011
「と、とうとう負けを認めたな大魔ホウッ!」
噛んだぁ……大事な所で噛んだぁ……。
「……」
やばい……なんか冷や汗止まらない! この状況超怖い! 噛んだ上に無視されるってなんだろうこの虚無感っ!
「はぁ……」
大魔王の深いため息!
「じ、辞世の句も出……出ないでしゅか⁉」
なんか遠慮して敬語になっちゃった上にまた噛んじゃった……。
「……はぁ」
めっちゃため息ついてる! やっぱり助けた方がいいかな。でも、今助けたら殺されそう……どうしよう……今から逃げる? うん、そうだな、逃げよう。
大魔王になぜか敬礼をして背中を向ける。
「では、僕はこれで失礼します! 申し訳ありませ――」
「使いたくは無かったがなあ……」
〈〇〉
キリッと俺は振り返った!
「ようこそ、カナート村へ!」
〈×〉
「ぬぁああああああああああああんっ!」
悔しさのあまり、四つん這いで床を叩いてる俺が居た。
「くっそ……これが、これがモブの運命なのかぁあああ……うぉおおおおお……」
「落ち着けって」
「これが落ち着いていられるかよ! コマンドっぽいの押されたらテンプレみたいな言葉発しちゃうこっちの身にもなれよ!」
「あ、いや、お前の身は知らんが……」
「キィイイ! モブだと思って、馬鹿にしやがってぇ……!」
あれ、そういえば、今大魔王にコマンド使われた?
「俺だってこう見えても大魔王で神父だ」
「いや、意味分かんないよそれ……矛盾通り越して哲学だよ」
「簡単に言うとだな、神父は人を殺められないんだ。分かったか?」
「……え?」
四つん這いフォームから顔を上げてみる。悟ったような笑顔の大魔王が扉と床の隙間で挟まっていた。
「だから、俺はお前を殺せない。今までのはお遊びだったんだ」
「そのお言葉、信じてもよろしいのですか⁉」
俺、敬語っ! 更に片膝まで立てて家来みたいになってしまった!
「ああ、今の言葉に嘘偽りはない。神父として誓う」
「な、ならお助け致します神父様!」
扉を懸命に持ち上げようと頑張る! 意外と重い!
「ちょっと待っててくださいね! 今助けますから!」
「ああ、頼む……」
「助かったらパーティーに行くんですよね! 楽しそうですね!」
よし! ちょっと持ち上がった! このままもう少し……。
「俺が帰ったら、代わりに娘が殺しに来るだろうし、もう疲れたし足痛いしアリスにどうせ殴られるし、はあ……」
「え……」
バタンッと再び扉が大魔王にのしかかる。
「アァアアッ! ってぇ……何しやがるこのモブがぁああ!」
扉に片足を添えて、と。
「今の全部聞こえてんだよ! 馬鹿大魔王め!」
「だから、俺は殺せないと言っただろうが!」
「ちげぇよ!」
「何が違うんだ、モブ!」
「娘が殺しに来るなら俺の状況何も変わらないじゃん⁉ 何重要なことさらっと言ってんの!」
「あっ……」
え……あんまり考えてなかったの……なんで勇者こいつに勝てないの……今まで勇者は何をしてたの……。
「ま、まあ、モブよ、とにかくこの扉をだな――アァアアッ!」
扉を思いっきり踏みつけながら大魔王の言葉を阻止する!
「ばーかっ! 俺はこのまま逃げるからな!」
「ちょっ、やめっ……分かった! 分かったから! 殺さないかr――アァッ! 足がっ! 足がぁ!」
「神父大魔王の言うことなんて聞くかばっきゃろう!」
「あ、ちょっと……本気で待って……腕、次左腕つったから……」
「身体弱いな大魔王!」
「攻撃は基本避けないといけないだろうが! 剣直当たりしてみろ! 死んじゃうだろうが!」
「切実っ!」
「ああ……くっそ……引退して勇者でも育てようかと思ったのに、なんなんだよこの仕打ちは……」
「そ、それでも俺は逃げるからな! 娘のパーティー遅刻しちゃダメだぞ!」
扉に背を向け階段の方に足を向けて――
〈〇〉
キリッ!
「ようこそ――」
〈×〉
くやしぃいいいいい!
「なんなんだよですかこの野郎っ!」
もはや俺も何語なんだよぉおお!
「取引をしようじゃないか」
「取……引……?」
カッコいい言葉の響き……ゴクリんぬ……。
「お前は俺がこのコマンドっぽいものを使う限り、ここから逃げることは出来ない」
「このコマンドっぽいものの正体あんまり分かってないのかよっ! ま、まあ、しょ……それでどういった取引をしようと?」
く、結構重要な場面で噛んじゃった……。俺はこの短期間に何回噛めば気が済むんだ……。
「お前は俺を助ける。俺はお前に危害を加えない。俺の家族も親戚も味方も、お前を傷付けるものはいない。どうだ?」
大魔王の顔は厳ついけど、この駆け引きしてる雰囲気が楽しい! 今のところ俺主役っぽくない? いや、もうこれ俺が勇者になる流れじゃないですかね!
「っていうか!」
「なんだ」
「すごく良い条件じゃないですか! どうせまた裏があるんでしょ⁉」
「ないない……モブ相手に両足と左腕つらされて娘に報告出来るかよ……」
大魔王の顔から生気が消えていく!
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