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勝ったの……?
あ……食いコンドルが光の粒になって消えていく!
……。
「え、これだけ?」
経験値は!? っていうか大魔王様「魔物は片付けた」って言ってたよね!?
「ちくしょうっ……。信じていた人――じゃなくて信じてた大魔王様に裏切られた……」
どうしよう、魔物出てくるとか聞いてたけど聞いてないよっ……。全員葬ったって言ってたじゃんか……。
これは早くマルータ港に向かった方がいいかもしれない……。
魔物居ないって聞いてたからゆっくり出来ると思ってたのに、これじゃ夜危険すぎるじゃんか……。
「と、とりあえず急がなきゃ!」
しっかりロープを持って、と!
「……」
そういえばこの道ってどんだけ歩けばマルータ港に辿り着けるんだろう。
村と港との距離遠すぎるでしょ。本当の田舎じゃねえか……。
「っていうか村の周りにあんな変な魔物が居たと思うとゾッとするわ……」
変態魔物とは金輪際、遭遇したくないです……。
「そういえば今何時なんだろう。太陽もそろそろ沈みそうだし……」
太陽が沈んだ後に魔物が現れでもしたら危ないよな……。テントでもあれば良かったのに――
「って、大魔王様が道具屋の主人連れ去るからぁぁああああ……!」
太陽が沈むのが先か、俺が港に辿り着くのが先か……。
「うん、こういう二択の時って常に悪い方しかなってないよね……。今回も真暗になるのがどうせ先なんでしょ……。リアルお先真暗だよっ……」
ん???
「おっ、何か落ちてる! 剣っぽいものがあるじゃん! 天のお恵みかなっ!」
地面かなにかに刺さってるけどあれは役に立ちそうだ!
勇者を引きずりながら急いで近付いてみる。
お、見えてきた見えてきt――
「こ、こ、これはぁああああああ!」
地面じゃなくて一般的な魔物に剣が! 剣が刺さってるぅぅうう!
丸い柔らかそうな楕円形のボディに尖った天辺の角のようなもの……。緑色過ぎて気持ち悪いけど、これってもしかして――!
〈スライムが現れた!〉
「うぉお! すげぇ! やっぱりスライムだ! やっぱり最初に会うのは……ふつうはスライム、だよな……」
さっきの奴はノーカウントだ。
スライムってそう言えば青いイメージだったけど――
「スライムの顔色悪っ! トイレの大きい方我慢して限界に近いときの顔してるよっ! 痛々しすぎて見てられないよっ!」
剣が突き刺さってるんだけどこれって瀕死だよね? 重傷だよね……?
スライムが透けてるせいで汗をかいているのか体液が出てるのか分かんねえ!
「おーい、大丈夫?」
「あ、あの……」
「え、勇者さん!?」
振り返って確認! してみたものの微動だにしてない!
「すいません、こっちです……」
「ファヒッ!?――――いやぁあああああっ!」
スライムがくりっとした目に涙を浮かべてめっちゃこっち見てるぅうう!
まさかこれが喋るなんてことは――――
「これ抜いてくれませんか?」
「キャァア! シャベッタァアアアアアアアアア!」
あっ、つい条件反射で蹴ってしまっ――
「フンギュァアアアアア!」
スライムが絶望して――なぜか頬を染めている!
「ダメージ受けた時の声もう少しどうにかならんのかいっ! フンギュアアアってなんだよ。足の小指を軽くぶつけただけなのに意外にダメージでかかった時みたいな声しやがって!」
「ブクブクブク……」
「いやぁ!――――口から泡出てるっ! バブルスライムか! こいつはバブルスライムだったのか!?」
「ブクブクブク……」
剣がぬるっとスライムの体から抜け落ちた……。
ベッタベタで触りたくない……。
「ア、アリガトゥ、ゴザイマシタ……」
とどめを刺したのが俺かもしれないのにお礼を言われても……。
「ブクブクブク……」
完全に白目を向いてノックダウン状態のスライム。
「きみ、大丈夫……?」
「……アハァン」
「……」
うん、これはもう、放置でいいか……。
「もう少しまともな魔物って居ないのかな……」
パンツ穿いてるコンドルに剣が刺さって既に瀕死のスライムとか……。
「魔物が好き勝手にしてるというか、自分の道をエンジョイしてるよねこいつら……」
さあ、気を取り直して……。
さっさとマルータ港目指そう。もう魔物は要らないからな。変な魔物は勘弁だからなっ。
空……暗くなってきたな……。




