020
動けぇえ! 俺の身体動いてぇええ!
あかん……これ全身麻痺してるわ。指すら動かねえ。幸い口だけは動くっぽい……。
「あの、勇者さん?」
「……」
「勇者さ――ヒャッ!」
動けないことを良い事にガサゴソと探られる俺のポッケ……。
所持金が勇者に盗まれていく!
「おまっ……横領というか泥棒、窃盗の類じゃねえか! いやもうこれ強盗だよ! あんた勇者じゃなくて盗人だよ!」
苦し紛れに勇者へとツッコミを入れる!
「……」
「あのー、勇者さん? 無視して金抜き取るの止めませんか?」
「……」
宿屋の一室で勇者が金盗んでます。これは許されるのでしょうか。いえ、絶対に許されません。てか許しません! とか思ってる場合じゃなくて!
「ほんといい加減喋ってよぉお……」
天井を見つめることしかできない俺のポッケから、どんどんと金が抜かれていく。勇者の頭突きクリーンヒットし過ぎだろ。どれだけ打ちどころ良かったら全身動かなくなるんだよ。天才かよこの勇者。そして受け身も出来ない俺弱すぎ……。
ピクピク……お、指がちょっとだけ動いた。まあ、あと五分十分で直りそうだな。そうなればこっちのもんだ。
あれ? この感じデジャヴ感じるんだけど気のせいかな。大魔王様ともこんなことがあったような……。ああ、あの時とは立場が逆になってるのか。んじゃ、俺もベッドまで運んでもらおう。そうしよう。
「すいません、勇者さん。動けないんでベッドまで運んでもらえませんか?」
「……」
ガサゴソと盗まれ続ける金……そして無言の圧力やべぇ……。
「あ、あの、出会った時から思ってたんですけど、ガサゴソとかドゥンドゥンとか、擬音だけで会話しようとしてます⁉」
「……」
ガサゴソ。
「あぁ、結局何も喋らないのね。今の時間返せこんにゃろう……」
あー、くっそー。ポッケ気持ち悪いぃー。なんで男にポッケいじられてるの俺やだぁあああああ……。
「ハハ……」
寝転んでいる俺とポッケに手を突っ込んでる勇者。宿屋の一室でこの状況を誰かに見られたらほんと自殺もんだよ。死にたくなるんだけど。
拳をにぎにぎ……。
おっ、そろそろ動けるそうだな。このまま上手くいくと思ったら間違いだぜ勇者の野郎!
動け俺の体ぁあああ!
サッと勇者に目を向けて――
「……っ⁉」
天井から勇者に目を移したその視界の端、何か居た! 窓に何か居た! 黒いの居た!
怖くてもう一度天井を見つめてからチラッと窓へと目を向ける。
神父の格好にあの翼! あの黒いオーラと厳つい顔! 大魔王様じゃん! 大魔王様じゃんか! 娘さんのパーティーどうなったの⁉ もしかして俺のことを心配して戻ってきてくれたんじゃないか⁉
ガサゴソと漁り続ける勇者。
大魔王様こっち見てるんだけどさっさと助けてくれないかな……。
チラリ。
「なっ⁉」
めっちゃ冷たい目でこっち見てる! ちょ、違っ……別にそんな関係じゃないから! 違うから!
ブンブンと首を横に振り、大魔王様に必死に伝えようとする。
目を瞑って頷く魔王様。分かってくれたのかな? さすが大魔王様だ! 無口な野郎とは育ちが違う!
おもむろに何かを取り出す大魔王様。
パシャッ! パシャパシャッ!
ちょ、眩しっ……大魔王様何してんの!
ガサゴソ。
「お前もいつまで漁ってんだよ! この変態っ!」
勇者に頭突きをかまし、倒れた勇者から金を奪い返す!
「くっそ、金返せこの泥棒! 変態! ばか!」
パシャッパシャッ!
勇者のポッケから取られたお金を取り返す。まあ、元は親父のお金だけど……でも、それってつまり息子の俺が持っていてもいいものだし、他人に渡す方が危ないし!
それよりも――
「大魔王様! そのパシャパシャ止めてください! 眩しっ!」
窓を開けて欲しそうにジェスチャーする大魔王様。開けた窓から中へと入ってくる大魔王様の翼がガツンと一瞬つっかえたのは見なかったことにした。
「ありがとうな、モブ」
モブが心に突き刺さる!
「はい……で、それ何なんですか?」
「あー、これか?」
丸いガラスの付いた物体を大魔王様が構える。
パシャ!
「まっ……!」
目が! 目がぁああああああ!
「これな、カメラって言うんだ。良いだろう」
ぬぁ……視界が……。
「何……魔法ですか……新手の光属性ですか……」
「これはガラスに映るものを記憶するんだ」
パシャッ! パシャッ!
「ちょ、止めてくださいよ……眩しっ……」
「すまんすまん。娘が喜ぶと思うとすぐに押してしまう癖がな」
どんだけ娘さん好きなんだよっ!
パシャパシャと照れながらも撮り続ける大魔王様。
「あ、そう言えば、娘さんのパーティーはどうしたんですか⁉」
顔を隠しつつ大魔王様に尋ねてみると、すごくしょんぼりした顔でこっちを見てきた。
「親父は来るなっ……だって……」
思春期特有の親父嫌いかよっ! ていうか、めっちゃ落ち込んでて見てられないよ大魔王様! 首が、首が取れかけてる! 落ちかけてる! すぐに慰めてあげないと親としては致命傷の〈娘が思春期デス〉が発動しちゃう!
「大魔王様、そんなに落ち込まな――」
「だから男同士の友情的な物をこれに撮って持って行けば許してくれるかなって」
グハッ……大魔王様のフルパワーのウインクが俺の精神に致命的ダメージッ‼
「ま、まあ、理由は分かりましたけど、それだけの為にここに? 別にその辺の人を撮れば良かったのでは?」
「あー……それはなぁ……」
大魔王様が困った顔をしている!
「だって、他はあれだ。お前の親父さんみたいな人ばっかりなんだぞ?」
「なるほど」
うん、そう言えばそうだった。この世界は前も後ろも敵しかいないんだねっ!
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