024
「一回装備付けてみたかったんだよねっ! ふっふっふ!」
まずはこのブロンズソードを拝借! 包丁とかで構えるのとはわけが違うよね!
「ふんふふ~ん♪」
取っ手を掴んで持ち上げ――
「え、重っ……」
重すぎて剣先が床についてないときつい……。これ振り回して戦うとかどんだけ……。
「待って、バトルアックスとか強者の武器じゃん」
ごくり……。
「け、剣は細身のレイピアとかで俺は十分だし、大事なのはアーマーだよなっ!」
ブロンズアーマーだと言われた装備に好奇心で手を添えて――
「……」
うん、触っただけで分かりました。
着たら間違いなく骨が逝く! 折れる!
断言する! 俺には着れる代物じゃない!
「麻のローブとかで十分なんでほんと……こういうのは前衛に任せますので……」
次だ次! 靴くらい履けるだろ!
「……」
これもブロンズなんだね、大魔王様……。
俺、麻のローブに革靴とかでいいもん……。
「はあ、もらったものを装備出来ないってなんかガッカリするなあ……」
あ、でもペンダントくらいなら装備出来るでしょ!
無惨にも地面に置かれた黒く光る宝石が付いたペンダントを持ち上げて……。
首に回して、ほら、よっと!
〈職業が合わないため、真の力を発揮できません〉
「職業って何⁉ てか今どこから声が!」
ブンブンと首を振って辺りを確かめるけど何もない。これが神のお告げという奴なのかなっ⁉
一旦外してもう一回。
〈職業が合わないため、真の力を発揮できません〉
ダメか……。
「……でも、ペンダントを首にぶら提げててもいいんじゃないか?」
そうだ、能力とか無くても、身に付けるだけでいいじゃん! こういうのカッコいいもん!
「――って、オシャレかっ!」
ペンダントを床に叩きつけツッコミを入れる。
……もう、一人でツッコむのしんどくなってきた……。
「あー、もう全部勇者に任せよう。装備させよう。で、骨折れろっ」
ということで、装備放置、勇者放置、休憩っ!
「ふぃ~、ちょっと座ろう……」
剣持ったせいか農作業した後みたいに腰が痛い……。
「どっこらしょっと……」
ベッドに座るのがすごい久しぶりに感じる。朝はベッドから始まったはずなのにな……。
「外もだいぶ暗くなってきたし……」
窓を見ても、飛ぶ鳥も魔物も居ないし平和……。あの目つきの悪い鳥も居ない。
大魔王様すげえや。何の気配もしない。しんとし過ぎてむしろ怖い。
「はあ……。あ、そういえば、ペンダントが言ってた職業ってなんだろう」
勇者は勇者だし、俺の職業って……。
「ん~。勇者の従者? 大魔王様の召使い?」
あはは、あっははー……。
「言い方が良いだけでどっちも中身ないじゃん……最悪じゃんっ! 二つ目に至っては奴隷決定じゃないか!」
何回も考えちゃうけど、ほんと嫌なタイミングで色々なのに出会っちゃったなぁ……。
「はあ~……、ため息しか出ねえ……」
親父元気かな。
どうせ今一階に居るだろうけど……。
「宿屋、か……」
俺の職業って。やっぱりどう考えても。従者とか召使いじゃなくて……。
「宿屋の息子、だよなぁ……」
結論、どう頑張って転んでも、形を変えようと奮闘しても――
「俺はモブなのか……?」
勇者は勇者の子を産むけど、モブはどうしたってモブしか生まない……。
ワシはタカを産めないんだ。血統が全てなの……。
あの幻の屈強な笑顔の戦士も多分生まれが良いんだろう……。
生まれも育ちも関係ない、自分がしたいことをすればいいとか、どこの業界のキャッチコピーだよ。親がそういうこと言ったの一度もねえよ。生まれも育ちも関係ありまくりじゃないか。
『――将来はみんな何になりたいのかなー?』
なんて聞く先生が居るなら真先に、「宿屋継ぐんで」と嫌味ったらしく言ってやるもん。
『他にやりたいことは?』
なんて聞こうものなら、「あ、ほんとそういうのマジ要らないんで。後々のこと考えたら十八から宿屋の経営している方が安全なんで。魔王と勇者は絶対泊まらせないです」って、言い返してやる。あとで呼び出しされてもいいし、むしろ全面戦争じゃ!
「……」
ツッコミ、無音、ベッドにて。
「悲しいわ! 悲しみの極地だよ! 語り合う仲間も居なくて一人でツッコミ続けるってメンタル削られるわ! 抉り取られるわぁ!」
ああ……、辛い。耐えている俺のメンタル世界一位だよ、僧侶も顔負けだよきっと。
……でも、僧侶ならきちんと勇者のパーティーに入れるから俺の負けか……。
「……」
なんか疲れたな……色々と……。
「……寝るか」
一人で考えるの疲れたもん……。
明日、勇者に装備を全部押し付けて道中引きずって歩こう……。
晒し首にしてやる――じゃなくて、逃げだしたら大変だからね。これは決して私情が入ってるとか妬みとか嫉みではない。大魔王様の危機から俺という村人を助けず、ゆっくりコーヒーを飲んでいた馬鹿勇者に憤怒しているわけでもない。
「あー、寝よ寝よ。あっ、布団がっ、優しく、俺を包み込んで、離さないっ……」
疲れが溜まっていたのか、布団に入ったらすぐ寝れました。




