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詐欺、圧倒的詐欺であった。

 1998年、テレビゲームが人気を博して間もない頃、ある一つのゲームソフトが発売されることになった。


 その名も「魔王討伐戦記」


 主人公である勇者は魔王に殺された両親の敵討ちのため、旅をして、仲間を集めながらレベルを上げていく。そして、魔王城に君臨する四天王を倒し、仲間と共に魔王を討伐する。

 自然の豊かな世界観に、シンプルかつ壮大なストーリー。当時のRPG作品にはあまり見られなかった複数のエンドを用意。「RPG作品の王道+派生型」とも言うべき、そんなゲームソフトがあった。


 発売前から予約は殺到、注文の嵐に製作スタッフたちも歓喜。スタッフとして働けたことに泣く者もいた。ゲーム会社自体も、CMなどを駆使して出来る限り大きく宣伝した。会社に勤める三十代四十代がめっちゃ汗かいて泣いて笑って、青春していた。


 客引きも完璧であり、予約件数は発売日前に五十万を超えた。圧倒的! 圧倒的五十万であった。


【新たなRPG「魔王討伐戦記」新たな伝説がここに開幕!】

【「魔王討伐戦記」4月24日(金)発売!】

【売り切れ御免っ! 予約殺到中「魔王討伐戦記!」】


 待ち遠しい人も、そうでない人も、前々日から並んでいた人も、当日立ったまま寝ていたおじさんも、その日はすぐにやってきた。


 発売前夜からゲームショップは長蛇の列を作り、当日、店員たちも大忙し。

 スタッフたちも一人ひとり散り散りになってゲームショップへと行き、買ってくれた人に握手と感謝の言葉を述べた。結構握手した相手が可愛かったのを今でも鮮明に憶えている……ゴホンゴホン。

 ニュースでも大きく取り上げられ、ゲームをしない人たちの記憶にも残るほど、世間を賑わせた。当然のことながら、スタッフたちは大喜びである。そして大泣きである。青春である。楽しそうな姿を「プロジェクトZ」で視聴した。泣いた。


 だが、発売から一ヵ月、いや一週間が経過し、「魔王討伐戦記」で遊ぶプレイヤーは激減した。いや、その時点でまだプレイしている人が居たのだろうか。私の知る限りでは一人だけだ。決して私が引きこもりだとか、そういう理由で一人って言っているわけではないからね。決してないからね。


 発売一週間足らずでの感想は確か「あんなクソゲー、二度とやるか」、「買って損した」、「金返せ畜生」などなど。勿論、製作スタッフ全員が号泣した。最初と違う意味で泣いていた。

 王道RPGの一角になるだろうと言われた作品は見事に崩れ落ちた。


 ゲームショップの隅、中古品の山の一角を、その作品一つで築いてしまうほどに。ちなみに値段は10円……。発売した当初の値段が4800円……。詐欺、圧倒的詐欺であった。


 何故、長蛇の列まで作った王道RPG作品が、たった一ヶ月一週間でプレイヤーを絶滅危惧種にまでしたのか。いや、絶滅させたのか。

 何故、ゲーマーが楽しみにしていた「王道RPG作品」がものの一週間で「クソゲー」認定されてしまったのか。


 理由は単純明快、些細なことだった。


「魔王討伐戦記」は、「バグ」だらけだった。


 ただのバグなら良かった。「勇者が強すぎ(笑)」だとか、「仲間強すぎんだろ(笑)」とか「いや、魔王ワンパンじゃん(笑)」とか……。いや、まあ、その場合設定ミスなんだけども……ゴホンゴホンッ。

 ゲームを初めて一週間も経たず、プレイヤーが滅びた理由。

 テレビ画面一杯一杯に突如現れた文字。


【魔王様に子どもが出来ました♪】


「なんだ魔王様に子どもが出来る設定もあるのかー」

 と、新たな設定を盛り込んでいることに、プレイヤーはさすが「魔王討伐戦記」だと感心した。ドットで書かれた文字の周りに花火が打ちあがる。パンッ、パンッとご丁寧に効果音も添えて。


「一通り見たし、さあ続き続き――⁉」


 ガチャガチャ、ガチャガチャガチャガチャ……。


「はぁ⁉ コントローラー利かねえ!」


 そう、この画面が出たら最後、操作が全く利かなくなるのだ。最低でも五十万人がこれを経験した。全ての「魔王討伐戦記」がそこで止まってしまい、リセットしても意味なし。最初の操作が出来ても一定時間が経過または最初のスタート画面の時点で魔王様の熱烈子ども誕生アピールが始まる。


 スタッフたちも「そんな設定はしていない」と真っ向から否定。しかし、スタッフ側も黙っているだけでは何も始まらないと、「プロジェクトZ」的な殺し文句を吐いて、バグらしき箇所を懸命に探すも見つかるには至らなかった。


 「魔王討伐戦記はクソゲー」とレッテルを張られ、会社はその評価で経営もガタ落ち。数年後、倒産した。スタッフ一同泣いた。しかし、泣き疲れて枯れるかと思いきや、他社に移れると喜んでいた者も居たらしい。(私はそんなこと一度も聞かされてない)


 さあ、本題はここからだ。


 2018年現在、「魔王討伐戦記」の話をする者、プレイヤーは今や一人も居ない。一角を築いたゴミを店側も処分したから、多分、残っているソフトはほとんど無い。当然だろう。先へ進めないゲームはもう「ゲームとしての価値を失っている」のだから。


 プレイヤーを満足させることが出来ず、挙句の果てにゲームの表示される言葉が、【魔王様に子どもが出来ました♪】なら尚更、燃えないごみの袋の中まで待ったなしである。

 だが、スタッフも把握していないそのバグの追及を。魔王様に子どもが出来たのは何故かを考えた者が、この二十年間に居ただろうか。知る限りでは一人も居やしない。考えた者は誰一人として居なかったのだ。


 世界には、オモチャが勝手に動くというアニメがある。車が喋り冒険する映画がある。乗り物が変形して悪を倒す番組がある。機関車に顔が付いていて……以下省略。

 なら、もし本当に、ゲームの世界で魔王様が誰かと結婚して、子どもを産んでいたとしたらどうだろう。村人たちの一部が勝手に自我を持って行動していたとしたら?


「いやぁあぁああああああああああ!」


 おっと、新しい登場人物がお目覚めのようだ。彼がどんな風に、「魔王討伐戦記」の世界を生きていくのか。すっごく気になるので、そろそろ彼にバトンを渡そうかな。紡がれるはずのないこの世界の時間が動き出すのはこれからだ。こういうセリフって格好良いな。


 じゃあ、ポチッとな。


 さあさあ、目覚めた村人から、「魔王討伐戦記」を始めましょう!



「こら! あんた、いい歳していつまでゲームしてんの!」

「なっ……ゴホッゴホッ……今良い所だからこっちくんなって!」

「はあ⁉ あんた親に向かってなんて口聞いてんだ! いい加減働け。ただ飯食らいのかかし野郎!」

「なああああ! はいはい! んじゃ、あとはゲームの住人に任せ――」

「はいはいってなんだゴラァ!」

 泣かないもん。俺、泣かないもん。

 これ終わったらハロワに行こう……。

応援して頂けるとすごく嬉しいです(*_ _)

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