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5.口止め料は私の体

 翌日の夕方、6限目の授業が終わると同時に、さくらは、かばんに教科書を詰めて帰る準備をしているみちおの机へと駆け寄った。


 昨日のことを、しっかりと口止めしておきたかったのだ。


 さくらがやってきたのに気がついて、自分の机にすわっていたみちおは顔をあげた。


「みちおくん、ちょっといいかな…」


 さくらは、こわばった表情でなんとか笑顔を作って、机の上のみちおの手を取った。


 ふたりは教室のある1階から、3階まで階段を一気に上っていく。

 1階は一年生、2階は2年生、3階は三年生の教室があった。でも全校生徒は50人にも満たない。校舎はどこもひっそりとしていた。


 3階で、甲高い笑い声をあげている女の子二人組とすれ違い、さくらたちは屋上へと続く階段を上がっていく。


 そして、あらかじめ職員室へ取りに行っていた、屋上のカギでドアを開けた。


 屋上へ上ると、雨は降っていなかったが、空は曇っていた。


 さくらは誰も入ってこれないように、屋上の外側から鍵をかけた。


 みちおは、そんなさくらの様子を黙って見ていた。


 さくらは屋上のドアから、みちおに向き直った。


「さくらさん、どうしたの? なにかあったの?」


 みちおは不思議そうに尋ねてきた。さくらは、しらじらしいみちおに、腹が立ってきた。梅雨時期の湿った風がさくらの髪を揺らしていた。


「昨日、”レストラン雨根”で会ったよね」


「うん、おれ一人暮らしで自炊に飽きちゃって、だから、たまには外食しようと思って」


「あそこは、ひとりで行くようなところじゃないでしょ」


「そうだな。でも、もうひとりが長いから、なれちゃったんだ。いつも、ショッピングモールのなかにあるお店のものばかり食べてたから、飽きちゃって」


 みちおはさくらが知らない男の子と二人でいたことにはふれてこなかった。こちらから言わないとだめかな。


「…きのうのこと、学校のみんなにも、先生にも、あたしのお母さんにも、だまっていて欲しいんだ」


 さくらは深刻な表情で切り出した。


「昨日のことって、”雨根”で、さくらさんと男の子が食事をしていたこと?」


 みちおの質問に、さくらはこっくりとうなずいた。


「あの男の子は、いとこかなにかなんだろ、なにか問題があるの?」


 いとこ、みちおにはそう見えたのかな。さくらは一時ホッとしたが、すぐに、みちおが知らないふりをしている可能性に思い至った。


 今学校へ告げ口するより、東京編入試験が合格した後に言った方が、さくらによりダメージを与えることができる。


 さくらは、みちおはそんな意地悪な人間ではないことはわかっていたけど、いちど不安になると、自分では非現実的な妄想が止められないのだった。


 だからすこしでも安心しておきたくて、しっかりと口止めはしておきたいと思った。


「そ、そうなの、いとこの子が、東京から遊びに来ていて、あの子、東京で贅沢ばかりしてるから、舌が肥えていて、それで、雨根村でいちばんのレストランへ連れていったの。それでも、ここは銀座の店より数段落ちる、なんて偉そうなこと行っていたけど」



 さくらのひきつった声と笑顔とは対照的に、みちおはおだやかに頷いていた。


「とにかく、昨日あそこで会ったことは、誰にも言わないで欲しいんだ。そして、できれば忘れてほしいの。お願い」


 さくらは近づいて、みちおの手をとって、顔を見上げるようにした。瞳に力を込めて、うるうるさせた。


 さくらは自分が世間一般の女子の平均より、ずっとかわいいことを、知っていた。


「忘れることは…、時間が必要だけど、言うなというなら、昨日のことは誰にも言わないよ、約束する」


 みちおがそういってくれたので、さくらは、


「ありがとう、うれしい! みちおくん、大好きだよ…」


 と、みちおに抱き着いた。さくらはスカートの生地のうえから、みちおのそれが変化していくのを感じていた。


 みちおの顔は、真っ赤だったに違いない。さくらはみちおの肩に顔をのせながら、みちおの息遣いを感じて、目を閉じていた。


「これから、だれもいない教室で、やってもいいよ」


 さくらは、みちおの耳元でささやいた。共犯にしてしまえば、みちおに対しての抑止力になる。さくらはそう考えたのだった。


 そして、みちおのそれをゆっくりと撫でた。旅館の副業をしていた中で、おじさん達に教えてもらったことだった。


 みちおのそれは、外から見てもわかるほどにふくらんでいたが、みちおはさくらの体をそっと振りほどいて、



「ありがとう。今のことも、内緒だよね」


 とさくらの口元に人差し指を押し当てて、胸ポケットから鍵をひょいと抜きとって、屋上から出て行った。


 さくらは、そんなみちおを見送りつつ、最後のは余分だったかもしれないと思いながら、どんよりとした空を見上げていた。


(つづく)

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