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015

 ――カナート村、宿屋二階一室


 うーんとベッドの上で伸びをする。


「は~、安眠最高でしたぁっ!」


 すっごい目覚め良いわぁ。何この開放感、素晴らしすぎる! 力がみなぎってくるようだ!

 大魔王様に追い詰められたあの地獄のような日々が終わって安心したのかな。久々にお昼まで熟睡できた。体がだるいくらいの安眠だよ。


「気分転換に外の空気でも吸おうっと」


 ベッドから起き上がって窓を開ける。


「すーはーすーはぁー」


 生きてると実感するお昼の素敵な深呼吸……。


「でも……」


 空はどんよりしてるし、気持ちが晴れないわ……。

 それに……。


 後ろを振り返り、昨日の晩から放置したままの勇者を見つめる。

 勇者の面倒を見るのは嫌、というかしたくない! 普通逆じゃない⁉ 村人の面倒を勇者が見るのが筋でしょっ⁉


「はぁ……ほんとに仕方なくだけど、今日から頑張ろう……」


 考えてても仕方ないっ。と、とりあえず持ち物の確認をしよう!

 ゴソゴソ……。

 ポケットの中身を出してベッドの上に広げてーっと。


「あるのが、大魔王様の捨てたであろう世界地図とお金が9600G(ごめん、親父……)」


 とりあえず装備が無いから買いに行こうかな。勇者って連れて行かないといけないのかな……一人で行きたいなー。でも、大魔王様との約束を破るわけにもいかないし……「勇者のレベル上げしてね」って言われたしなぁ。


「……」


 つ、連れて行かなきゃ殺されるかもしれない!


「勇者さん、起きてくださいっ。お昼ですよ!」


 勇者を軽く揺らして生存確認っ。


「床の上が冷たくて気持ちいいのは分かりますけど、それをしていいのは子どもの時までですよっ。大人になったら足腰痛くて立てなくなっちゃいますからね!」


 勇者意外と小さいな。身長から考えれば十五か十六くらいに見えるけど、勇者だし十八は超えてるでしょ。勝手なイメージだけどね!


「てか、ほんとに起きてくださいよー……もー……」


 中々起きてくれない。早く行きたいのに「待て」をされる犬の気分だわ……。


「勇者さーん、朝ですー、お昼ですー……」


 なんでこんなに起きてくれないの……ハッ!


「え、ま、まさか……もしかして回復してない?」


 ベッドで寝てたのは俺だけ……勇者は床の上。ベッドで寝ないと回復しない仕組みなのか⁉ つまり、これは勇者をベッドまで運ばないとダメだったのか⁉


「め、めんどくさっ!」


 どうする、今からもう一泊? いや、親父に腕を持っていかれるかもしれない……。

 動かすの面倒だから引きずって行くか。


「よし、そうしよう!」


 部屋にあったロープで手を縛り、胴体と腕を一緒に縛り付けて……これで背負えば――


「どう見ても魔物に捕まった人間の姿だよな……完全に俺誘拐犯じゃん……」


 このままだと魔物からも人間からも嫌われそうだな……お尋ね者になっちゃいそうだな……。


 頭の中でそれらしい光景をイメージしてみる。掲示板に貼られた懸賞金――

『求)カナート村宿屋の息子の首   出)10000G』

『この顔にピンときたらっ――』


 ゴクリんぬ……そうなったらもう村にも戻れないお尋ね者じゃないか……。誰にも相手にされないはぐれ者……はぐれモブになっちゃうかもしれない……はぐれモブは嫌っ!

 でも、なんだか「はぐれモブ」って経験値多そうな響きだな。足も速そうだ。


「……」


 勇者をチラ見。ちょっと落ち着こう……。


 いざ縛られた勇者を見るとさすがに憐れみが……っていうか縛られた勇者って悲惨だな。魔物とかに捕まるならまだしも、宿屋の息子にやられるってどんだけ……。


「うーん、思えば買い物だけだし一人で行ってもいいよね。連れて歩くのしんどいし」


 モブに引きずられる勇者も可哀想だもんな……あ、でも今までの落とし前はつけてもらわないと!


「ふふ、ふはははっ♪ ふっはっはっは!」


 ……悪魔っぽく笑ってしまった。心は既に大魔王様側にあると思うと内心悲しくなる……。でも、関係ない! こっちは家を荒らされたんだ! 精神的にもズタボロなんだっ、ぼっちなんだっ、友達居ないんだっ! 喋り相手が欲しいんだよぉおお!


「はぁ……よいしょっと」


 勇者を縛るロープを握り締めて階段を下りる! 勇者が段差でゴンゴン鳴ってるけどスルー!


「おはよう親父! 買い物行ってくる!」

「ご利用ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

「息子に対して丁寧だねっ!」


 相変わらずこの関係やりづらいわぁ……。


「……まあ、行ってくるよ親父」


 勇者を『階段から縛ったまま下ろす刑』、完了っと。

 べ、別に三週間くらいの精神的鬱憤をここで晴らしてるわけじゃないんだからね!

 このロープをこうして……勇者を店の中央の柱にくくり付けて、と。

 ……生け贄に捧げられそうな感じになってるけど……まぁいっか!


「行ってきまーす!」


 綺麗に直っている入口の扉に手を掛ける。

 あれ、宿屋の扉まともに開けたの初めてじゃないか?……って思ったけど、三日目くらいに家飛び出してたわ……うっ……そこからあの苦悩の日々が……。


 ……さてさて、気を取り直して。


「勇者さん、待っててくださいね! 行ってきます!」


 清々(すがすが)しい気分で外へと飛び出す! 確か武器屋は西の方にあったはず! モブにも自分の村を把握するくらいの頭があって良かった……無かったら自分の生まれ住んでいる村で迷子になるところだよ。ホームアローンの規模がヴィレッジアローンになるところだったよっ。

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