014
「……」
フードしたままじーっと、無言でこっち見てくる……怖え……。「お前も共犯だろ?」みたいな……こんな奴勇者でもなんでもねえ! 盗人じゃねぇか!
もうこいつ何考えてるのか分かんない! 勇者が露骨にお金に指を向ける。喋らねえぇ! さっきの「……っす」どこに消えたんだぁああ!
勇者のジェスチャーを自分なりに翻訳してみるか。
「……え? これを俺に? 防具とか要るから的な?」
そんなことを考えているんだろう。そうに違いない。喋らないから分からないけど、そう思うしかない。
何々……大魔王の娘と戦うとなると、お前は荷物持ちとして丁度いい?
雰囲気でそう言っている。そう語っている。こいつ、既に俺の荷物持ちとしての才能にしか興味なさそうだ! 自分でやってて悲しいわっ!
「あっはっは、勇者様っ」
笑顔で勇者の顔を見る。向こうが笑ってるかは分からないけど、まあいいや!
「はっはっは。いやはや、はっはっは、俺が荷物持ちですかい?」
勝手な妄想翻訳が合っていたのか、勇者が手を差し出してきた!
勇者と熱い握手を交わす俺。空いている手でお金を回収しつつ……。
「さあ、旅の資金もできましたし、参りましょう!」
俺の言葉は通じてるんだろうな。カウンターから勇者が身を乗り出した。
親父すまねえ……でもこれ俺の金だから、とりあえず返してもらうね。残りはお駄賃ってことで貰っとくね。勇者は後で殴るね!
入口に向かいながら、俺はピキピキと、コメカミに血管を浮かばせながら歩いていた。
大魔王様と約束したし耐えなきゃいけないけどイライラがピークっ!
「さあ、これからおま……あなたみたいな馬……勇者と旅に出るなんて夢みたいですよ」
「……」
くっそ……いつまで無言を貫く気なんだ……。でも、頑張ってニコニコしなきゃ……。
「ほら、この扉を開ければ俺たちの初めての旅が始まりますよ!」
大魔王様のせいで入口はボロボロ……扉の片方が外れちゃって既に外が丸見え……。
既にバッドエンドでしょこれ……。
「……」
勇者が急に立ち止まり、俺が一歩前へと出てしまった。
「……え? 俺が開けていいんですか? 仕方ないですね……」
すーはー、すーはー。
この何十日ものストレスを込めて、俺、行きまーす!
「勇者様、ちょっと頭借りますね!」
後ろに下がって勇者の後頭部を鷲掴みにし、満面の笑みで語りかける。
「んじゃ……これが――初めての共同作業ですね!」
ゴンッと鈍い音が宿屋に響き渡り、辛うじて閉じていた扉が勢いよく開かれた。
勇者の頭からしゅ~っと湯気っぽいのが立ち上る!
「なにゃー! スッキリしたー!」
こいつ、俺の逃亡を阻止するわ家の金は盗むわ喋らねぇわで面倒臭ぁあああい!
雰囲気で訴えてくるなよっ! 何考えてるか分かんねぇし! こっちは心理カウンセラーじゃねえんだよ! 心のカウンセリングして欲しいの俺の方なんだよぉおおお!
「っと、いけないけない」
足元に転がる勇者を見る。
「さ、装備整えたら村出ましょう。何倒れてるんですか、しっかりしてください勇者さん」
うつ伏せで倒れた勇者を両手で持ち上げる。
あー、完全にのびてるなこれ。もう一日だけ休んでから行こ――
「っ!」
ベチッと顔に何かが張り付いたっ! ビックリして勇者落としちゃった……まあいいや。
「ばんばぼ……ぼばばばばっばばびびばー(なんだろ……お宝だったらいいなー)」
顔に紙が貼りついたらこうなるのね……。
「これが大魔王様の落とした地図でありますように……なわけないよなぁ」
チラッと片目を開けて確認――
「よし! 大魔王様の落とした地図だ!」
フラグ! これが俗に言うフラグ回収か! 一回してやってみたかったんだ! 旅路全部載ってるじゃん! 最高じゃないですか! 大魔王様サンキューです! 勇者御一行よりも大魔王様と御一行したかったです!
浮かれ気分も早々に足元を見つめる。動かない&喋らないのがそこに……。
「旅って言ってもこれ連れて行かないといけないんだもんなぁ……」
悪臭のするゴミを見る目で勇者を眺める。
「はあ……」
なんにせよ、一旦引き返そう……。
勇者を背負い、勇者の頭で開けた宿屋に引き返す。
「ようこそ、カナート村へ」
「二階借りるよ親父っ」
はぁ……なんで勇者を背負いながら階段上がらないといけないん――
「ひゃっ!」
後ろからガシッと掴まれた俺の腕。びっくりして勇者落としそうになった……というか俺も落ちるかと思った……。
「親父……後ろから急に掴んだら危ないだろ」
「宿代は150Gになります」
「確実に宿代を取りに来てるぅ‼」
「宿代は――」
「分かった! 分かったから腕離して! 痛い痛い! もげる! 腕もげる! 力つよっ!」
このままだと腕がっ! コマンド、コマンドっぽいものを早く……早くぅうううう!
「ようこそ――」
「ふんにゃぁああああ!」
〈〇〉
「ありがとうございます。どうぞこちらに」
「はぁはぁ……腕もげるかと思った……まぁ、金奪ったのは申し訳ないからいいよ……」
あれ、俺もコマンドっぽいの使えるあたり、モブじゃない可能性をまだ秘めてるのかもしれない! 村人から始める勇者の旅が出来るかもしれないぞ⁉
――宿屋二階、一室(勇者は床に放置)夕方~
ベッドに寝転がりながら明日のことでも考えよう。まず、起きたら、この村の道具屋と武具屋で俺と勇者の装備を整えて出発。地図で見れば……次に近いのは南にあるマルータ港とかいう場所か。山の中の田舎から港まで出られるならモブでもいい人生なのかな。
「いやっ、モブなんて認めないんだからねっ!」
「お母……さん……」
「ひぃっ!」
床から声が!
「勇者様が喋ったぁああああ!」
やっぱりこいつ、母親を魔王に殺された的な展開のありきたりな奴か。お前の素性に興味はないんだ。俺は大魔王様の娘さんと付き合いたい……じゃなくて、勇者になりたいんだ。
「あ、間違えた……お姉……さん、綺麗ですね……今度、僕とデートしませんか……」
こいつ、どうしようも無いアホじゃねえか……。
蹴りかまさないと気が収まらねえ……なんだよこいつ、どういうリア充人生送ってたんだよ……。
「俺と代われよ馬鹿野郎っ……」
っていうか俺と口聞けよ! 普通に喋りやがったよ。喋っちゃったよ。寝言とはいえ口開いたよこいつ。口聞けないんじゃなくて俺と話したくないだけじゃねえか。俺の恰好か、俺の恰好がださいから口ききたくない系男子かこいつ。
はぁ……これは大魔王様も困るわけだな……。
「かくして、俺と勇者の旅が明日から始まる……のかな……」
こんな旅なら始まらない方が良いんだけど……いや、始めないと大魔王様になんかされるからやるしかないんだけど。もうちょっとマシな始まり方無かったのかな。
「……」
ないな。
喋らないかと思えば本当は口開ける勇者に、家族大好きパパの大魔王様だったり……そんな二人を相手に旅が始まるとか……。
「んにゃぁあああああ! もう! やるっきゃないか!」
顔をパンパンと叩いて気合を入れ、勇者を何度か蹴ってから寝ることにした。
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