007
――宿屋二階一室
「体超痛ぇ……」
床の上で寝てたせいか体がバッキバキ……。おふっ……腰が……。
「とりあえず布団で寝よう」
俺は二度寝した。
死と隣り合わせの日から一日明けて俺はこの狭い部屋に引きこもっていた。布団が母の温もりのように感じる。ずっとこうしていたい。もうこの部屋から出たくない。引きこもりでいい……。
「はぁ……」
ため息しか出ないのも精神的に参っちゃうのでベッドに座り込んで考えてみた。昨日は150Gを払って助かったけどまだ居たらどうしよう。でも、襲ってこなかったってことは俺の選択は間違ってなかったってことだよな。
「……」
耳を澄ましてみても下から物音は特に大きい音は聞こえなかった。
「大魔王もさすがに帰ったかな……」
ホッと胸を撫で下ろし、部屋の扉をそっと開けて階段を慎重に下りていって下の階が見える位置から顔だけを覗かせた。
さすが一日で直る村だ。昨日吹き飛ばされた扉も完全に直ってるみたい! なんで直るのかはよく分かってないけど!
親父はどうしているんだろ――
「はっはっは! 貴方もポーカーがお強いのですなあ!」
「もう一度遊びますか?」
「はっはっは! もういいでしょう。私も神父としての仕事がある。こんなところで勇者を放置するわけにもいかないのですよ」
「ありがとうございました。またお越しください」
俺はぽかんと口を開けて階段の所で硬直していた。
チラッ。
ギロリと睨んでくる大魔王……うわ……目合っちゃったよ……。
「あ、ど、どうも……」
挨拶の基本である愛想笑いを振りまいてみた!
「貴様ぁああああああ!」
大魔王には効果がなかった。
「ヒャァアアアアア! ごめんなさぃいい!」
「エターナルブ――」
「親父ぃ!」
「よう――」
この距離行けるのか!?
「ふんにゃぁあああああああああ!」
<〇>
チャリーン。
「よっしゃぁああああああ! 出来た! 出来たぞぉおおお!」
翌日――
「貴様ぁ!――」
チャリーン……チャリーン…………チャリーン――
――宿屋二階一室
ベッドに座り込んで頭を抱える。なんであいつずっと居座ってんだよ! どんだけ執念深いんだよ! ストーカーも称賛するレベルだよ! にゅぁああああ! 発狂して虎になりそう……。
「はぁ……」
ポケットに手を突っ込んで所持金を確認。
「あぁ……オワッタ……」
所持金が140Gで……詰まる所、いや、部屋に詰められているのは俺で、詰んだのは人生なわけで。つまり……。
今日の分は払ってるけど明日はもう、泊まれない!
やばいやばい。足がぶるぶるしてるよぉおお! 下からすげえ楽しそうな声が聞こえて来るし、そっちに寄りたいよぉぉおおお!
なんで俺だけ目の敵なんだよ……親父の方が強いじゃん……。ちくしょう、目が潤って雫が……しょっぱい何かが口元まで流れてきたし、とりあえず遺書を書こうかな。
『拝啓、親父(義父という可能性がワンチャン残ってますが)へ
体調はどうですか? 僕は元気で――』
「おお! 宿屋の主人もポーカーがお強いですなあ!」
『あなたの家の二階で死にそうで――』
「もう一回勝負です! 次は負けませんぞ!」
『魔王の手が忍び寄っていま――』
「あいたー! ここでフルハウスとは、主人も中々やりますなぁ!」
『あなたも気を付け……』
「もう一回、あと一回だけやりましょう!」
「……」
くっそぉお! なんで親父のやつ大魔王と楽しくワイワイポーカーしてんだよ! 俺殺されかけてんだよ!? ちょっとはこっちに目向けろよっ! 大魔王ですらこっち向いてたんだよ!?
はあはあ……。
あれ、そう言えば、勇者様ってまだ気絶、じゃなくて死んでるんだよな。もし、あれを復活させればどうにかなるんじゃないか?
この部屋の端にあるあの宝箱っぽいやつ……あれの中にいわゆる復活する薬があれば! というかこれ、あったら俺が勇者的な立ち位置になれるチャンス! 剣とか装備一式入ってるとか!
「ふんぬうう! んんんんん!! ぬぁああああ!」
必死に宝箱を開けようとするが開かない……。宝箱の前で冷静に四つん這いになる。汗止まらない。しんどい。疲れた……。
深呼吸をして心を落ち着ける。そして、大きく息を吸う。もう一回!
「ふんぬぉおおおおおおおおおおお!」
開かない! 開かないよ親父ぃ!
なんで開かないんだよ! え、こういうのは勇者(俺)が大魔王を退散させて、まだ勝てないから仲間集めて経験値稼いで大魔王と四天王を倒そうぜ、って流れでしょ!
「チキチョー!」
ガンッと宝箱を蹴り飛ばし、宿屋の窓を力強く見つめる。蹴った足をひたすらさすった。足痛いなぁおいっ!
うん? 窓?
「……」
窓から降りれば逃げられるんじゃん!
よくあるあれだ。シーツを使って一階に降りる的な。そういう類の脱出方法ってよくあるじゃん。このままじゃどうせ殺されるんだ……どうにかして逃げてやるもん!
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