012
「ま、まあ、確かにこの状況考えると言えないですよね……あ、あとモブって言わない条件付け――」
「で、どうする? お前はこのまま逃げられたとしても、娘とその手下がお前を襲いに来る。ここで俺を助ければ、そのままモブ人生を続けられる。あるいは、今のお前なら別の道も歩めるかもしれない」
お、おお……大切な条件言いそびれたけど、大魔王が真剣にこっちを見てる。それに、別の道って何だろう……もしかして花婿か⁉ 花婿なのか⁉
いや……。首を横に振って考えてみる。この大魔王、妻と娘に対してデレッデレだから、まず花婿をとろうとしないはず。他の道があったとしても碌なものじゃないはず……き、期待なんてしないんだからねっ!
「ど、どうせここで助かっても俺がモブなのは変わらないし……コマンドっぽいものがある限り、俺は一生カナート村のアラート音を口から鳴らすんだろ……」
「だからお前はモブなんだよ!」
「え、え⁉」
「モブが主役目指してもいいだろうが!」
「え、いいのそれ⁉」
「知らんわ、あほ!」
「他人事っ!」
「コマンドっぽいものがあっても、お前はお前を手に入れたんだろうが……」
え、なに、この良い話みたいな展開……。全然良くはないんですけど……。
「でも、俺がモブから変われないなら、こんな世界なんて……」
「お前はお前を貫いてみろ。何か手に入るものがあるかもしれねえだろうが!」
ハッ……そ、そうか。俺は勇者になることばっかり考えて……。
「大魔王様ぁ! 俺は……俺は……ぐすっ……」
「な? だから、俺を助けてこれからを生きてみろ」
ちぇっ……目から食塩水的なものが溢れて来る……大魔王と和解出来るなんて、色々な意味で泣いちゃうわ……。
「よーし、そうとなれば今助け出しますね!」
「ああ、頼むぞ」
よいしょっと……気分が軽いせいか扉も軽く持ち上げられそう!
「どっこらしょっと……ふぅ……」
「おお、ありがとよ。ついでに俺を持ち上げてくれ。動けんのだ……」
「はい! 大魔王様!」
重い、けど今なら頑張れそう!
あれ……俺って今大魔王に肩貸して完全に子分じゃね? 勇者御一行の旅がなんかすごく遠ざかった気がするけど……ま、いっか。
宿屋の二階から階段を懸命に降りる俺。カニ歩きで一歩一歩大魔王様を落とさないように慎重に……。ちくしょー、大魔王様めっちゃ重いじゃん……普段なら諦めてるけど、マラソンの最後のド根性的な、俺だけゴール出来なかったらそれはそれで目立つから死んでも最後まで走らないと逆に見せしめになる的な、あのよく分からない精神論で保ってるけどもう限界近いよこれ……。
「大魔王様……」
「どうした、モブ」
ああ、身体に重みが突き刺さってるのに心にまでモブが突き刺さるぅ……。
「いや、もうそれほんとに止めてください……」
「ああ、まあ、気にするな。それより、お前に一つ頼みがある」
「俺も頼みがあるんですが……」
「ほう。なんだ、言ってみろ」
「全体重預けるのやめてください……もうほんと限界、折れる! 腰が限界ですっ!」
だめだ、腰が……腰が悲鳴を上げておりますぅ! ミシミシってなっちゃいけない音が! 古い木の板みたいな音が! ヘルプミィ!
「誰のせいだったっけ」
「あ……はい……」
腰が砕けても心が折れても運ばなきゃ……殺される!
「それでな、モブ」
「もう、モブって言わなきゃ大体言うこと聞きますから……」
モブって言われるのも嫌だし殺されるのも嫌だし……いや、強いて言うならもう死んでるような気がする。腰の感覚が無いよ、階段に骨盤落ちてないかな……眼鏡眼鏡的な、骨盤骨盤みたいな。
「お前が勇者と同行して娘、つまり現役魔王の居るヘッドリア城までレベル上げながら来てくれないか?」
ビリビリッと電流が! 頭の中で雷が落ちた感覚が!
「そ、それは、つまり⁉」
「ああ、勇者と旅をしてほしい」
「ヒャッホオォオアアアアアア!」
やった! 思った以上に「勇者と旅」になるのが早かったあああ! 展開早い! 来たぜ俺の時代! 部屋出たら始まったぜ!
「あ、おまっ、今手を離すなっあぁあああ!」
「え?」
あ……ああ……大魔王が階段を……ゴロゴロ、ゴテゴテと……転がって……見事に下まで転がってピクピクしてる!
「大魔王様ぁああああああ!」
「…………」
「ああ……まだ何にもしてないのに旅立つ前にバッドエンド……」
あーだめだ。体重いだるい立てない。大魔王様ちょっと運んだだけで全身の力が……呪いか、これが大魔王様の呪いなのか。うん、いや、体力無いだけかな。運動しなきゃっ。
「お、おい……早く起こせ……」
「大魔王様⁉ 生きておられましたか! 今そちらに向かいます!」
這いつくばってでもそちらへ向かいます!
「あ、は……早く……右腕もつりそ……」
「大魔王様ぁぁああああっ!」
階段を駆け下り、大魔王様を持ち上げに……がががが顔面が階段の段段段差にぃにぃにぃにぃぃぃいい!
「大魔王様ぁああ! 避けてぇええ!」
「おま! 来るな! 顔面から階段にダイブしてこっちに来るなあああ!」
「ちょっと待っててくださいねぇええええ! 今すぐ行きまぁあああす!」
「グガァッハァアアアア!」
俺は目の前が真っ暗になった。かすかにチャリーンと聞こえた音で薄く目を開けると親父が俺と大魔王様を部屋まで運んでいた。片手で大魔王様、片手で俺。
……ある意味親父が一番最強じゃね……グフッ………………。
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