031
――カナート・マルータ街道、夜
「暗いよ……怖くて歩けないよ……」
太陽が完全に沈んだせいで前も後ろも分かんねえ……。歩いたら迷子になるやつだぞこれ……一本道なのになぜか道迷うやつだよ……」
絶対ここから動かないもん……。
「朝まで粘るもん……足がすくんで動けないわけじゃないもん……。
「――あの!」
「ひゃぁぁ!」
後ろから唐突に話しかけられた! ダメだ! もう耐えられない!
「あのー!」
「ど、どうか命だけは……って、あれ……」
この声は聞き覚えがあるぞ……。
「あのー!」
「イヤァ!」
後ろ見たら……振り返ったらきっと呪われる……。さっきのスライムが蹴飛ばした報復にやって来たんだ……。
「あのー!」
「ヒィッ! お許しを……!」
幽霊とかの類かな……、怨霊になって襲いに来たとか……。
「あの! 聞いてください!」
もうやだ……、幽霊怖いよぉおおお……。
「こっち見てみて!」
「言い方可愛いなおいっ!」
思わずツッコミを入れて振り返ってしま――
「って、眩しぃっ!」
神々しいまでに輝いてるスライムが! 天使の輪が頭に付いたさっきのスライムが目の前に! 色すら変わって白くなってるし!
「どうも! スライム改めエンジェルスライムです! さっきは危ない所をありがとうございました!」
いや、危ないというか致命傷でしょ……。
「……え、何、もしかして一回天に召されてから俺のことを倒しに来たんですか……?」
「いえ! さっき助けて頂いたお礼をと!」
「いやいや! お礼って完全にこっちも召しに来たってことだよねそれ!」
やばい逃げなきゃ! 一緒に召されちゃう!
「お、落ち着いてください! 召されるのは僕だけで十分ですから!」
「一回召されてるは召されてるんだねっ! もうやだ! こんな思いするなら宿屋にこもって大魔王様に殺された方がマシだったよぉおおおお……」
「ちょっと話を聞いてください!」
「……」
このスライム……、光り輝きながら飛び跳ねてるから怖いんだよ……、不安で仕方ないんだよ……。口調がまだ優しいからいいけど、これで大魔王様みたいな話し方だったらショック死してるからね俺っ……。
「聞く耳持つ前に俺のメンタル持たせてくれよぉおおお……」
というか、なんで魔物の話聞かなくちゃならないの……。
「怖いのに必死にツッコミ入れてる俺の気持ちを考えてよぉおお……」
「何かお困りですか!」
うっ……目がキラキラしてより一層眩しいっ!
「困るも何も人生に迷ってる最中だよ……脅されるわ荷物持ちさせられるわ港まで向かわなきゃいけないわで泣きそうなんだよぉおおお……」
なんで俺魔物に愚痴ってるんだろう……。
「ほう! それはお力になれるかもしれません!」
「え?」
スライムの光が後光のように見えた瞬間だった。
「今なんて?」
「お力になれるかなって!」
あれ、思えば会話が成立してる!
「本当ですか?」
「本当ですです!」
なんだろう。会話出来るからかすげえ安心するんだけどなんだこれ……!
思わず「です」って言っちゃったよ。魔物に対して敬語使っちゃったよ俺っ。
光り輝くスライムと体操座りで向かい合う。
「えっと、貴方はどちらから来たんですか?」
「カナート村から来ました……」
スライムがまたパァッと光って!
「ってちょっ、眩しっ――」
「あぁああ! もしかしてカナート村の宿屋の息子のモブさんですか!?」
すごい長い俺の自己紹介を勝手にされた……。
「ってかモブさんって誰……。俺には名前なんて無いんだよ……名前あってもモブなんて名前なら要らない……」
「改めまして!」
「……ん?」
敬礼のつもりなのかな。キリッとした顔つきになったけど、手が無いからよく分かんない。
「元魔王バルザック様に頼まれて夜道のご案内に参りました!」
…………。
「………………え?」
「どうしましたか!」
こいつってもしかして大魔王様の使い魔的なやつなの?
「大魔王様の味方なの……?」
「はいです!」
剣が体に刺さって「た、助けて……」とか言ってたこれが!?
「えっと、確か〝村人が勇者を引き連れてカナート村からマルータ港に向かうから案内してやれ〟って! 道迷うといけませんからね!」
「いつ言われたの?」
「今日パーティー会場で言われました!」
大魔王様根回し早すぎぃ!
「どうやってここまで来たの?」
「バルザック様に王城にあった剣で刺されたまま投げられて着地したのがさっきの場所だったんですよね! テヘッ☆」
「〝テヘッ☆〟じゃないよっ! よく大魔王様のこと許せたね! 器でかすぎるよ! リュックサックくらいの体に海のような心の広さを持ってるじゃんか!」
「えへへ……そんなに褒められても体液しか出ないですよっ♪」
言ってる内容は無視するけど、照れてるスライムを見て初めて「あ、魔物可愛い」って思えたかもしれない。
「お前良い奴なんだね……ぐすっ……」
「はい!」
自分で言うんかいっ……。
「それで……えっとスライム君は今どこに居るのか分かるの?」
「投げられてここまで来たので分かってません!」
「キリッて顔しないで……、つまりここがどの辺りとかも分からない感じ?」
「はい!」
「返事はいいなおいっ!」
この後、スライムを松明兼用心棒に朝まで眠らせてもらいました。




