君からのプレゼント
君は覚えているかな?
あの輝かしい海を、太陽に照らされて輝いていた砂浜を、その上を多くの人々が踏みしめて生きていた海だ。
覚えているだって、ふーん、じゃああの時のプレゼントは覚えているかい?
....やっぱり覚えていないかぁ~。
まぁ君が今付けている時計、それが僕からのプレゼントだったんだよ。
まぁ覚えていなくても無理はないよ、何しろ僕に関する記憶を消されているんだから。
でもこうはっきり覚えていないとあげた僕も傷付くね。
いや、謝らなくていい...これはそう、仕方ないんだ。
でも僕だけプレゼントをあげて君から何も貰ってないのは不服だ。
だから、君からのプレゼントをもらう事にした。
僕のことを思い出して貰うのさ、この糞みたいな.....いや、糞に失礼だ。
在り得ない世界 アスタ・ラ・ビスタ へ一緒に戻ろう。
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森が風に揺られてザワザワと枝を鳴らしている。
それにつられて、葉っぱが宙を舞って、鳥が飛び立つ。
窓からの心地よい空気が、西洋チックな家のベットを包み込みその空間はまさしく天国とも言えた。
だが、その空気に流されず、ずっとベットの上で毛布を地面に蹴落とし、荒いいびきを立てて眠っている男が一人。
そんな日が昇っているのに全く起きない男に、忍び寄る一つの影があった
「ははぁ...それはいい話だ...むにゃむにゃ」
「...さっさと....起きやがれぇぇぇぇぇ!!!」
バチコーーーーーン
爽やかな音が男の頬から鳴り響く、そしてそれと同時に「痛ってぇぇぇぇぇ!!!」という声が近所に鳴り響いたのだった。
1分後
「おい!起こし方考えろ!!!この馬鹿!」
「るっさい!!!黙って着替えて私の家から出ていくんだ!!!」
「いやいやいや!なんでだよ!!なんで急にそんな追い出すみたいな感じになってんだ!!!」
「お・ま・え・が・し・ご・と・さ・ぼっ・たからだよぉぉぉ!!!」
綺麗な黒髪が揺られ、日の光を反射する
そして日差しが顔を照らし、綺麗な青の瞳を映しだす。
そしてその綺麗な瞳に遅れをとらないほどの美形を持った女性、宛ら生きる芸術、見る男を唸らせ魅了するはず...なのだが。
その彼女の顔は歪み、怒りに身を任せている。
無理もない、昨日納品するはずだった商品をこの男はサボって納品もせず、家でぐーたらし挙句の果てには友人のベットを占領し、寝ていたのだ。
「いや、サボったわけじゃねぇ、ただ昨日は行けなかった理由がある。」
「....いやどうせ聞いてもろくな理由じゃない、さっさと着替えていけ」
「その理由はな...「人の話聞けよ」
「眠かったんだ、だから行かなかった、そして今は体が動く気がしない、つまり寝る」
そう言って男は毛布へ体を戻そうとする...が女性は男を窓から放り投げて、男は着替えも許される事なく家の前に置いてあった商品を納品しに行くことになった。
「靴だけはもらえたが、靴下を履かないとなんか気持ち悪いんだよなぁ。」
男はぐちぐちと文句を垂れ流す。
そしてその後ろには有り得ないほどの木材とそれを加工するであろう道具共が男の背中に担がれていた。
街の中を約3時間ほど歩き、暑い夏の気温を噛みしめながら一歩一歩着実に納品先に足を進める。
人々は一度、男の背中の荷物を見て、大丈夫かという目を寄せるが、男は汗はかいているものの表情はいかにも余裕という顔を醸し出しているため、声をかけるまでは至っていない。
「大体これだけの荷物を一人で運ばせるとか、どこの馬鹿が思いついたんだよ....そもそも受けて来たあいつも悪い!」
男は文句を垂れ流しながらも、ついに目的地に到着した。
蜥蜴の看板が真っ先に目に入る、蜥蜴魔法店...ストレートな名前だ。
