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019

「俺の将来設計を考えるはずが勇者のハッピーエンドしか見てねえ……っていうか、ほんとにあの戦士は誰なんだ、笑顔超良かったよ。気持ちが少し楽になったよ、ありがとぉっ!」


 まだ見たことのない唯一無二の親友になりそうな戦士に感謝して、宿屋の取手に手を掛ける。

 中にはロボットのような親父と、一言も話さない勇者。どちらも無機物とあんまり変わりない。


 絶望感と淀んだ空気の重圧に負けて気が付いたら四つん這いになってた。


「アァアアア! お話出来る友達がほしいよおぉおおお! こんなのいやぁあああああ!」


 はぁ……はぁ……。


「くっそーん!」


 もうこの町で出来ること無いんだし、勇者引っ張り出してさっさと港に行こう! 港なら武器とかも置いてるだろうし、回復薬も買わないといけないな。頑張れ俺、立ち直るんだ俺!


「港! 港に行くためには……」


 大魔王様の地図を取り出して広げてみた。ふむふむ、地図で見れば……南の方に結構歩かないといけないのか。長い旅になりそうだし、勇者を盾に頑張ろう。途中野宿する羽目になりそうだけど仕方ない! 使える人材は全て使い切る。村人の危機に盾になれるなら勇者も本望でしょう!


 そういえばカナート村周辺ってどうなってるんだろう。あんまり外のこと知らないから、この地図本当に助かるわー。大魔王様ありがとうっ!


「……なんだこれ」


 この村の上に森と山のマークがめっちゃ描かれてる。中心に建物もあるみたいだしなんだろう。ていうか、ここ島なんだ。ほへー。マルータ港って所に行くまでに途中で二つに道別れてるのね。


 大魔王様、丁寧に「ここ道二つ、気を付ける、勇者のレベル上げるには村に行かせない」って書いてる。マメ過ぎるよ大魔王様……。というか、ここの村の入口以外、森で囲まれてる! 森は魔物が住んでるのにどういう状況っ! なんで襲われないんだ? あれか、いわゆる魔法の力とかいうやつか。俺の使えない類の超能力か。


 いや、いつか使えるかもしれないもん。まだ使えないだけだもん。


「はぁ……よっこらしょっと」


 地図をしまって家出をした子どもが家に帰ってきたような気持ちの中、俺は宿屋の扉を開けた。

 柱に括り付けた勇者を無視して階段へと足を運ぶ。


「絵本とかなら家に帰るまでに何かしら成長するはずなんだけどなあ。あ、体力は上がったかもしれない!」

「いらっしゃ――」


 無視して二階に、っと。今日の分は払ってるし……払ったっけ……毎日宿泊してるから払ったかどうかの記憶が……。 ま、まあ大丈夫かな。


 階段をスルスルーっと上がって――

 ガシッと勢いよく掴まれた腕。痛い痛いっ!


「――宿代は150Gになります」

「やっぱり払ってなかったの⁉」

「――宿代は150Gになります」

「俺今日の分払った、と思うよ⁉」


 払った感じで言ってみた!


「――宿代は150Gになります」


 チャリーン。


「ありがとうございます」

「はい……」


 くっ、払ったか払ってないか覚えてない時点で俺の負けか……。渡したような渡してないような……。

 ま、まあ、こんな生活も今日までだもんねっ!


 一応勇者を回収して四週間近くお世話になっている部屋に入り、勇者を再び柱に縛りつけてベッドに飛び乗る。


 グギッ。


「グハッ……」


 ベッド硬かった……片腕が「グギッ」て……鳴っちゃいけない音したよ今……。


「わー、もー、疲れたー」


 チラッと勇者の方を見てみる。ずっとフード被ってて未だにちゃんと顔見たこと無いし、友達でもないし……なのにパーティ組めるのか……組んでいいのか?


「あのー、勇者さん?」

「……」


 やっぱ喋らないよなー。また一人芝居するとかいやだなぁ……。


「明日、マルータ港目指して歩くんで旅路はよろしくお願いします!」

「……」


 うんともすんとも言わねえ……。


「んじゃ、おやすみなさい」


 ベッドに寝転んで目を瞑――

 ガタガタガタ……。


 あー、良い夢見れるかなー。俺が勇者になってる夢とか。戦士と旅してる夢とか。あの戦士に会いたいな……。

 ガタガタガタガタガタガタガタ……


 夢の中だけでも勇者になれたらいいのになー。リアルでなれたら言うこと無しだけど。

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!


