑問が浮かぶ。

 初心者が引っかかって命からがら逃げ帰ったのかな? などと考えている間に出口に辿りついた所で大地が揺らいだ。


「グアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」


 複数の拡声器の音量をMAXにしたよりも更に大きな叫び声が聞こえ、両手で耳を塞いだ俺はフィアと顔を見合わせる。

 叫び声から察するに、どうやら超大型の獣の咆哮が原因で大地が揺れているらしい。


「フィア、大丈夫?」

「はい。でもあの音、王都の方から聞こえませんでしたか?」

「そういえば。しかし大地を揺るがすほどの咆哮なんて、一体どんな魔物なんだ?」


 そう呟いた俺の視界の先、王都がある辺りの上空で赤い巨大な影が旋回しているのが目に入った。

 フィアを抱き抱えるとすかさずホグがしがみつくのを確認して、風の上位魔法を放ち、その突風を利用して王都まで空を駆ける。


「グオオオオオオオッッッッッ!!!!!」


 ダンジョンを出てわずか数秒で王都へ到着した俺達の目の前で、再び咆哮が轟いた。

 その声の主に驚愕する。


「レッドドラゴンなんて難関ダンジョンの最奥にしかいないSS級の魔物が、何でこんな所に出現してるんだ!?」


 フィアを降ろしながら困惑の声をあげた俺に、彼女も絶句する。

 するとフィアに抱かれていたホグが吐き捨てるように呟いた。


「レッドアイなんぞ持ち出すからじゃ」

「レッドアイ?」


 怪訝な声で聞き返すとホグが嘲るような視線を向けた先で、レッドドラゴンがある一点を目指して一直線に下降してゆく。その際に行く手を阻む建物に激突し盛大に破壊するが、お構いなしだ。


「レッドアイはレッドドラゴンの宝物じゃからの。それを持ち出すなんぞ人間は阿呆よのう~」

「は?」


 意味がわからないといった顔をすると、ホグが呆れたような顔をした。


「なんじゃ、知らんかったのか? レッドアイはレッドドラゴンの宝物、即ち卵じゃぞい?

 ドラゴンの卵は、産み落としてから数百年は封印を施した特別な台座で英気を養わなんと孵らんのじゃ。もう随分昔からあのダンジョンはレッドドラゴンの棲家じゃぞ」

「C級ダンジョンが、SSレベルのレッドドラゴンの棲家!? そんなわけあるか!」

「C級認定なんぞ人間側が勝手にしただけじゃから儂は知らん。まぁ普段レッドドラゴンは餌を求めてダンジョンの外にでておるから、誤認したのかもしれんな。じゃが現にあそこを寝床にしとった儂はS級じゃし、お前を襲ったアウルベア共もA級じゃっただろうが。儂は昼寝が好きだし、アウルベアは封印が解除されるまで冬眠していたとはいえ、人間のランク設定はほんに杜撰じゃのう」

「お前がS級だったのは昨日までだがな」


 小さな鼻の穴を膨らませたドヤ顔のホグに冷静なツッコミを入れると、奴は憤慨したように羽をばたつかせる。


「喧しいわ! 一体誰のせいじゃと……うえーーーん、マシュ~!」

「そのわざとらしい泣き真似をやめろ! それにフィアの胸に顔を埋めるな!」

「クソスが虐める~」

「クソスって言うな!」

「マシュの胸は安心するのぅ。ずっとこうしていたい位じゃ~」

「まぁ、ありがとうございます」

「いい加減に離れろ!!! フィアもお礼言うところじゃないから!」


 フィアの胸に顔を埋めたホグをベリベリと引きはがし、変わりに自分の顔を埋めたくなるのを我慢して確認する。


「ともかくレッドドラゴンの怒りを鎮めるためには、レッドアイを奴に返す必要があるんだな?」

「そうじゃな。ドラゴンとしては早うレッドアイを台座へ戻したいじゃろうから、返せばさっさとダンジョンへ戻るじゃろうな」

「わかった。ちょっと行ってバカ兄貴からレッドアイを取り上げてくる」

「ほぅ。己を置き去りにした兄を助けに行くのか? クソスのくせに見上げた兄弟愛じゃの~」

「バカ言え。俺が助けに行くのはレッドドラゴンと卵の方だ」


 いくらレッドドラゴンがSS級でも、王城から王国騎士団と魔導師団の両方が出て来たら無傷じゃすまない。この国の王城兵は地位と身分と給与が破格のため、冒険者よりも格段に質が良く強いのだ。

 正直バカ兄貴なんて死んでもいいけど、レッドドラゴンと卵に罪はない。知らなかったとはいえ台座の封印を解いたのは俺だし、けじめはつけないといけない。


「フィアは街の人を誘導してくれるか? たぶんサムソンが逃げてる反対方向へ行けば平気なはずだから」

「わかりました」

「儂はマシュと行くぞえ」

「癪だが仕方ない。しっかり俺の婚約者を守れよ?」

「安心せえ。儂のマシュには指一本触れさせんわ」


 ポキっと折れそうなほど細い手羽先の親指? を、ぐっと立ち上げたホグには不安しかないが、サムソンと逆の方向へ行けば大丈夫だろうと二人を送り出したのだった。


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