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008

 シーツを担いで窓に一番近い柱に持って行く。部屋の真ん中にあるせいですごい邪魔な気がするけど、今はこの柱に感謝だな。


 さすが木造建築、良い柱だな。職人さんありがとう。素晴らしい。温もりすら感じるよ。


「っ……おっと」


 柱に顔面をスリスリしていると足元の何かに躓きそうになった。あれ、ロープ落ちてるじゃん!


「まさか、このロープは親父がっ!?」


 親父、実は俺みたいに考えることが出来て、俺の身代わりになろうとしているとか? わざわざ俺を助ける為に大魔王と一人で一騎打ち(ポーカー)を……。


 ロープを持ち上げ、ぎゅっと握りしめる。


「親父……サンキューな」


 ロープで降りている最中に親父は大魔王にやられる。そして、孤独な一人旅を始めた俺に話しかける一人の少女――


 両親を大魔王に殺された少女は、俺の話を聞いて共に旅をすることを決意。二人で旅をする中、突如現れた強い敵――


「ここまでか……」


 諦め俺は目を閉じる。何かを弾く金属音が近くで響く。現れたのは一人の戦士。その戦士に先導され、俺と少女は再び立ち上がる。敵を倒し、戦士と会話。目的が一緒だったらしく、俺と少女は戦士に付いて行くことを決める。気が付けば荷物持ちになり、戦士と少女は付き合い――



「あっかぁあああんっ!」


 四つん這いで床を思い切り叩きつける。

 いやいや、この展開ダメじゃん。途中まで俺勇者だったのに戦士に持ってかれちゃったよ。「戦士が行く魔王討伐戦記」みたいになっちゃってるよ。くっそー! 辿り着くのはやはりモブとしての人生なのか……サブでもダメなのか……サブすら許されないのか!? 自分の妄想なのに最終荷物持ちだったじゃないか。荷馬車扱いじゃん。人ですらないじゃん。


 歯をギリギリと鳴らしながら少しずつ頭が冷めていく。


「はぁ……」


 とりあえず降りるか……。


 肩を落としながら渋々ロープを結んで窓を開ける。窓を開けたと同時にそよ風が俺の横をすり抜けていく。


「気持ちの良い朝だな。こんな日にはお出かけも悪くないさ!」


 ああ、とっても綺麗な空がg――きったねえ空だなぁ。

 やっぱり大魔王の娘さんやることおかしいって……。空を汚染されたような黒い紫色に染めてどうすんのさ……。馬鹿とか天然なのかな。それはそれでいいな、仕方ないわ。魔王の娘で天然で可愛いとか個性強すぎるわ。


「太陽拝みたいなあ。あはは……」


 枯れた笑いしか出ねぇ。今度こそ見つかったら殺されるんだろうなぁ。俺能力何も無いから対抗できる手段もないし……ま、まあ、能力が無いからってモブと決まったわけじゃないけどねっ!


「あっ……」


 勇者に言わされたあのセリフがふと頭を過ぎる。


『ようこそ、ここはカナート村です。俺はここの宿屋の息子で』


「……ごほんっ」


 心に何か矢のような物が刺さった感触を無視して降りる準備を始める。機械のような声で俺は感想をもらしながらゆっくりと降りていく。


「あー、すごいすごい。二階って結構高いなー。これ、このまま飛び降りればHPが0で人生終了するんじゃないかなー」


 モブやだなぁ。主人公が良いなぁ。死にたくないなぁ。可愛い子ときゃっきゃうふふしたいなぁ。


「……」


 ロープをゆっくりと降りながら、深いため息を吐いた。

 うん、そうだな。ここから無事に逃げられたら修行しよう。モブでも修行すれば勇者にはなれなくとも友達的な、一緒に旅する的な感じになれるかもしれない。


 よし! こうなればさっさと降りて滝修行でもなんでもやってや――パリッ。


「なにゃっ……!?」


 足先から響いた音にびっくりして動きを止める。ちゃんと下を見ないで降りていたせいで窓ガラスに足先が……どうしよう……中からはまだ笑い声が聞こえて来るし、バレてはいない……と思う。


 と、とりあえず窓を踏まないようにしなきゃ……。

 ロープを握る手にぐっと力を込めて、足を思いっきり開く。窓の木枠までギリギリ足が伸びた! これなら行ける!


 窓枠にちょろちょろと足先を当てつつ、音を立てまいと息を止める。若い男が一人で開脚しながら降りてるこの状況。ダサいよぉ、ダサすぎるよぉ……もうお婿さんいけないよ……。


「アハハー……」


 皮肉めいた笑いをしながら残りの距離をゆっくりと確実に降りていく。

 着地まであと少しだけど降り立った時のことを考えれば、多分大魔王に気付かれちゃう。ここは最後まで慎重に行くのがベスト! 俺って頭いい!


「これが終わったら俺、魔法使いでも目指そうかn――」


 専門職を考えていた最中、窓の向こう側に映る勇者。開脚中に一番見て欲しくなかった人物がこっち向いて倒れてる! 酒場の机の上で寝転がってる!


 なんでゴミ屑見るような目で俺のこと見てんの!? フードであんまり見えない分雰囲気怖っ! あれか、開脚してるのが相当悪かったのかな。相当ダサかったのかな……やだ、恥ずかしい……。もう本当にお婿にも仲間にもなれないよぉ……。


 勇者もこっちずっと凝視してるし……もう勇者と旅出来ないだろうなぁ。あいつ絶対仲間に言うタイプだぞ。俺の儚い夢の一つがデリートされちゃったよ……というか死んだんじゃないのかよ! 半開きの目で俺を見るなあぁあ!


 うん?


 ――パリーンッ!


 窓が割れると同時に腹に何かが直撃した。


「ウゴォッホッ……」


 あ、あの勇者……ものすごい勢いで何か投げつけて来やがった……痛ぇ……お腹に何か食い込んでやがる……。衝撃の反動で足先のプルプルが止まらないっ!


「うん、なんだ今の音は?」


 逃亡生活終了を告げる声が聞こえた。あかん、死んだ。多分死んだぞコレ……。

 大魔王が、こっちを、向いて……。


「よおおおおお!」


 一瞬でこっちに飛んできたぁあっ!


「はっはっは! 久しぶりだなぁあ!」


 怖い、超怖い。顔笑ってないよ大魔王……。


「おほ、おほほほほほ……」


 片手でロープを握り締め、口に手を添えて女性っぽく笑ってみた!


「ぐわっはっはっは!」


 目力やばいっ! 「め」と「ちから」じゃない! 「め」と「ヂカラ!」って書いて目力の奴っ!


「あの、俺って助かりますか?」



 大魔王が満面の笑みのまま、親指で首を横になぞる。ああ、なるほど。助からないやつですね。魔王の手に再びあの炎の玉が生成されていく。何か、何か手は! ヘルプ! ヘルプミ―!

 もう、これしかないか!


「大魔王様!」


 汗と涙とよく分からない汁が体中から出ている俺が勢いよく言い放つ!

応援して頂けるとすごく嬉しいです(*_ _)

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