033
ま、まあ……、分かるならそれはそれでありがたいし、前向きに考えよう……。
「そしたらさ、今俺たちってどの辺にいるの?」
スライムの前に地図をファサッと広げてみせる。
「そうですねー、今この辺ですねっ!」
「うん?」
「ほら、この辺です!」
熱い視線が地図に向けられてるのは分かるんだけど、どの辺りを見てるのか全然分からん!
「えっとモーブ君……だっけ」
「はいです!」
「口でどの辺か言ってくれない?」
「うん? ほらここですよここ!」
「いや、目力込められても分からないってば……」
「ほらここですってば! 分かんないんですか⁉」
くそっ……こいつ、「なんでお前分かんないの?」みたいな顔でチラチラこっち見てくる……。
指差さずに言われてもどこ見てるのかこっちは皆目分かんないんだよ……。
「具体的にどこ?」
「(めんどくさっ)……カナートとマルータの三分の二くらいまで進んでます! マルータ港まであとちょっとって感じですね!」
「へえー、そうなるとあと少しなんだ」
最初に「めんどくさっ」って聞こえた気がしたけど教えてくれたから聞こえなかったことにしよう。
次聞こえたら蹴り飛ばす。絶対蹴り飛ばす。港まで石ころの代わりにしてくれる……。
「んじゃ、あともう少し頑張りましょう!」
「うん、そうだね。じゃあ行こうか」
「はい!」
「……」
村人が勇者を引っ張りながら、スライムが目の前を跳ねていく……。魔物が道を教えてくれるとか、変な世界だなぁ……。
「よいしょっと……いてて……」
やっぱり寝るならちゃんと布団で寝ないとダメだよな……。港に着いたら宿屋を探そう。もう地べたで寝るのは勘弁……。
「ふんふふ~ん♪」
スライムが鼻歌を口ずさみながら進んで行く。
軽快に歩き出したのはいいけど、スライムと話すこと何もないなぁ……。相手が人間なら色々話せる――と思う……。
「いやー人間と散歩するのって初めてなのでドキドキしますよー♪」
歩みを止めずに飛び跳ねながら言うスライム。
「へー、人と一緒に歩いたことないんだね。まあ、そうだよね、実際敵同士だし――」
「そりゃ、人間って言えば食用みたいなものですからね♪」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
敵同士って言ったけど食用って家畜扱いじゃないか……?
上下関係出来上がってませんかね……?
そういえば大魔王様も血液をビンに入れて持ってたな……。あれって誰の血だろう……。なんか寒気がしてきた……。
「どうしました?」
「い、いや、なんでもないよ……」
「そうですか♪」
実際にこうして会話してるんだけどさ……お喋りしてるんだけどさ……。
初めての会話が思ってたのとなんか違うっ!
俺そのうち、不意打ちで取って食われるんじゃないかな……。
すげえ心配になってきた……。お腹痛くなってきた……。
「そういえば、人間さんってもうちょっとマシな服着てませんでしたっけ?」
「あ、ごめん……あんまり服の事は言わないで……」
「ほよ?」っと何も知らないスライムが不思議そうな顔を向けてくる。
服は色々あったんだ……。これ以上俺の傷口を抉らないで……。あと、俺の服のセンスについては弄らないで……、俺であって俺じゃないから……。
「まあ、人生色々ありますよねー♪」
こんなニコニコぴょんぴょんしてる奴が人生を語るのか……。一回召された奴が人生を口にするのか……。
でも、本当に色々あったから否定できない……。
「まあ、人生って色々あるよね……襲われたり助けたり契約させられたり勇者を引っ張ったり……」
「そうですよー。人生なんて山も谷もあるんだし気楽に歩きましょうー♪」
「あ、ああ、うん……そうだね……」
スライムに言われるの腹立つわぁ……。
「モブさんモブさん」
「ん、何? って反応しちゃってる自分も悪いけどモブって言うの止めてね……」
「そういえばモブさんはどうして旅を?」
こいつ聞く気ねぇ……。
「うん? 旅の理由……?」
大魔王様から逃げようとしたら看病することになって、そのまま脅されて勇者を育てろとか言われたんだ――とか言ったら、後で大魔王様に何されるか分かんないよな……。
ここはあえて「勇者になる旅をしているんだ!」とか言った方がいいのかな……。
「で、どうして何ですかモブさん!」
真剣な熱い眼差しを向けるスライムにビクッとなりつつ――
「モーブ君、モブさんって言うの止めてね。結構傷付いてるから!」
「はい! それで、どうしてなんですか、モブさんっ!」
聞く気ねぇ! 人の話に耳傾ける気サラサラねぇ!




