005
やばいよ、体の震えが止まらないよ。死刑宣告する死神が目の前に居るんだからこれショック死してもおかしくないよ! 勇者の顔ほんとに青ざめてきてるよ! やっぱりお腹痛い奴だよあれ!
ぶるぶる震えている俺を放置して悪魔……じゃなくて神父さんは煙草を取り出して吸い始めたよ。なにこの空間。聞こえてくるのは悪魔染みた神父さんのの吸って吐く音だけとか。勇者は上の方で気絶……時々、神父さんがこっち見てくるし、怖ぇ……怖ぇよぉお!
勇者起きてっ! ハッ⁉ やばい勇者ピクピクしてる! そろそろダメっぽい!
「あ、あの、とりあえず勇者が――」
「娘はなー」
えー、このタイミングで娘のこと語ろうとするの反則じゃん……。勇者も娘も両方気になるやつじゃん! 勇者のことは心配だけど神父さんには逆らえそうにない!
「娘は二十歳で魔王をしている」
お……教えるなら最初から言えよ……っていうかやっぱり魔王なんかい。こいつ父親かい。魔王じゃなくて大魔王じゃねえか。死んだ。多分死んだぞコレ。終わった。
「なんか最近、空の色変えなくちゃとか言って汚い紫色にしちゃうし、お父さんとしてはちょっと考えものなんだよなあ」
空を見つめるその表情はどこか親父に似た目をしていた。いや、間違えた。我が子を心配する親の目をしていた。俺の親父の目死んだ魚みたいな目してたわ。
「む、娘さんも考えがあってそういうことしてるんですよ、魔王としての威厳というか」
「だといいんだけどなぁ……お前さんはどう思う?」
うわぁ、なんかめっちゃ馴れ馴れしい……。終わると思ったら逆に質問してきちゃったよ。こういうタイプって絶対面倒なんだよなぁ……無難に返すのが良いのかな……。
「この時期の子どもって難しいですかr――」
「何を知った口聞いとるんじゃこのモブがぁ!」
くっそー、選択ミスったぁああああああああ!
あ、気付いたら目の前に神父兼大魔王の足gっ――ブフォォオッ……!
瞬く間に神父兼大魔王の蹴りが炸裂して入口の扉は吹き飛ばされた。俺はカウンターの椅子に背中と腰を打ち付けて悶えていた。 背骨がっ、背骨が! 痛い……めっちゃ痛い……。
翼の生えた筋骨隆々の神父兼大魔王。このままだと殺される! 信じたくない! 娘が魔王で今目の前に居るのが神父兼大魔王だなんて信じたくない! そうこれはきっと夢だ! 幻だよ!
「ようこそカナート村へ、宿代は150Gになります」
ぶつかった時の音で反応する親父。
「こんな時まで反応すんな! 神父、いや魔王? に蹴られてすんごい有様なんだけど⁉ もう神父か魔王かはっきりしてくれええええ!」
くそっ、蹴られた時の土煙で神父の姿が見えない。でもうっすら影は見える!
「モブがなんで魔王の正体知っているのかは分からねえが」
土煙の中から黒い影がだんだん濃くなっていく。
「いやいや! 教えたのあんたじゃんっ!」
やばい、ほんとに殺される。本能が「詰みましたよ」とお手紙書いてるよ。誰当てだよ。背骨痛ぇ……。。
「モブはモブらしく魔王の手でおねんねしなぁ!」
神父の額からは立派な角が二本、それに黒い翼、全身に纏う深淵のオーラは確実に魔王という証明でしかなかった。自分自身が身分証明とかやべえ。証明書いらねえじゃん。
神父の皮を被った大魔王が近付いてくる! 人の皮を被った悪魔の上をいかれた。鬼な上に悪魔みたいなもんじゃんコレ!
「ってか、おねんねってそれこの世界から消去されるってことじゃない!?」
「ふっはっは! 分かってんじゃねえか!」
手をバッキバキに鳴らしながら一歩、また一歩とこちらへと歩み寄ってくるぅうう!
「親父!」
最後の希望に懸け、親父を真剣な眼差しで見つめた。目の前の悲劇を、見て見ぬ振りをしているのか、はたまた、本当にただ前を向いて平常心を保っているのか俺には分からない。だが、何にせよ親父の言う台詞は変わらなかった。
「ようこそ、カナート村へ。宿代は150Gになります」
「払う! 払うから!」
「久々に楽しめた。お前には究極の炎でその身を焼いてやろう」
「いやぁああああああああああ! こっち何も楽しめてないのにぃいい!?」
「観念しろ。娘への土産話にしてくれるわ!」
拳にすごいオーラがっ! やばいやばいやばい! 死ぬ、ほんとに死ぬ!
くっそ、親父の野郎、払うって言ってるのに聞いてくれない!
「親父っ!」
「ようこそ、カナー――」
「貴様、さっきから何を言っている」
焦るな、焦るな俺。ガクブルガクブル……。
「こうか⁉」
「ようこそ――」
「ふんにゃぁあああああ!」
〈○〉
よし、気張ればなんか出来たぁあああああ!
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