「んああぁああ! もう! 貧乏ゆすりやめい!」


 シャアッと八重歯を勇者に出して威嚇する。


「……」

「そこ無反応かいっ!」


 人が寝るって時に貧乏ゆすりしやがって……!


「寝ますから静かにしてください!」


 もうっ、ゆっくり寝られもしないよ――

 ガタガタガタガタガタガタガタガタ。


「むむう……」


 くっそぅ……寝れない。俺ってこんなに敏感な体質だったのか。

 自分の体質を知ることが出来てちょっと嬉しい。


「あ」


 そういえば、ベッドで寝かさないといけないんだったっけ……。勇者の体力がどうのこうので……とか、俺考えてたんだよな。なんか一日一日が濃密でしんどいわ。


「……」


 じーっと、勇者を見る。


 あんな奴を回復させるの嫌だなあ……でも道中引っ張って歩くの面倒だし仕方ないか……。


 重い腰を上げて勇者へと近づいていく。縄を解いて暴れたら殴ろう。殴って気絶させよう。大丈夫、きっと正当防衛って認めてくれる。


「今縄解きますから大人しくしててくださいね」


 よいしょっと、んっと、えいやっ、そいっ。


「はぁ……」


 汗を一拭い。解きにくいなこれ……。ここ引っ張ればどうにかなるかな?


「おらぁ!」


 ガタガタガタガタ!


「どど、どうしたんですか勇者さん!」


 引っ張った途端に暴れ出した勇者に驚いて縄を放り投げてしまった。

 チラッと、恐る恐る勇者の顔を覗き込んでみる。


「ヒャッ……」


 よくは見えなかったけどめっちゃ苦しそうなのは分かった!


「すすすすみません! い、今すぐ縄切ります!」


 勇者がぐったりしながらも、部屋にあったナイフで一生懸命縄を切った。

 縄を解いても動かず項垂れたままの勇者……。


「うん、その、ほんとごめんなさい……すいませんでした……」


 土下座で許してくれるとは思わないけど一応……。


「……」


 頭を垂れてぐったりしたままの勇者。

 無言っていうのが一番精神的に来るから……ほんと何か喋ってくんないかな……っていうか、そんな縄の縛り方したっけ……腕と胴体を柱に括り付けただけなのに、なんでこんなことに……。


「っ……!」


 声にもならないくらい小さな声が漏れた。


 ふと思い浮かんだ今後の予定――

 勇者が魔王と大魔王様を倒すとして。平和になるだろ。その後、日ごろの行いで俺は処刑される気がする……。


 明らかなバッドエンドがっ! 俺の存在が消されちゃうよ!


「あ、あの! ちょりあえう、あ、明日はよろしきゅお願いしましゅね! ゆゆゆ勇さしゃんっ!」


 もうあかんこれ……キャミキャミだよ。じゃなくて噛み噛みだよっ。処されちゃう……約束された処分の刑にされちゃう……。


「ベッドまでひゃこびましゅ!」


 もうこの際、噛んでいることはスルーだ!

 勇者を持ち上げてゆっくりとベッドに向かう。

 念のため、こいつは窓際に寝かせよう。逃げられたら大魔王様に消されるし……。


「はぁ……」


 俺って既に色々な方面に選択の余地が無い気がするんだけど……気のせいかな……。


 ああぁぁああ、膝ガクガクする。未来のこと考えたら冷や汗止まらないんですけど……だってさ、今俺の見えてるエンドって――


『1、勇者が逃亡して大魔王様に殺されるバッドエンド』

『2、勇者を育てず逃亡=大魔王様に殺されるバッドエンド』

『3、勇者が魔王&大魔王様を倒す。勇者への日ごろの行いで処されるというバッドエンド』

『4、勇者が魔王&大魔王様を倒す。勇者怒らない。俺が魔王をその後助けて付き合うというハッピーセット』


 四分の一しか生き残る道無いんですけど。死刑宣告始まってない?


「はあ……」


 もういっそのこと大魔王様に見つかるまで逃げた方がいいんじゃないかn――


 ゴッ。


「ゔがっ……」


 持ち上げていた勇者が動き出したのと同時に俺の顎に勇者の頭がクリーンヒットした。

 か、身体が動かない!


「っ……⁉」


 仰向けで倒れている俺の横でスッと立ち上がる勇者!


 こ、これは――――――


 ≪勇者に逃げられちゃう‼≫


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