店のガラスにも所々に蜥蜴の模様が入っている、色は緑、紫、オレンジなど結構様々だ。
男はまじまじと店の外見を観察したのちに、扉に近づきノックをする。
「すいませーん、注文の品を届けに来ました~。」
「あっ、はい今行きます。」
中から出てきたのは短髪で茶色の地味さを際立てるような眼鏡の男性だった。
良くも悪くもどこにでも居そうな顔をしているため、これと言った見た目の印象は薄かった。
「いつも遅刻ご苦労様です、ここまで多くの木材をあの値段で引き受けてくれるのは貴方方のお店くらいです。」
「ありがとうございます。それでですね、この木材、どうするんですか?」
「それはウッドドラゴンの餌にします、高めの木材を食べさせれば食べさせるほどウッドドラゴンは自らの皮膚の成分を良質なものに変換していき、更に木の残った魔力でもりもり成長していくんですよ。」
「ふむ、なるほど、でしたらこの道具は」
「そちらは依然お貸した工具箱ですね、ちょっと使いたいとの事なので、そちらの木と交換で貸させて頂きました。」
「なるほど、確かにうちにはみないものばかりだ、これは良質なものなんでしょうか?」
男は工具箱を背中から取り外して、中身を少しだけ見せてもらった。
店長は「まぁそれなりのものは揃ってますね」と言ったのちに、ドラゴンの餌置き場に案内しますと言った。
店を大きく回って裏の方に行くとそこには大きな野原と森が広がっていて、そこに一際大きな建物があった。
「ここがウッドドラゴンの餌置き場ですね、適当に中に入れちゃってください。」
「あっはい判りました。」
そう言って、男は建物の中に入っていく。
中はこれと言って特徴的なものはなく、入っているものは大量の木材
男の背負っている分の二倍はありそうだ、これだけあれば今回持ってきた分は必要ないのではないかと思うくらいだが、そんな事は考えても仕方ないのでこの重い荷物をさっさと餌置き場に置いて、立ち去ろうとした時にふと、あるものが目に入った。
「なんだこれ..」
男が目にしたのは、魔力巡回装置なるものらしい。
まぁ恐らくは木が腐らないように魔力を定期的に送って餌の質を保っているものだろうと予想した。
まぁまた気になったら、今度聞いてみようとその場を後にした。
「おかえりなさい、それではこれが今回の報酬の品です。」
男はそういうと、どこから取り出したのか判らないが、ドラゴンの脱皮した革を渡してきた。
「うちも最近儲かって来まして、お店を新しく作り直すことが出来たんですよ、それができたのもこのウッドドラゴンの革のおかげです、売っても金になりますし、素材に使っても一流のものが仕上がります。」
「なるほど...しかしそんな良いものを頂いて結構なんですか?」
「いえいえ、現状街中を長時間歩ける人は貴方くらいのものですから、これくらいでいいならば安いものです。」
「それでは、ありがとうございました。」と男は一礼して、その場を後にした。
さて...俺も帰りたい所だが...帰る頃にはこりゃ真っ暗だな。
男はぶっちゃけ途方に暮れていた。
いつもならば配達程度ならば自慢の脚力ですぐに帰るのだが、如何せん今日はもう疲れた。
どこがで休憩がてら寄って行きたかったが、そんな金も今は持ち合わせていない。
何故ならパジャマだからだ。
男はどうしようかと思っていたその時、空が急に光った。
一瞬だった、真っ白に世界を空が照らした。
普通の人だったらん?今光ったか?と思うくらいの一瞬だったが、男は光った方向を掴んだ。
「....まぁどうせ帰っても暇だ、面白い事を見つけたならばそちらが優先優先...」
男は光の方向へと向かって、芝生を蹴って走り出した。
このちょっとした好奇心が男の人生を大きく変える事になるとは、この時は思ってもいなかった。
謎の光から数分経った。
男は光の魔力残影を追って、その根源である場所に到着した。
