025
――カナート村宿屋一室
「ちゅんちゅん」
「……」
「ピヨピヨ」
「ん~……」
「ピギャーピギャー! ピュギョエエエエエ!――」
「やっかましいわぁあああ!」
もはや最後の一匹奇声だよっ!
窓枠には小鳥が二匹と一匹見慣れた目つきの悪い鳥が!
「こっち見んなよっ!」
憂さ晴らしついでに枕を窓枠の方に投げつけて鳥を退散させる。
「はぁ……朝からなんて目覚ましを……」
っていうか、あの目つきの悪い鳥はなんなんだ!
「あ、そうだ。勇者――」
昨日の状態から何も変わらず床に寝転がっている勇者……。
あ……。
「ベッドに運ぶの忘れてたぁあああああああ!」
大魔王様と色々ありすぎて運ぼうとしてたの完全に忘れてたよ……。
「勇者ベッドに運ぶの忘れてるし、多分、床に寝転がったままのあれは体力0、だよなぁ……」
……。
「はぁぁぁぁ……」
どうしよう、今日一日休む? 休んじゃいますか?
一週間の疲労が心身共に溜まってるんだ。このままベッドで寝かせてもらおう。
それに一日休んだくらいで世界滅亡とかしないだろうし。さすがに、パーティーの翌日に世界を破滅に導くようなことしないでしょ。
サッと布団に潜り込み、まだ残る温もりが不安を少しだけ紛らわせてくれた、気がする。あー、ぐっすり眠れそうだし昼まで寝てやろう。どうせ大魔王様も来ないだろう。
一日休んだって大丈b――
「ん、待てよ……」
そういえば、大魔王様「またマルータ港でな」みたいなこと言ってなかったかな?
いつ頃になるか分からないけど、そのうち港に来るってことだよね。俺がもし港に着いてなかったら……。
――マルータ港が見える街道を歩く俺と勇者(※こちらはイメージです)
明朝、港の方から昇る太陽に、港の街が綺麗に浮かび上がる。
「あ! ようやくマルータ港ですよ勇者さん!」
後ろを歩く勇者へと振り向き、笑顔で言う俺。
「おお、ようやく見えてきたか」
と、眩しい日差しを手で覆いながら勇者が答える。
「やっと俺の装備が手に入りますね!」
「そうだね。これから本当の始まりだ」
「ありがとうございま――ヒッ、ヒャァァアアア!」
傘をさせば間違いなく一瞬で折れるであろう強風を巻き起こすそれは……。
宙に浮かんで、恐怖と脅威を感じさせるそのオーラは……!
バサバサと、黒い翼をバタつかせた神父様っ!
まさかの神父姿で大魔王様ご登場っ!
「よう、モブ!」
神父姿の大魔王様が俺達のことをまるで道端に捨てられたゴミを見つめるような感じで上から見下してきた!
「お、お久しぶりです……!」
眉間にシワを寄せて今にも「エターナルなんとか」を打たんとする大魔王様。
「俺がなんでこんなに怒ってるか、分かるか? あぁ?」
「ひゃっ! その違うんですっ! 決して、出発するって言った日からわざとずる休みをしたわけではなくて、勇者がベッドで寝てなかったと言いますか! 寝かせることが出来なかったというか……そう、誤解、全ては誤解なんでs――」
「長ったらしいわ! まとめて三単語と二接続でまとめろぉ!」
ブワァッと黒いオーラが周りに拡散し、その力のせいで俺は土下座していた。
「ずる休みというわけでは、無かったんですぅ……」
地に頭を擦りつけ謝罪。渾身の謝罪。
「言い訳はそれだけか?」
どす黒い声に上を見上げてみる。
「ファァアア⁉」
やっぱり魔王なんだなあ。手の上に特大の火の玉がどんどん大きくなっていってる。
あれが必殺技なのかな……。俺もああいうの死ぬ前に使ってみたかったな……。
「死ね! モブ! 宿屋の息子!」
「や、やめっ……やめてくださいっ! 死ぬ直前に言葉の暴力を振るわないでくださ――」
「――ファ⁉」
気付いたら寝落ちしてた……。
「なんて恐ろしい夢を……ガクブルだよ……」
バサッと布団を剥がして、自分の体を確認。
良かった……生きてる……でも――
「まだ服直ってないんかいっ!」
昨日、丁度手を拭いた部分に穴が開いてて直ってない……!
拳二つ分よりちょっと大きいくらいの穴が胸とお腹の辺りに……。手を振り回していたせいか無数の小さい穴も……。
「直ってねぇ! 寝たら直るのは宿だけなんかいっ! この服は一生の友達じゃないの⁉」
あれ……、ということはつまり、着替えシステムで新しい服に着替えれば良いんですかね⁉ このダサい服は着替えられるということですねありがとうございます!
誰に対してのありがとうなのかは分かんないけど!
「っていうか……、こんな中途半端に露出した服を着ながら、勇者にポッケを弄られていた時に写真撮られたんだよな俺……」
そんなのお婿どころか町にも行けないじゃないかっ! 娘さんに画像撒かれたら社会的に抹消だよ……勇者もろとも物理的にも精神的にでもなく、社会的に葬られちゃうよ……。
「もういい……俺は引きこもるぞ……。知らない、勇者なんて知らない。知ったこっちゃない。こんな惨めな思いをするなら大魔王様に殺された方がマシだわっ……」
布団にもう一度手を伸ばす。
「あれ……」
視界の先に映るはずの、昨日そのままにしてあった装備が無い。




