029
カナート村の南にしかない入り口に勇者と二人きり。
ボロボロの木に「カナート村」と書かれている看板を発見。そこから南にまっすぐ延びる砂利道、そして左右に広がる草原――ではなく枯れ草の山……、それに加えてどんよりした空模様……。
地獄絵図だよ……、破けた服のせいでこの世で最後の生き残り、レジェンドマンみたいになってるよ俺……。
「ここは世紀末ですか、ここは最後の村ですか、俺の服ってどうにかならないんですか……、寝たら直るよく分からないシステムに俺の服は適用されないんですか……」
ちらっと服を再確認。
……されないんですね。
「はぁ……」
見た感じ絶望しかないよ……。
マルータ港に着いたとしても町が壊滅してる可能性すら感じるよっ!
「先が思いやられるなんてもんじゃないよコレ……」
村と砂利道との境界線越えたくないなあ……。もうちょっと家で粘った方が良かったんじゃないかな。でも、お金取っちゃったし帰るに帰れない……。
「はぁあ……」
行くしかないよなぁ。
勇者を連れて出発……。
「……うん、このジャリッとする感覚、好きじゃないわ……」
ジャリッジャリッ……ズサッズサーッ……。
ようやく勇者と共に旅が始まったけど、村人に引きずられる勇者が始まりで良いのか?
◇◇◇
勇者を引きずりながらかれこれ多分二三時間くらい歩いた、と思う……。
「ホッフハッフ! エイサー! ワッショイ! ホッホー!」
ふっは、ふっ、うふっ、うふふ……。
やばい、歩きすぎてテンションがおかしい……!
ちょっと辺りも暗くなってきたし嫌だなぁ……独りぼっち辛い……。大魔王様みたいに話し相手が欲しい……。
「……」
振り返って勇者をちらっと確認。
「ああぁ……旅の始まり方で一番ダサいんじゃないのコレ……」
いやあ、俺だって初めての旅なんだからすごく楽しみにしてたのにさ。なにこれ。
「辛いよっ! この状況が辛いよぉおおお……」
多分、延々続くこの一本道を二三時間も歩いているせいかな。汗と涙が止まらないよっ……。
「こんな道のりって知ってたら自分の部屋にこもりますがな……」
……。
「がな、って俺どこの人間だよ……、語尾不安定で都会に来た田舎者みたいな感じになってるじゃないか……いや、あの村の感じだと田舎者であってるのか……」
周りの草木が全部枯れ果ててるせいで散歩って気分にもなれない……。
「辛いです……、辛いです大魔王様……」
本当に魔物も居ない……。魔物の「魔」の字すら見当たらない……。
何が言いたいかってそりゃ――
「道をひたすら歩いてるだけとか退屈過ぎるんですけどぉおお!」
魔物も居ないせいで歩くだけが取り柄の村人になっちゃったよっ。本気でやることないわ!
「うーん……荷馬車的な、馬的な何かがあれば良かったんだけどなぁ」
あいにく、俺は商人の息子じゃないんだ……。宿屋の息子なんだよ……。荷馬車とか生きていくのに不必要なの……。
「もしかして、これがモブの定めというものなのか……! いや、俺はモブなんかじゃ、モブなんかじゃないもん!」
くっそぅ……、こんなことになるなら商人の息子の方がまだマシだったよ……。荷馬車でゆっくり旅が出来てたよっ!。
足が痛い、止まりたい、しんどい疲れた帰りたい……。
勇者のやつ交代してくれないかな……。
「……あの、勇者さん、生きてます?」
「…………」
「うん、知ってた……」
安定の反応なしに自然と頷いてしまった。
「あー、帰りたい……」
帰って寝心地の悪いベッドで寝たいよぉ……。
村を飛び出して二三時間でホームシックだよ俺……。「ベッドと勇者どっち取る?」って聞かれたら迷わずベッドに飛びつくレベルでホームシックだよ……。
「はあ……。あーだ、こーだ言っても始まらないんだけどさぁ……喋り開いてが欲しい……」
あ、そうだ。適当な大きさの石ころ蹴りながら歩こう。
「どれがいいかなー……ん?」
道の向こうになにか変なのが見えた気が……。
「うん……?」
なんだろう。けっこう大きなものがこっちに――
「うーん、鳥か……?」
まぁいいや――お、丁度いい石ころ発見っ♪
「クワァー!」
「ヒャッ……!」
「え、なにあれ! なんかすっごいのがこっちに向かって来てるんですけど!?」
目の前の鳥なんかおかしい! ブリーフパンツ! 鳥がブリーフパンツ履いてる!
「えっ、ちょっと、こっち近づいてきてるキモッ!」
〈魔物:食いコンドルが現れた!〉
「コンドルかいっ! 天の声ありがとうっ!――というか魔物っ!?」
すごく出会いたくない魔物が目の前に……。
しかもパンツの履き方がピチピチな上に思いっきり食い込んでる……。足のラインが地味にキレイに見えてうざい……。
「クワーッ!」
え、何、新手の魔物過ぎて手に負えないんだけどっ!
「いや! 気持ち悪いよぉおおおおおお!」
「クワー!」
目ん玉見開いてめっちゃガン飛ばしてくるじゃん!
「ひぎぃ! きもいぃいい!」
すでに目の前にっ!
どうしよ、どうしよう……。こんなの素手で殴ったら俺の手が汚れちゃう……。
何か手ごろなサイズの武器があれば――
あるじゃないかっ!
「うぉっらぁああああ!」
蹴ろうと思ってた石ころを食いコンドルめがけて投げる!
「クエェエエ……」
見事的中!
「やった! 俺ってもしかして投げるのだけは天下一品かもしれない!」
バタンと倒れたコンドルが股をこっちに向けて倒れた。
……俺、あれがコンドルとか絶対に認めないぞ。魔物図鑑にあれが載ってるなら未確認生物の図鑑に載せるように訴訟するわ!
〈食いコンドルを倒れた!〉
「ファッ!?」




