032
「ふわぁ~……」
「おはようございます!」
「ん……あぁ、おはよう……」
スライムの枕の弾力がすんごい気持ちいい……。
「よいしょっと――うおぉ……、砂利道で寝てたから体いてぇ……」
節々が痛いってこういうことを言うのかな……。
「すっかり朝だー!」
「ですです!」
まん丸の目がこっちを見上げてくる……。
「おはようございます! ぐっすり眠れましたか!」
朝からテンション高いなこいつ……。
「う、うん、ありがと……。寝てる間、君に襲われないか心配だったけど無事で良かったよ。勇者も変わりないみたいだし……」
相変わらずの勇者を一瞬だけ見て視線をスライムに。
「いやぁー、僕も魔物ですから警戒されたらどうしようかと思ってたんですけどね!」
「ああ、自覚してるんだね……」
「はい! これでも魔物ですからね!」
「朝から元気だね……」
「はい! この頭の輪っかが付いてから体が軽くなったんですよ! すごく元気です! 今なら飛べそうです!」
「ああ、そう……」
体が軽くなったって、それ、一回死んじゃってるからだよね……多分、質量とか重さとか無くなってるんだよそれ……。
「そういえばスライム君、昨日の夜みたいに光ってないけど夜だけしか光らな――」
「あの!」
「な、何っ!?」
食い気味に言われたからびっくりしたー……。
「僕はスライムなんて名前じゃないです!」
違うんだ……。
でも、どうでもよかったわその情報……。
「……」
「名前あるんですよ!」
目がキラッキラに光ってるし聞いて欲しそうな顔してるんだよな……。
面倒くさいなぁ……。
「……なんて名前なの?」
「よくぞ聞いてくれました! 僕は現魔王様の直属の部下モーブって言います!」
「モーブ……」
「はい! モーブです!」
うん、なんかすっごい親近感湧いた。
「よろしくモーブ君!」
握手を交わそうと手を出し――たけどこの子全身つるつるボディだから手がないっ!
「はいっ! よろしくお願いします!」
昨日と変わらず返事だけは良いんだよなぁ。
「まあ、朝になったことだし港を目指して頑張ろう……」
「頑張っていきましょー!」
「お、おー……」
寝起きにテンション高いのが居ると疲れるんだな……。
「そういや、モーブ君、色が白くなったよね」
「あっ! 気付いちゃいましたか?」
「いや、誰だって気付くと思うけど……」
緑色した透明の魔物が、次現われ時には白くて透けて天使の輪っかが付いて……。
最初に会った時と今のテンションが違いすぎるんだもん……。
「理由、気になりますぅ?」
うわ……めっちゃいやらしい目で見てくる……。「聞いてみろよぉ」って顔でこっち見てくる……。
「ま、まあ気になるかな……」
「ですよね!」
にぱぁっと笑顔なのは良いんだけど口開きすぎて怖いっ! というか口の中ってどうなってるんだ!?
「ふふふ、実はですねー……」
「ほら、勿体ぶらないで早く……」
「剣抜かれたショックで死んじゃったみたいです♪」
「あー……」
……知ってたよ。そんな理由ならとっくに知ってたよっ!
「天国に行ったら神様に〝チェンジ!〟とか言われて、頭に輪っかを付けられて落とされました♪」
「それで色も変えられたの?」
「はい、なんか〝こっちの方が見栄えが良い〟とかなんとかで」
「神様も結構酷なことするんだな……」
話聞くだけで死ぬのためらうわ……。
「あ、でもですね! 今のこの姿はけっこう気に入ってるんですよ!」
「あーはいはい……」
そんなことより地図だ地図。こんなどうでもいいスライムは放っておこう。
「うーん……」
「どうしたんです?」
「地図見ても今どの辺か分からなぁって……、真暗だったからどっちから来たかも覚えてないし……」
地面に地図を広げて、スライムと二人で覗き込んでみる。
「今どの辺に居るんだろう……」
「あ!」
「どうしたの?」
「ちょっと待っててくださいね!」
「うん?」
スライムが辺りをキョロキョロしながら何かを探し出した。
「あ、丁度いい感じの岩があるじゃないですか!」
「ん?」
ぴょんぴょん跳ねながら岩の前で深呼吸するスライム。
「一体なにを――」
「フンギュァアアアアア!」
スライムが全力で岩に頭をぶつけにいったぁああああ!
「い、意味が分からん……」
岩の前で力なく倒れちゃったんだけど何がしたいんだぁあああ!
一応、近付いて安否の確認……。
なんか「ハァハァ……」言ってて気持ち悪い……。なんだこのスライム……。
「何してるの……」
「いやぁ……一回、上に逝ってから眺めれば分かるかなって思いまして♪」
「いやいや、逝っちゃダメでしょ!」
「え……ダメなんですか……」
このスライムなんでちょっと残念そうな顔してるの! 召された上にもう一回召されるとか神様も考えてないよっ! 死んだ後にもう一回死ぬとか、閻魔様ですら「あれ……さっきこいつ見たよな……」って疑心暗鬼になっちゃうレベルだよっ!
「まあ、大体の位置は分かるんですけどねっ♪」
「え?」
「大体なら位置分かります♪」
「えぇえ……」
なにこいつ清々しい顔してんの……。「分かります♪」じゃねえよ……。
「どうしたんですか? 肩落として」
「いや、昨日分かりませんって言ったのに急に分かるとか言だすから心底驚いてんだよっ!」
「あれ、そんなこと言いましたっけ?」
殴りたい……今すぐこいつを殴り飛ばしてやりたいっ……。




