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 待て待て。全財産取られたら、マルータ港での買い物が一つも出来なくなっちゃうじゃないか。

 もう一回親父の金盗むとか道徳的に、良心的に考えて俺にはできないっ……。


「ごめん、今渡したお金ちょっと返して」


 はいとバーカウンターに置いたお金を取り返してポッケの中に。


「あ、あ、あのね親父……お、俺、大事な用があるんだ。だ、だからその、あ、あとで返すから、今は保留ってことで――」

「お客様、9600Gになります」


 俺の心を見透かすような目が怖い! 何考えているのか分からない目が怖いよ親父っ!


「お、親父……あの……」


 無表情でじっと見つめてくる親父……。


「お、親父……」


 ……。


「うっ……」


 チャリーンチャリーンチャリーン。


 くっそ……。そんな死んだ魚の目で見つめられたら払うしか選択肢ないじゃん……。

 ちくしょう……目ぇ怖いって……。「お前、何してくれてんの?」って言わんばかりの目してるじゃん……。


「お買い上げ、ありがとうございました」

「声に感情入ってないんだってば!」


 虚ろな目で感謝の言葉述べられても恐怖しか生まれないからね!


「ほんと、その目マジで怖いからやめてっ……こっち見ないで……!」

「ようこそ、カナート村へ。宿代は150Gになります」


 〈はい/いいえ〉


「んぁああ! うぜぇ……!」


 あー……、もうさっさと勇者引っ張って出発しよう……。

 ……とりあえず親父から離れてと……。

 よいしょよいしょ。


「よし、できた!」


 勇者を結んだロープをぎゅっと掴んでみる。


「……」


 罪悪感が半端ない……!

 なんだろう……やっちゃいけないことをしている気がして……、俺の心の中の天使が泣いてる……血の涙を流して泣いてる気がする……。

 でも、ごめんよ天使さん……。こいつを野放しにするとどこに行くか分かんないし、こいつを逃がしたら俺殺されちゃうかもしれないから……。

 はい、というわけで――


「出発しようっ! そうしよう!」


 ぎゅっと今一度ロープを握り締めて……。


「……あ、そうだ」


 勇者の能力とかってどうなってるんだろう。

 旅立つ前の仲間のステータスチェックは大事だよね。


「……」


 うむむ……、ステータスってどうやって見ればいいんだ……?

 どこだろ……、どこで見れば……。


「あ――」


 頭の中でコマンドっぽいものがふと浮かんだ。


「物は試し……か……」


 勇者に向かって――


「ふっ!」


 ……。


「ほっ!」


 ……。


 気合が足りないのかな……。


「ふんにゅぁああああ!」


 〈○〉


「出たっ!」


 名前:???

 職業:???

 LⅤ――1

 HP――3(MAX32)

 MP――0(MAX0)

 攻撃――7

 防御――6

 魔法攻撃――1

 魔法防御――5

 素早さ――1


 ……これなんだね、これで見れるんだねっ!


「コマンドっぽいものの万能感がすごいっ!」


 俺のステータスもこうなると気になってきたぞ……。


「ゴクリんぬ……」


 俺のステータスはどんな感じかな!

 ちょっと久しぶりにテンションが上がって来たぞっ!


「……声を振り絞りながら自分にあれを使うのか……?」


 うっ……、自分に使うのはいやだけど仕方ない……。ステータス確認しなきゃいけないもんね。ステータス確認は大事だもんね!


 深呼吸……。


「……ふにゅうぅうぁああああ!」


 〈○〉


 キリッ!


「ようこそ、ここはカナート村ですぅうういいやぁああああああ!」


 ちがうっ! 思ってたのとなんか違うっ!

 自分の手や顔をぺたぺた触って確認っ!

 異常なし! ステータスもなし⁉ そんなバカな!


「え、モブだからステータスが無い……?」


 いやいや、俺モブじゃないもん……。モブなんかじゃ……。

 もう一回やれば出てくるかもしれない。


「ワンモアァアアア!」


 〈○〉


 キリッ!


「ようこそ、ここはカナート村ですぅうぅう……!」


 うぐっ……うっ……うわぁあああああん……。


「確認しなきゃ良かったよぉぉおお……」


 がっかりだよ……自分の立場にがっかりだよ……。


「うぅ……なんて惨めなんだ……ぐすっ……」


 一気にやる気なくなった……。でも、行かなきゃな……。

 悲しみは全てこの宿屋に置いて行こう……。あ、お金は置いて行きたくないな……。

 足元には縛った勇者、バーカウンターにはただまっすぐ一点だけを見据える親父。


「誰も見てないし……」


 仕方がない……やるか……。

 サササッとカウンターの中に侵入!

 9600Gを拾った!


「……」


 うん、拾いました。カウンターの中にあるお金を拾っただけです。決して盗んだとかじゃありません。


「んじゃ、お、おお、親父、い、行ってくるよっ!」


 声が震えてるけど気にしないっ!

 親父の視線が突き刺さってる気がするけど気にしちゃダメだ、気にしちゃダメだ……!

 一目散に勇者まで走り込み、ロープを掴んで扉を開け逃走っ!


「い、行ってきます! お金は後で返すからねっ! またここに戻って――」


 来れるのか……?

 俺って無事に帰って来れるのかな……。ううん、今考えても仕方ないか……。


「と、とりあえず行ってきます!」

「ご利用ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

「反応は相変わらずかいっ!」



 ――俺は振り返らず、全速力で宿屋を後にした。

 途中、さすがに勇者を引きずって行くのが申し訳なくて、丁度良い木の板に勇者を乗せて引っ張って行った。

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