006
チャリーン。うわっ、まじで息子から金取りやがったこの野郎! ポッケに入っていたお金が自然と消滅して軽くなる感覚がする。この世界怖い。
今の一瞬の出来事に大魔王が目を細めていた。
「おい、モブ。何をした」
「ふっ、一日経てばお前も居なくなるだろうと思ってな! あとモブ言うなばーか!」
「では、部屋へ案内します」
親父に連れられ、スタスタと階段を上がっていく。
「おい待て!」
俺は戸惑う大魔王にドヤっとした。
「ふふ~ん。一日経てば大体元通りになるのがこの村の魔法かなんかでね。扉も何もかも修復されるわけだ! そして、お前は俺が寝ている間何もできないはず! 多分!」
ビシッ! と大魔王に指を差して強気に発言!
「なん……だと……!」
「ふっふっふ。驚きを隠せないようだな大魔王め」
ぬぁああああ……助かったぁ……。
「貴様、ただで済むと思うなよ。この元魔王に歯向かった罪、決して軽いものではないぞ!」
怒りが頂点に達したのか、オーラが地面から噴出してるようにすら見えてきた。濃すぎて大魔王の顔にモザイクがっ……怒ってるのか笑ってるのかすら分かんないよっ!
しかも――
「え、ちょっと待ってくださいよ……俺そんな言われるようなことしてな――」
「黙れ! このモブがぁあああ!」
モザイク越しでも見える口を開けたその牙は、俺の八重歯とは比較にならないほど大きかった。どこにしまっていたんだその牙はっ! 異次元か! 大魔王の口の中は異次元なのか!?
「死ぬがいい!」
大魔王が両手を開いて構えるとその中心部に赤黒い火の玉がぁあああ!
「いやあぁああああああああ! やめてええええええええええ!」
階段の手すりに咄嗟にしがみついて俺は命乞いをしていた。
「神父様ぁあああああぁぁ……!」
「――なんだ、迷える子羊よ」
翼や牙、全身を包んでいた闇がすっと消えて聖書を持った優しそうな、凛々しい顔をした歴戦の神父が現れた。
「あ、神父は神父なんですね……」
腰が抜けて立てない……。大魔王が「はぁ」とため息を一つしながら頭をかいていた。
「勇者が未熟者過ぎてな。今は育てる側に回っているんだ」
既に力の差が半端ないんだねっ! ……勇者、世界の平和は諦めよう。これに勝てる人間は多分居ないと思う。媚び売ろう。助かる道はそれしか無い。
「なんだか大魔王様も大変なんですね」
もう、大魔王に「様」付けちゃったよ。勇者は勇者なのに大魔王様って。俺の立ち位置完全に魔王サイドじゃん。
「ああ。ほんと真面目にレベル上げする奴が居なくて困るわ」
深いため息の後、カウンターに座って煙草を取り出した神父姿の大魔王様。俺は怖いから登ってすぐの階段の手すりからその姿を覗いていた。
「どうぞこちらです」
「えっ?」
不意に親父に服を掴まれて残りの階段をずるずると引きずられて上がっ……痛い! 階段の段差があるから余計に痛いよっ!
「あ! おまっ……其方、そのような逃げ方は卑怯者のすることだぞ! ですぞ?」
一瞬牙が見えたけど一応神父らしく振る舞う大魔王。煙草吸ってる時点で諦めた方がいいとは思うけど。
「もうばれてるんだから大魔王の喋り方でいいですよ……」
「あ、そう? なら遠慮なく……死ぬがいいわ!」
ぐっと力を入れる魔王の右手には、さっき見た赤黒い炎の玉が形成されていく。
「ちょ! それ死ぬやつっ! 燃え尽きて死ぬやつ!」
「死をもって償え! エターナルブレイズ!」
「イヤァアアアアアアア!」
真っ直ぐ火の玉がぁああ! 火の玉がぁあああああ!
「死ぬうううぅ!」
…………。死んで、ない?
「お、おや、親父っ!?」
飛んでくる火の玉を、俺を引きずっていた親父が片手で受け止めてるぅううう!?
「店内での暴力はお止めください」
パチンッ。親父が掴んだ火の玉を握り潰したぁあああ!
「親父……」
やっぱ親父は俺と一緒で心があって実は俺に隠していたんだ。勇者の血が流れてるとか、実は勇者の兄だったとか。そういうことを隠すためn――痛い! 階段の直角の角が脇腹にっ痛っ……痛い痛い、痛ぇっ……。
「親父、ありがと――」
「ようこそ、カナート村へ。旅の疲れを癒してください」
「親父ぃぃぃいいい!」
「待てぇ! このガキぁああ!」
ドタドタと大魔王がこちらに向かってくる!
「あ、煙草消さなきゃ……」
律儀に火を消しに戻った!
「こちらがお部屋になります。ごゆっくりお休みください」
引きずられて部屋に放り投げられた。ゴッと机の角が当たって超痛い。背骨大丈夫かな、腰折れてないかな。勇者大丈夫かな。明日大丈夫かな……。
気が付くと俺はひんやりと気持ちのいい床で眠っていた。
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