028
待て待て。全財産取られたら、マルータ港での買い物が一つも出来なくなっちゃうじゃないか。
もう一回親父の金盗むとか道徳的に、良心的に考えて俺にはできないっ……。
「ごめん、今渡したお金ちょっと返して」
はいとバーカウンターに置いたお金を取り返してポッケの中に。
「あ、あ、あのね親父……お、俺、大事な用があるんだ。だ、だからその、あ、あとで返すから、今は保留ってことで――」
「お客様、9600Gになります」
俺の心を見透かすような目が怖い! 何考えているのか分からない目が怖いよ親父っ!
「お、親父……あの……」
無表情でじっと見つめてくる親父……。
「お、親父……」
……。
「うっ……」
チャリーンチャリーンチャリーン。
くっそ……。そんな死んだ魚の目で見つめられたら払うしか選択肢ないじゃん……。
ちくしょう……目ぇ怖いって……。「お前、何してくれてんの?」って言わんばかりの目してるじゃん……。
「お買い上げ、ありがとうございました」
「声に感情入ってないんだってば!」
虚ろな目で感謝の言葉述べられても恐怖しか生まれないからね!
「ほんと、その目マジで怖いからやめてっ……こっち見ないで……!」
「ようこそ、カナート村へ。宿代は150Gになります」
〈はい/いいえ〉
「んぁああ! うぜぇ……!」
あー……、もうさっさと勇者引っ張って出発しよう……。
……とりあえず親父から離れてと……。
よいしょよいしょ。
「よし、できた!」
勇者を結んだロープをぎゅっと掴んでみる。
「……」
罪悪感が半端ない……!
なんだろう……やっちゃいけないことをしている気がして……、俺の心の中の天使が泣いてる……血の涙を流して泣いてる気がする……。
でも、ごめんよ天使さん……。こいつを野放しにするとどこに行くか分かんないし、こいつを逃がしたら俺殺されちゃうかもしれないから……。
はい、というわけで――
「出発しようっ! そうしよう!」
ぎゅっと今一度ロープを握り締めて……。
「……あ、そうだ」
勇者の能力とかってどうなってるんだろう。
旅立つ前の仲間のステータスチェックは大事だよね。
「……」
うむむ……、ステータスってどうやって見ればいいんだ……?
どこだろ……、どこで見れば……。
「あ――」
頭の中でコマンドっぽいものがふと浮かんだ。
「物は試し……か……」
勇者に向かって――
「ふっ!」
……。
「ほっ!」
……。
気合が足りないのかな……。
「ふんにゅぁああああ!」
〈○〉
「出たっ!」
名前:???
職業:???
LⅤ――1
HP――3(MAX32)
MP――0(MAX0)
攻撃――7
防御――6
魔法攻撃――1
魔法防御――5
素早さ――1
……これなんだね、これで見れるんだねっ!
「コマンドっぽいものの万能感がすごいっ!」
俺のステータスもこうなると気になってきたぞ……。
「ゴクリんぬ……」
俺のステータスはどんな感じかな!
ちょっと久しぶりにテンションが上がって来たぞっ!
「……声を振り絞りながら自分にあれを使うのか……?」
うっ……、自分に使うのはいやだけど仕方ない……。ステータス確認しなきゃいけないもんね。ステータス確認は大事だもんね!
深呼吸……。
「……ふにゅうぅうぁああああ!」
〈○〉
キリッ!
「ようこそ、ここはカナート村ですぅうういいやぁああああああ!」
ちがうっ! 思ってたのとなんか違うっ!
自分の手や顔をぺたぺた触って確認っ!
異常なし! ステータスもなし⁉ そんなバカな!
「え、モブだからステータスが無い……?」
いやいや、俺モブじゃないもん……。モブなんかじゃ……。
もう一回やれば出てくるかもしれない。
「ワンモアァアアア!」
〈○〉
キリッ!
「ようこそ、ここはカナート村ですぅうぅう……!」
うぐっ……うっ……うわぁあああああん……。
「確認しなきゃ良かったよぉぉおお……」
がっかりだよ……自分の立場にがっかりだよ……。
「うぅ……なんて惨めなんだ……ぐすっ……」
一気にやる気なくなった……。でも、行かなきゃな……。
悲しみは全てこの宿屋に置いて行こう……。あ、お金は置いて行きたくないな……。
足元には縛った勇者、バーカウンターにはただまっすぐ一点だけを見据える親父。
「誰も見てないし……」
仕方がない……やるか……。
サササッとカウンターの中に侵入!
9600Gを拾った!
「……」
うん、拾いました。カウンターの中にあるお金を拾っただけです。決して盗んだとかじゃありません。
「んじゃ、お、おお、親父、い、行ってくるよっ!」
声が震えてるけど気にしないっ!
親父の視線が突き刺さってる気がするけど気にしちゃダメだ、気にしちゃダメだ……!
一目散に勇者まで走り込み、ロープを掴んで扉を開け逃走っ!
「い、行ってきます! お金は後で返すからねっ! またここに戻って――」
来れるのか……?
俺って無事に帰って来れるのかな……。ううん、今考えても仕方ないか……。
「と、とりあえず行ってきます!」
「ご利用ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
「反応は相変わらずかいっ!」
――俺は振り返らず、全速力で宿屋を後にした。
途中、さすがに勇者を引きずって行くのが申し訳なくて、丁度良い木の板に勇者を乗せて引っ張って行った。




