地獄の裁判官
鏡子は閻魔大王と共に裁判所へと戻ってくる。
なんだかとっても濃い一日だった……。
鏡子はふわぁと大きくあくびをする。そんな中、「鏡子」と閻魔大王に名前を呼ばれる。
「はい」と閻魔大王の方を見ると、何やら真剣な顔をしていた。
やっぱり禁忌を犯してしまったことを気にしてるのかな。
鏡子は恐る恐る閻魔大王近づく。
「あの。閻魔大王?」
「鏡子は余を許してくれたようだが嫌ではないか。その。余の妻でいることが」
「……?」
「もし妻が嫌なら断ってくれて構わない。そもそも妻の安全性を考慮して結婚しただけだからな」
そう言って閻魔大王は珍しく視線を下げる。
「だからその指輪がいらなかったら返してくれて構わない」
閻魔大王の弱気な発言に鏡子は「ふむ」と視線を上げて考える。だがどれだけ考えても鏡子の気持ちは固く決まっていた。
「…………私が地獄に来て最初にした裁判を覚えていますか」
「……急だな。もちろん覚えているが。指輪をあげると言ったのに結局渡さなかった裁判だったな。口約束だから有罪にならなかったはずだが」
「はい。通常なら」
「通常?」
閻魔大王は眉を寄せる。
地獄の裁判では通常も例外もないのだろう。
閻魔大王の質問に鏡子は頷いた。そしてそっと指輪を撫でる。
「民法550条にこんな記載があるんです。「書面によらない贈与であっても、履行の完了した部分については解除できない」と」
「つまりは……」
「はい。つまり口約束でもすでに渡されたものであれば返さなくていいんです。…………だから、その」
鏡子は頬を一気に赤らめてモゴモゴと口を開いた。
「……返したくはない、です」
その言葉に閻魔大王は弾かれたように顔を上げた。鏡子は頬を赤らめたまま閻魔大王を真っすぐ見つめた。
「私は……――。あなたの妻でいたいです」
鏡子の頬はどんどんと赤くなっていく。けれど決して閻魔大王から顔を背けなかった。きちんと知りたいと思ったからだ。
閻魔大王は私のこと、どうおもっているんだろう。
ずっと知りたいと思っていた答えを聞くには今しかない、と思った。それと同時に自分の気持ちを口に出したことで、私はいつの間にか閻魔大王に心惹かれているらしい――と気付く。
閻魔大王はホッと胸を撫でおろす。
「そうか……。安心した……。先程はあんなことを言ったが、内心ヒヤヒヤしていたからな」
そう言って閻魔大王はそっと鏡子の髪に触れた。
「! え、閻魔大王!?」
「妻でいたいと。そう思っていてくれて嬉しい」
閻魔大王は爽やかな笑みを鏡子に向ける。その笑顔に鏡子は恥ずかしさを感じて手を払いのけようとする。が、その手を閻魔大王が掴み顔を寄せる。
「っ!!!」
相変わらずだけど距離が近い!
閻魔大王は手を掴んだままさらに顔をグッと近づける。
「余は……。鏡子を妻に出来たことが嬉しい。これからも余の側にいてほしいと思っている。余は鏡子を愛しているのだから――」
「あ、愛して……?」
「ああ」
閻魔大王は強く頷き、鏡子にまた一歩近づく。ドキドキと鏡子は胸を高鳴らせながら目を閉じた。
「――――」
「――――」
数秒の沈黙の後、閻魔大王がさらに近づいた気配がして鏡子の唇に柔らかいものが重なった――。
『地獄の裁判官』完結です!ここまで読んでくださってありがとうございました。
完結まで長かったように感じますが、私が書くのが遅いせいでそこまで文字数はないという……。悲しい。
ここで制作秘話?をちょこっと。この小説を書くにあたり、閻魔大王のことや仏教をめちゃくちゃ調べました。本だけじゃなくて時にお寺さんに行ったりして。ただそれが大変ではあったけれどなんだかんだで楽しかったんです!
学校卒業したからこそかもしれないですが、こういう自分に興味があることを勉強するのが楽しくて仕方がないです。




