003
思えば魔王が居るからって勇者様が居るなんておかしいじゃん! なんで某クエスト的な考えしか浮かばないんだ俺は……。あれか、そういう世界だからこういう考えしか浮かばない的な! そんなノリか! 世界をノリで乗り切れってことか!
生まれてから気持ち的には三日目だけどさ、俺だってそれなりの人生があったと思う訳で。何もないままこの宿屋を継ぐとか嫌なわけで。変わらない自分を変えたいわけで。というか、俺誰なんだっていう疑問も消えないわけで……。
「なんで俺だけ意識あるんだよ……」
これならいっそのこと親父たちと一緒の方がマシじゃねえか。
「くそがっ……」
歯をギッと噛み締め、ガツンと入口を叩きつける。
「――ようこそ、カナート……」
「今シリアス展開なんだから音で反応すんなコラァァアア!」
はぁはぁ……なんだよこれ……。
地面を見つめて土に文字を書いてみた。『世界の、ばかやろう』っと。地面にそれだけを描いてしばらく眺める。
「ほんとにこれからどうしょう……」
――ドゥンドゥン
俺、ゲームの世界のモブでしかないんだよな。服装もよく見れば茶色の襟無し長袖に分厚い生地の白いズボン履いてオシャレの欠片もねえ……だっさ。自分で言うのもなんだけどだっさ……。
――ドゥンドゥン
ふっはは……とうとう幻聴でゲームの中で壁にぶつかるような音まで聞こえてきたぜ。
――ドゥンドゥン
さっきの村人、じゃない奴が目の前で俺に軽い蹴りを入れてくる。
――ドゥンドゥン
「ああ! もうさっきからドゥンドゥンドゥンドゥンうっさいなぁ! 人にぶつかるにしてももうちょっとリアルな音出せよっ! ゲームの世界過ぎて泣けてくるだろう!?」
クワァッと威嚇混じりに牙(八重歯)を見せ、ぶつかってきている奴を睨みつける。
見慣れない奴だな……不良だったらどうしよう。威嚇する相手間違えたかもしれない。いや、そもそも、俺親父以外知らないわ。悲しすぎる。
〈○〉
「ようこそ、ここはカナート村です。俺はここの宿屋の息子で――」
〈×〉
「最後まで言わせろよ!」
「…………」
圧倒的無言! うおぉ……よく見たらフードで顔見えなくて怖い! 無言の圧力怖え……というかさっきのコマンドみたいなの親父に出されたような。あれ何、目の前に透けて出てきて怖いんだけど。眼鏡的なの付けてるのかな……確認しようとしたら眼球に指がぁああ! 指が目がっ! 目がぁああああ!
――ドゥンドゥン
「ちょ、ほんと目痛いから待ってっ……」
目こすりながら蹴られてるとかいじめじゃん……なんだよこいつ……あれ。腕に付けてる龍の絵が彫り込まれてるやつ超綺麗。っていうか王家の紋章じゃないか⁉ しかもこいつルビーのペンダントまで装備してて勇者っぽいぞ!
いや、相手の容姿を気にするよりも俺は一つ大事なことを見落としている。
「うわぁ……ちょっと待って……俺、突っ込む前に何口にしてんの……やだモブモブしい……」
赤面する顔を両手で隠し、再び俺は俯いた。「ようこそ」ってなんなんだよ。こちとらウェルカムな状態じゃないんだよ、家から飛び出して気持ちが沈んでるんだよ……ちくしょう。
〈○〉
キリッと顔を上げる俺。
「ようこそ、ここは――」
〈×〉
「はあぁああん⁉ 何? 言わせる気が無いならどっか行けよ!」
スタッと立ち上がり相手を軽く突き飛ばす。
「……」
「なんか喋ってよ! ○とか×じゃ伝わらないだろ! 先生にハッキリ伝えなさいって言われなかったの⁉」
――ドゥンドゥン
めっちゃ微妙な力加減で蹴ってくるじゃんっ! 俺の事完全無視じゃんっ!
「だーかーらー!」
――ドゥンドゥン
「喋ってよコラァッ!」
優しさと苛々が混ざってオネエみたいになってしまった……。殴った拳が想像以上に痛い。俺は死んでも格闘家にはならないと心の中で決意した。
「なん、で……」
ドサッとその場に倒れ込む勇者っぽい奴。
「え、今なんか倒れる前に聞こえたんだけど! 今あんた喋ったよな⁉ 喋りましたよね⁉ ワンモアプリーズ! 立て、立つんだぁああああ!」
やばい、倒れたまま動かない。
「お、おい。死んだ振りとかタチが悪いぞ?」
恐る恐るしゃがんで震える手で勇者(?)を揺さぶってみる。
え、待って、息してないんだけど。おーい、起きて! 頼むから起きて!
虚ろな目で空を見上げ親父に懺悔する。親父……すまねえ。俺は人を殺めちまったみたいだ……。だってほら、見上げてた空から筋骨隆々の神父が一人、この場に降り立ってきてるんだぜ……。地面を轟かせながら白髪に傭兵みたいな顔をしてさ。眼帯までしてるしもはや歴戦の戦士だよ。神父してた前の職業一発で分かっちゃうよ。多分こいつが元勇者だよ。
「勇者よ、其方はこのような質素で平凡な宿屋に客が一人も来ない腐りきった村で死んではいけない」
「口悪っ!」
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