場所は海だった、しかしそこに人気はなく、ただ静かに波の音が響いてるのみだった。
特に違和感もなく、これと言ったものもない。
普通の人ならば帰る所だ、しかし男は魔力に関しての勘は凄まじいもので、何かあると感覚で既に掴んでいた。
砂を掻き分け、魔力の残影へと確かに近づいていく、そして男はあるものを発見した。
「....なんだこれ...時計?にしてはちっさいな...」
それは手のひらサイズの時計だった、奇妙なものを発見した男は色々弄ってみる。
すると横に何やらボタンみたいなものがある事を発見した。
早速押してみると、普通の人ならば何も起きないなと残念がる所だが、男は魔力の示された道がある事に気付く。
「....俺を試してるのか知らないが....面白い、乗ってやるさ」
男は示された道をまっすぐ突き進んでいく。
歩く事7分、魔力の示された道の先には大木がぽつんと一人寂しく立っていた。
しかし立っている場所がおかしい、通常ならばこんな砂浜の上に立派な大木が立つ事など有り得ないからだ。
「ふむふむ、面白いな君はちょっとした異変に気が付いて、僕のいる位置を掴むだもの。」
「....誰だ?」
「いやぁ、ストーカー被害にあったか弱い女の子ですかね?僕ちゃん怖いな~」
ふふふと笑う少女、背丈はだいぶ小さい、恐らく年齢も自分より年下であるだろう。
髪の色は白でそれだけで異質を放っているが、何より見た目が神妙であった。
だが、それよりも男は他に気を取られていた。
.....こいつ微塵も怖がってないな。
いや、というか馬鹿にしているのか?いくら敵わないとはいえここまでコケにされると流石に腹立たしい。
「まぁ落ち着きなよ、僕はただ君にお願いごとをしたいだけなのさ。」
「...なんだ、俺に頼まなくてもお前ならなんでもできそうなものだが、一応言ってみろ」
「僕の世界を、救ってくれないか?」
「....は?」
男は女の言ってる意味が判らなかった、言葉の意味自体は理解ができる。
だが、世界を救う?そんな気軽なものでは断じてない。
出会ったばかりの男に頼るのも意味不明だ、恐らくは自分をおちょくっている魔女に違いない。
「僕は魔女ではないよ、ほんとに救って欲しいのさ、僕の世界をさ」
「....まぁ仮に魔女じゃないとしてだ、まずお前の正体を教えろ、後お前じゃ呼びづらいから名前も教えてくれ。」
「僕の正体は、そうだな、君が知ってる所の神様だ、んで名前は神宗 麗姿という。」
....神とかいうまた意味不明な事を言い出した。
理解不能だ、恐らく自分自身の実験失敗して頭がおかしくなった魔女といった所だろう
「....んで、それをやって俺にメリットはあるのか?」
「そうだね、じゃあ君の言うことをなんでも一つだけ叶えてあげよう。」
...ほんとなのか怪しい所だった。
だが、俺にはこれをやる意味があると思った。
「...信用できん、が、やろう、だがちょっと待て、家に帰って準備をしなくてはいけない。」
「判った、じゃあ家まで送るよ、準備が出来たら言ってね。」
「お前が神だと信じたわけではない、だが俺が受けなければお前はこの世界を壊しそうだからな、だから気遣いなんて必要ない、俺は自力で帰る、適当に暇つぶしてろ」
「さっすが、よく判ってる、んじゃまた今度」
男は手を振ってもう日が暮れた暗い砂浜を進んでいく。
神宗は手を振ってばいばーい!と言っている
だがふと気が付いた事があるみたいで神宗は男の元へ向かって行く。
「そういえば!君、名前は?」
「....小浦、小浦 義孝だ、忘れるんじゃねぇぞ。」
「了解、じゃあ、またねヨッシー」
「後で殺す、じゃあな。」
波の音が静かな夜に響く、月の明かりが海を照らしていく。
少女はただ遠くの方を見ていた。
これで、良かったのか...それは判らない。
でも、これで彼は救われるのだろう。
短編の終わり方じゃない気がします。
気のせいでしょう