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027

 まるで登山家の如く! ロープを肩にぶら下げていざ、勇者捕縛の旅!


「旅の始まり方が微妙すぎるっ……」


 いや、うん、やる気出たからいいけどさ……。でも、このやる気って恐怖支配のやる気だからいまいちピンとこない……。

 改めまして扉を開く。

 階段をするする~っと下りた途中――


「あっ……」


 ガクンと、階段の手すりを掴んだまま、俺は静止した。いや、停止した。

 階段を降りて目の前、バーに座ってコーヒーを飲む捕獲対象の――勇者。

 思ってたよりだいぶ近くに居たんですけどっ! もう村から出てるかと思ってたわっ!

 世界を舞台にリアル鬼ごっこ始めないといけないのかと心底心配してたのにっ!


「よっと……」


 俺はバーに座る勇者の隣にそっと座った。

 相変わらずのフードを被った姿で装備が見当たらないけど……まぁ今はそんなことよりも!


「あのさ、勇者さん!」


 カウンターに肘をついて勇者の顔をまじまじと見つめ――

 ビチャッ!


「イヤァッァァアアア! 熱っ! あっつ!」


 ぽた、ぽたと良い香りのするコーヒーが全身に……。

 ぶっかけられたせいで、顔も服もコーヒーでびちゃびちゃだよ……。俺の一張羅なのに。多分、親父がくれたであろう、頑張って稼いで買ってくれたであろう一張羅なのに……。

 ダサいし穴開いてて破れまくってて悲惨な状況だけどね!

 はぁ……茶色に染まったらもう着れないよな――


「――って、元々服が茶色のせいであんまり見た目が変わんないっ!」


 よ、よし! ビジュアル的にはなんら問題は無い! 強いて言えば、やっぱり俺の見た目の格好悪さに一目置いてしまうことと、服が破れてやばいことになってることくらいかな! それとコーヒーの匂いすっごい! 良い豆使ってるんだね親父!

 ハッ! そんなことよりも――


「勇者さ……あれ?」


 隣に居たはずの勇者が居ない!

 いつの間にか入口の近くに!


「勇者さん! 待って! ほんとに待って!」

「……」


 入り口の前で立ち止まって振り返ってくれた勇者。

 一応立ち止まってくれたことに感謝!


「勇者さんと一緒に行動しないと大魔王様に殺されるんです! 頼むから待って! 待ってくださいお願いします!」

「……」


 めっちゃお願いしてるのに勇者が無視して立ち去ろうとする。


「待ってください勇者さん!」


 ちらりと振り返る勇者。やっぱり振り返ってくれるんだねっ! そういう所は好きっ!


「よいしょ……」


 俺は椅子から下りて勇者に頭を下げてお願いすることにした。


「俺と一緒に旅をしてください!」


 愛の告白張りに右手を差し出しながら言ってみたけど恥ずかしかった……。

 西部劇風の扉がキィ……と音を立てたのが聞こえる。


「あ、ちょっと出て行こうとしないでください! 勇者さん! 勇者さん⁉」


 くそっ……やっぱり聞く耳持たないか……! さっきの俺の感謝を返してくれっ!

 近くにあるのはロープと……バーカウンターの上にワインの入ったボトルが数本。

 俺には、ロープで悪党を捕まえるような西部劇のカウボーイみたいなことは出来ない……。でも、そんなことをせずとも生け捕りにする方法はいくらでもある!


「せいやぁあああ!」


 俺はカウンターに置かれているワインボトルを握り締め力一杯に――――投げた。

 見事、勇者の後頭部にワインボトルの底が命中!

 ドゴッと鈍い音と共に倒れていく勇者。

 投げ終わった姿勢を維持したまま勇者を凝視する。


「や、やったか……⁉」


 念のためにもう一本用意っ。起き上がったらもう一度投げつけてやるんだからね!


「……」


 ワインが割れてさながら、血のようで……。


「うっ……気持ち悪い……」


 大魔王様の一件で血を見るの苦手になっちゃったかもしれない……。

 ちょっとしゃがんでひと休み……。


「――お客様」

「……今すごく気分悪いから話しかけないで……」

「お客様」

「なんだよもう……!」


 親父の無機質な声に振り返った。


「えっぷ……」


 遠心力で中身がっ……!


「お客様」

「もう、なにっ!」


 バーカウンタを下から見上げて親父の方を見てみ――


「お、親父っ!? どこ向いて喋ってるの!? 俺しゃがんでるんだから下見て下っ! 完全に目に見えない誰かと喋っちゃってるよ! 真っ直ぐ前見ても誰も居ないからねっ! そこに俺は居ないからねっ!?」

「お客様」

「……いや、ほんと、自分の息子にお客様って言うの止めて……。心が痛いよ親父……」


 まあ、言っても無駄なんだけどさ……。


「お客様、9600Gになります」

「……ん、え、なにがっ⁉」

「お客様、9600Gになります」


 あ、もしかしてあの勇者の近くで割れているワインとこの持ってるワインのこと⁉


「ご、ごめんごめん、そんなに高いものだと思ってなくてさ。今返すから……」


 よいしょと、ワインを一本元の位置に……。


「お客様」

「いや、その、一本はごめんなさい……」


 う~ん……。割っちゃったし一本分の値段は払ってあげないといけないかな……。


「はい、4800G。元々親父の金だけど……」

「あと、4800G足りません」

「え、ワイン一本で9600Gするの⁉」

「お客様、9600Gになります」

「え、ちょっと待って……残り4800Gって足りるかな……」


 ってかそれ……。


「俺の手持ち全部じゃねえか!」

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