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001

 三日前、目が覚めれば俺は宿屋のベッドに居た。友達が居ない。お母さんも居ない。この歳までどう育ってきたのか記憶に無い。唯一、俺が宿屋の息子であり、親父が宿屋兼バーのマスターをしているのは分かった。


 古びた木造建築の家も、気分的には心地良かった。もしも家が藁ぶき屋根とかだったら発狂して虎になっていたかもしれない。木造で良かった。しっかりしたお家バンザイ。

 そんなこんなで一昨日、必死になって俺が俺だという証拠を探してみたが無かった。諦めて宿屋の一室で一人、寂しく涙を流していると、首にペンダントを装備していたことに気が付いた。ペンダントの裏を見てみる……1、9。


「そうか! 俺は十九歳か! 感激だ!」


 なんで感激したのか自分でもよく分からないけど、無性に嬉しかったので叫んでしまった。多分、もうそろそろ彼女が出来てもいい年だからじゃないかな。うん、ということは俺彼女居ないんだな。年齢イコールのタイプかな。悲しいな……もう俺って一体誰なんだろう。


「あ、そうだ。ついでにこのペンダントに他の事が書かれていないかn――」


 よく見たら1と9の続きがあるじゃんか。なになに。


「うん?」


 1、9、9、8……?


「1998歳っ!?」


 ちょっと意味分かん……ない……。



 一昨日はショックでそのまま倒れ、自分のペンダントに書かれていた数字が何なのか、分かったのは昨日だった。どうやら、多分生まれた年が書かれている……んだと思う。じゃないとおかしいよね。1998歳なんて魔王でも生きてないよ。これが年齢なら俺が魔王だよ。

 近頃の魔王様は確か、引退して二十歳の娘さんが魔王になったとかって。


「ほええ、そうなのかー」


 自分で自分に感心。というか、なんで俺こんな情報知ってるんだろう。あれか、俺は所謂、超能力者ってやつか。やっぱり勇者の血が流れているタイプなのかな。宿屋から始まる異世界ファンタジーなのかな! 彼女出来るかな⁉ 近くに可愛い子居ないかな!


 ごほん。まあなんにせよ、今現在、何年なのかよく分かんない。どこもかしこも1998の数字ばかり目に入って不安しかない。ぼっち辛いよ怖いよ寂しいよ。

 とりあえず、俺は十九歳ということを貫くことにしました。身長も170(実際は169・5)あるし十分見えるでしょ。顔は、イケメンであることを願おう。自分の姿を見れそうな物は特に無いし、顔が分からないなら全員イケメンだ! うん、すごい暴論だな!


 これが昨日までの、俺の記憶に残る出来事。三日前以前のことは知らぬ存ぜぬだ。思い出せるなら思い出したいけど多分無理っぽいので諦めた。



 ――カナート村、宿屋二階一室

 木でできた年代ものの椅子に腰掛け、膝に両肘をついて悩むこの姿、見る人が見ればカッコいいんじゃないか? いや、宿屋の一室でこんな格好で悩んでたら「宿屋の収入が悪くてこれから先、食っていける金が無い」って思われるかもしれない。やっぱりやめよう。


 椅子にビシッと座ってもう一度考える。あ、でもやっぱりさっきの方が良いかな。なんだか堅苦しくてお嫁さんの実家にお邪魔してご両親に挨拶する時みたいな、分かんないけど、そんな感覚に襲われた。


「座り方を気にしてる場合じゃないっ!」


 姿勢なんてどうでもいいんだ。今は親父が経営している宿屋、一人も客が来ていないことが問題なんだ。三日間、他の村からこの村に来る人が居ない。いや、むしろ今まで客が来たことがあったんだろうか。本気で宿屋の経営が心配になってきた。全部の部屋を見て回ったけど、どの部屋も誰一人として来た形跡がない。シーツとか綺麗なままだったし!


 経営難に悩まず毎日「INN」と書かれたバーカウンターの下で佇む親父すげえよ。昼夜問わず入り口を向いたまま立ちっぱなしだよ。足腰と精神強すぎるだろ。ちょっとは休もうよ。というか、あれ親父かどうかすら不安になってきた。そもそも、この生活いつ始まったんだよ。母も居ない。どうやって俺が生まれたのか、甚だ疑問であんまり眠れなかった。

 でも眠たいから毎日ちゃんと寝た。


 宿屋のベッドで一人、まず子どもがどこから生まれるのかを真剣に悩んだ。うん、考えないことにしよう。俺の年齢的にはセーフだけど子どもにはアウト的なサムシングだな。親御さんが「見ちゃダメ聞いちゃダメ」って言うような、そんな境界線ってあるよね。

 そりゃあ、二十歳の魔王様だって可愛いだろうし頬も染めたくなりますよ。胸も丁度良い大きさで? そりゃあ、こう、揉んでみたいとか思っちゃうわけで――


 パンッと顔を叩いた。思ったより痛いんだね……この話はここまでにしておこう。こんなとてつもない思春期ボーイの気持ちを語っている暇は無い。また今度、時間と精神面に余裕がある時に考えよう。今はそんなことよりも、自分が何者なのか。まあ、「宿屋の息子」という時点でお察しなんだけど。もう少しマシな配役があってもいいじゃないですか。


 意識を手に入れてから、なんで三日目にはエキストラとして活躍が確約されないといけないんですかね。うん、なんかもう勇者が俺に話しかけてくるかどうか分かんない時点でエキストラですらないよ、モブだよモブ。完全なるモブだよ。


 辛いよ怖いよ親父屈強だよぉ。恋したいよぉおお……とか、なんだかんだ言っても、俺が宿屋の息子であることは変わらないのかな……。


「認めた方が楽になれるのかなぁ」


 ほんっとに仮で、俺自身まだ認めてないけど、一応、村人Aってことでいこう。魔王の娘さんとはその内仲良くなって告白までいけたらいいな、なんて……えへへ。え、でも魔王の娘さんと付き合うこと前提ってそもそもおかしくないか。出会って一秒足らずで殺される気がする。それじゃ、勇者と付き合う? でも、勇者ってどうせ男だしなぁ。屈強な大男だろ、仲間に居たら存在だけで恐怖支配始まっちゃうよ。独裁パーティーだよ。

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