016
――カナート村、中央付近
整備されたのかされてないのか分からない砂利道を西に進んで行くと、すぐに川が見えてきたけど、これ川なのか? 川と呼んでいいものなのかな⁉
「すごい濁ってるし、もうヘドロじゃん……緑色で済むレベルの話じゃないくらい、どす黒いの流れてますやん……」
なんか高速で足動かせば走れるんじゃないって思うほどドロドロだった……。
水面……と言っていいのか分かんないけど、水の上走り抜けるとかやってみたいな! シュババッて向こう岸まで渡るとかカッコいいよなっ!
川に近付いてみる。行けるか? 行ってみるか?
川幅は5mくらい……念のために匂いチェック……臭っ……臭ッ⁉
失敗したら悲惨だし止めよう……。
「ハッ! 武器屋行かなきゃっ!」
寄り道してるのバレたら大魔王様に何されるか分かんないし、早く行こっ。
「それにしても……」
村の中荒れてるなぁ。草木は枯れっ枯れ……生きている動物は……目つきの悪い鳥しかまだ見てないな……。あいつ唾吐いてどっか行きやがったし今度会ったらあの根性叩き直してやる!
「歩いても歩いても、犬とか猫の一匹も、馬の一頭も居やしねぇ……」
周りを見ても人は居ないし、完全に過疎ってるよこの村……。
完全に秋だよここ。村復興のプロジェクト始まっちゃうよ。ご当地アイドルとか出来ないかな。村を宣伝して宿屋に来てもらう為にも女の子が必要だ。俺にも必要だし……でも、この様子だと村に女の子居なさそうだな……。
「詰んだ……」
村復興プロジェクトが潰れたので真面目に武器屋に向かおう。
――カナート村、武器屋付近
「え、えっと、川を右手に沿って歩いて、確か次の小さい橋を渡れば……」
近いんだけど地味に遠いなぁ。歩くの疲れたし帰りたくなってきた……。
楽しめる風景も無いし、ひたすら武器屋まで歩くとか既に勇者のおつかい状態じゃん……。こうなったら買った装備を独り占めするしかないな。
「お!」
斧と剣を交差させたマーク! ようやく武器屋に着いた!
「おぉ……」
正面から見るとやっぱりいいね! 旅が始まる的な! 店の周りが枯れ草で囲まれてるけど気にしない気にしない!
「お邪魔しまーす!」
勢いよくドアに手をついて、そのまま体の重心が手の方に流れて――
ドンッ……。
「ブフッ……」
顔ぶつけた……痛い……お顔が……イケメンかもしれない大事なお顔が……。
「ってか扉重すぎっ!」
押したのにびくともしてないんだけどなにこれ!
「ま、まあ、ちょっと手を抜いて押しただけだし? べ、別に全力で押したわけじゃないんだからねっ。開かなくても当然だし! 開いたら逆にびっくりするし!」
ということでもう一度押す!
「ふんぬぅおぉおおお! えいやぁああ! 俺はモブじゃないもんっ!」
……ダメだ、びくともしない。つまり俺はモブなのか。いや、後付けの理由だから大丈夫だ。それに俺はまだモブと決まったわけじゃない。俺はまだやれる、まだ戦えるもん。
「ふんにゃぁあああああああああ! おんどりゃぁああああああ!」
…………ダメだぁ。
「どうしよう。俺と勇者の装備とか、これからの夢とか希望とか彼女とか……」
オートロックとかそんなハイテクな技術は無いだろうし、ほんと、これどうやったら開くの?
中から開けてもらうか。
コンコン。
「開けて! 中の人開けてください! 後生です! 開けてぇええええ!」
「……」
反応なし……もう一回!
「あ、あぁん、うっううん……よし。開けてくださぁああああああい!」
「……」
そ、そんな……押しても叫んでもダメならどうやって入ればいいんだ……。
「ふんぬらばぁああああ!」
「せいやぁああああああ!」
「そいやぁああああああ……はぁはぁ……」
開かない! 開かないよ親父ぃ! こ、これならどうだ!
「ソフトタッチっ」
「……」
優しく押してもダメか……。
扉の取っ手を握りながらその場にへたれ込んだ。
「もぉお……開かないじゃんかぁ……」
かれこれ一〇分くらい扉と格闘してるけど全然開かないよぉ……。
べ、別に、目に何か変なものが浮かんでるとかそういうことは全くないんだけどね、ないんだけどね! くぅ……視界が滲んでやがるぜちくしょぉ……。
「鍵もかかってないのになんで開かないんだよ……」
扉を見上げて、一旦おうちに帰るか考える。
あー、下から見るとすごく立派な扉してるな。こんなのムッキムキの神父くらいしか開けられないんじゃないかな。うん、きっとそうだ。頭に角生えてる神父ぐらいしか開けられないよきっと。
「こうなりゃ!」
扉と見つめ合ってみた。
「……」
にらめっこしてみた。
「……」
もしかして目力で開くのか? ムギィイイ! 届け、俺の眼力っ!
「……」
「よし、帰るか」
あーちきしょう、こんな武器屋に来るんじゃなかった。他の町で買えば良い話だし、別にここに固執する意味無いじゃん。そうだ、別に出発してからでいいじゃん! べちゃべちゃのスライム程度なら拳で何とかなるでしょ。多分。
武器を装備したかったとか思ってないし、そんなこと思ったことすらないしっ。
「ふぃひゃぁ……」
なんだろう、自分でも分かるくらいに目が死んでるような気がする。
買ってもらえると確信していたアイテムが売り切れてて買ってもらえなかった時くらい悲しい……。
「はぁ……帰ろう……」
取っ手を支えに立ち上がっ――
「ひひゃんっ!」
支えにしていた物が動いたせいで、尻餅をついてしまった。それよりも俺、なんだかコケる時の声ださくないかな……次から気を付けよう……。
「くぅ……お尻が痛ぇ……打ちどころが……」
キッと扉を睨み付け、悩んでいた恨み辛みが弾けそうになっ――
「開いてるっ⁉」
ゆっくりと立ち上がり扉をもう一度確認っ!
開いてる! 開いてるでぇ! 魔法の力で開いたとか俺が選ばれし者だったから開いたとかそんな素敵なサムシング⁉
「どれどれ…………」
うん、そんな形跡は特になかった。




