026
「ん、置いといた装備は……?」
柱の近くに放置した装備一式が無くなってる。あれ失くしたら大魔王様怒るかな……。
「いやまあ、俺は装備出来ないしいいや……そんなことよりお布団」
別に装備が消えたって、俺が装備出来ないなら要らないし。布団装備して一日寝る方が、あんな重たいの装備して歩くより良いに決まってるもん。
もし仮にあれで魔物と戦ったとするじゃん。魔物と戦うという恐怖を払拭するのにまず五分。武器をふるふると持ち上げるのに最低2分。
振り下ろすのは一瞬だろうけど、七分もあればタコ殴りにされる。絶対される。
いわゆるターン制で相手が順番待ちしてて、俺が振り下ろせたとしても空を切るだけで終わりそう。そのあと魔物の攻撃、俺空振り、魔物攻撃、俺空振り……。
「悲しいわ……容易に場面が想像できちゃうから余計に悲しいわ……!」
布団を握り、ベッドにどすっと寝っ転がる。そう。俺が装備できなきゃ意味ないんだもん。勇者になって装備一式着こなすとか、魔王を倒すとか、可愛い子と付き合うとかが大事なんだもん。
そうだ……。魔王への最後の一撃は俺が決めないと可愛い子たち全員勇者に持って行かれちゃう! そんなことあってたまるかっ!
勇者の地位でハッピーエンド迎えて美人さんとお付き合いするのは俺なんだ!
あんな無口で友達が一人も居なさそうな――……いや、ごめん勇者……。友達の事は撤回しておくよ……。
人には人の、俺には俺の事情があるからね。あんまプライベートな面に触れると可哀想だからそっとしとこう。ボッチだって、ほんとは誰かと話したいもんね……グスンッ……。
とはいっても、どうせ旅に出ても会話できる奴居ないんだろうな……。
「あっ!」
眠い、超眠いぞ。
眠気って急に襲ってくるタイプがあるよね。ハッと何かひらめいた時の感覚と、急に眠気が襲ってくる時の感じって似てる気がする。
うん、どうでもいいな……寝よ……。
「ふーすー……ふーすー……」
あー、ぐっすり寝れそう。勇者も寝たまま(?)だし、あとは大魔王様のことを心配してガクブルするだけだね。
夢の中だけでも勇者でありますように……。
大魔王様も勇者も出てこず、俺が名誉も地位も手に入れて、彼女と二人で世界を救う物語になっていますように……。ハーレムなんて要りません。彼女一人居れば十分なんです、欲張ってたくさんの女の子とイチャイチャするとかそんなのダメなんです。そこまで望んだら滅亡するのは分かっているんです。
「……」
いや、そもそも俺には関係ないか……。
魔王を倒しても女の子たちは一人もこっち振り向いてくれないんだろうなぁ。
勇者と一緒に居たとして、女の子が来たとして、キャッキャうふふの中で俺はなんて呼ばれるか。
「――モブよモブ」
「――ほんとだわ、モブよ」
「――モブだわ! モブが勇者様の近くに居るわ!」
「――ああ、モブモブしい! なんてモブモブしいのかしら!」
「――やだ、勇者がモブに染まっちゃう!」
……。
「うぐっ……、目からしょっぱいの出てきた……」
さっ……、もう寝てまた明日――
バタンッ!
「ひゃうんっ!? んっ!?」
音に驚いて聞こえた方をバッと振り向く。
「なんだ、扉かぁ……」
急に閉まったからびっくりした……。
「もう……、脅かすなら他所でやってくれよ……」
開け閉めするときに結構響くんだから、もうちょっと慎重に閉めてもらわないと困るよほんと……。
「むにゃむにゃ……」
布団に顔を埋めて寝る態勢に入る。
扉にはびっくりしたけど、人間の三大欲求の一つ、睡眠をなめないでほしい。いざとなれば椅子に座りながらでも、背もたれか何かがあればそこは立派なベッドなんだ。少し腰に負荷がかかるけど。たまに「ガクッ」てなって起こされるけどっ。
「……いや、いやいや」
むくっと上半身を起こして扉を見つめた。
「いや、そもそも……。扉を閉めたの誰なのっ⁉」
ゆ、幽霊とかそういった類のものはダメだから……、俺そういうの弱いからっ! 怖い話された日には布団に潜って布団の端を全て内側に織り込んで、幽霊が中に入らないよう必死に体を折り曲げて寝るタイプの子だからっ!
心臓がバクバクしてる……。
「た、確かめないと……ダメだよね……」
部屋の中を見回してみると無くなったものがいくつか……。
大魔王様がくれた装備品一式と勇者。
「……」
勇者が居ない。装備がない。扉がバタン。
今、最悪の状況を考えたく無いから、霊的現象のせいにしようと思ったけど、これはどう考えても……。
「……あんにゃろう! 逃げやがったなっ!」
扉を開けて急いで階段を下りていく!
「まあ、そう遠くには行ってないだろ、くっそぉお……、勇者に逃げられたらほんとに殺されちゃう! 俺の首どころか体が消し炭になっちゃう!」
念のためにポッケに入れてあるお金を確認!
地図もある、お金もある!
あ、勇者を捕まえる用のロープがない!
一旦、部屋に戻ってロープをゲット!
「よし、勇者捕獲作戦開始っ!」




