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022

「い、いつの間にか勇者の服めっちゃはだけてる!」


 しかもフードをしたまま顔を横に向けて右腕を胸元に! 左腕をお腹の上に置いてポーズまで!

 何これ怖い……お腹出してたら冷えちゃうよ! かけ布団をとりあえず勇者にかけてあげないと!


 ささっ!


「ふぅ……」


 大魔王様が例の翼を広げ始めた。


「あの……大魔王様、本当にこれと旅しないといけないんですか?」


 さっき翼が開いたことでフードが外れてる。

 勇者が白目を向いて……、青髪に小さい顔……あれ、よく見るとちょっと可愛い……?

 いや、でも勇者だし男だろ……。


「まあ、お前には申し訳ないが、そいつの面倒見てやってくれよ」

「なんで勇者が魔王に育てられてるんですか……」


 大魔王様がチラッとこっちを向いた目が虚ろだった……。


「だって、そいつさ、村のイベント全部スルーしてここまで来やがってよ……。レベルもクソもあったもんじゃねえ……」

「へ、へぇ……」


 拳をぐっと握り締めて悔しそうな上にすごい悲しそう……!

 なので、これ以上掘り下げて聞くのはやめておこう……。


「と、とりあえず、頑張ってみます……」

「まぁ、ときどき様子を見に来るから頑張れよ」


 いや、様子見に来られる方がやりづらいんだけど……息子としては親に見られるとか親戚に見られるとか言うのが一番恥ずかしいんだからねっ。


「んじゃ」


 大魔王様がバサバサと翼を動かす。へ、部屋に突風が――やばっ、やばいって!


「ちょっと、大魔おッさまぁあああああ!」

「なんだぁ?」

「い、家の中で、翼バタつかせるのやめてっ……!」

「聞こえんぞ、なんて言っているんだ?」


 耳をこちらに傾けてくれたけど、翼止めてくれないと……!

 しかも、「はぁん?」みたいな顔がちょっと腹立つ!


「だから、翼をバタつかせるのやめてください!」

「あ、ああ、すまんすまん」


 翼を縮めて大人しく部屋の入口に向かう大魔王様。

 良かった……。


「あ、娘さんのパーティーって時間は大丈夫なんですか?」

「ここから五分くらいで行けるから平気平気。じゃあ、がんばれよ」

「近いんですね! 良かった!」


 出ていこうとする大魔王様に手を振りながら笑顔で挨拶。


「んじゃなー」

「はーい!」


 バタン。


 しんと静まり返る部屋の中……。

 友達が遊んで帰った後のように静か。

 あ、友達居なかった……。ちくしょう……。


「……」


 大魔王様が本当に出て行ったのかを確認するために窓を開けて外を見る。


「うわ、ほんとに飛んでる! すごっ!」


 俺も翼が欲しい……。逃げるための自由な翼が。

 どうか俺に翼を……、翼をください……。


 っていうか……!

「最初っから扉から出ていけよ! 部屋荒れまくりだよ! 一日経てば直るからいいけどさ! あー! 一日に起こる出来事が濃い! 濃過ぎるわ! なんでモブが勇者と大魔王の間に立ってんの!? これがゲームの世界だったら作った奴の頭どうかしてるよまったく! って俺はモブじゃないもん!」


 はぁ……はぁ……。

 なんかどっと疲れた。勇者は無口だし変態みたいな姿になりかけてるし、大魔王様は常識あるのか無いのか分かんないし……。

 この世界しんどいよぉ……。


「……あんまり見たくないけど」


 チラッと足元に転がる変態を見てみる。


「はぁ……とりあえずこれ運ぶかぁ……」


 肩を貸すのも嫌だから、引き摺ってベッドまで持って行こう。


「くっそぅ、こいつのこといつか盾に使ってやるからな! 俺絶対戦わないからな!」

「――あのさー」

「ヒャアァンッ!」


 急に窓から聞こえた声に反応して驚いてしまった。

 俺の悲鳴がなんとも情けない……。


「な、大魔王様、どうしたんですか!」


 再来した大魔王様に、怒り混じりにほんの少しだけ怒鳴ってみた。ほんの少しだけ!


「これ渡そうと思って渡し忘れてたから……、その、なんかすまんな」


 言い終わると窓を開けて中に入ってきた。

 急に「すまん」とか言われるとちょっと申し訳なくなるのでやめてほしい。


「あれ、どこにしまったかな……」


 目の前で律儀に翼を小さくまとめて後ろポケットに手を突っ込む大魔王様。

 あれですか、その狭そうなポケットは四次元ポケットの機能でもあるんですか。


「あったあった、ほら」


 こ、これは! あの瓶!


「また血ですかぁああっ!」


 ああ、頭がクラクラする……。


「ああ、すまん、一番手前にあったからつい」

「う……勘弁してください……」

「すまんな……えっと確か……」


 大魔王様が次はとばかりにもう一度ポケットの中に手を突っ込む。


「ほんとそういうの勘弁してくださいね……血とか苦手なんですから……」

「……?」


 俺の言葉に「何言ってんだこいつ」みたいな目で大魔王様がこちらを向いた。


 いや、住む世界が違うんだから食べ物も違うでしょうけど、遠回しに言えば遠い遠い親戚の血を目の前で見せられてるわけなんだから怖いにきまってるだろ!


「ちょっと何言ってるか分からねえが、まあいいや。……お、あったあった」

「もう血を見るのは嫌ですよ……」

「大丈夫だ、ほらよっと」


 ガシャガシャン! と後ろポケットから現れた普通なら入らないそれは……。


「えーっとだな。ブロンズブレード、アーマー、シューズ、お守りのペンダントの装備一式だ」


 一つずつ、置いた物を指を差しながら丁寧に説明してくれた。

 めっちゃ良い人じゃん! じゃなくてめっちゃ良い大魔王様じゃんか!


「これを装備すれば道中は多分大丈夫だ。あと、この島の魔物は勝てないと思うから全員残らず排除しといた。この島で魔物に出くわすことはまず無いと思うから安心しろ」


 大魔王様がさらさらと物凄い内容のことを述べていく。

 え、ちょっと待って――


「排除って?」

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