第2話 対象の本当の姿
「兄がいるとは上から言われてないぞ?」
「は? 何言ってやがる、いいからさっさとそこをどけ」
兄……か。兄なら仕方がない……よな、うん。
俺はクロエを見た。
クロエの目はすごく悲しい目をしていた。
その瞬間、兄がクロエを引っ張ると前髪が少し揺れおでこの傷を見た。
ナイフに刺されたような古傷、昔何かあったのか、それかただの事故なのか。
事故にしてはおでこは流石にありえない。
そんなことを考えていると、とっくに兄妹の2人はどっかに行ってしまった。
俺は見ることしか出来なかった。
放課後になり、誰もいなくなった教室にはクロエと俺しかいない。
相変わらず無口で、何を考えてるのかさっぱりだ、まるで人形のように見える。
「あなた、昼の時『上から言われてないぞ』って言ったわよね」
急に喋り出したから少しびっくりした。
こいつでも喋るんだな、と思いつつ俺は言った。
「あ、あぁ、あれは口癖だ」
変な言い訳した! こんな口癖があったらおかしい!
「あなた、暗殺者? 私を誘拐でもしようと言うの?」
「え?」
こいつ、なぜ知ってる、誰にも言っていないはずだ。
なぜバレた。
「そんなことはない」
流石に逃げなきゃならない、でもここで逃げたらもっと怪しまれる。どうすればいいんだ!
「私を誘拐して欲しいの」
「は?」
いや、急になんだ? なんで急にそんなことを言い出した。
こいつは何が目的だ?
「あなた、暗殺者だってことぐらい分かるわよ」
「どうやって知ったんだ」
「そうねぇ、どうやってかな?」
こっちを見たクロエはすごく怖い、目は死んだ人間を見てる目だ、俺の体は震えている。
こんなに震えたのは初めて人を殺した時だけだ。
怖い、でも中身はただの人間、人を殺したことの無い人間だ。
「答えろ! どうやって知った! 上はそんなヘマをしないはずだ」
「でも、そんなヘマをしたじゃない」
確かに、クロエがなによりも証拠だ、でもどうやって? こいつは誰かを雇っているのか? それともこっち側に裏切り者がいるのかもしれない。
考えれば考える程分からなくなってくる。どうすればいいんだろう。
「あなたは私を誘拐したことにして、あの兄を殺し、名家である私の家を壊して欲しいの」
「は? なんで」
「分からないの? あの家は嫌いだからだよ」
「そんだけかよ」
クロエの目は本気の目をしている、こいつは死体を目のあたりにしても必ず無表情で入れるかもしれない。
「やっぱり、誘拐ってのはやめときましょ」
「はぁ?」
「私がその組織に入るわ? それなら問題なさそうね」
「大ありだよ! お前何を考えている!」
「何ってあの家を潰すことしか考えてないわよ?」
こいつはイカれてる。
「いいのよ、そう思っていて」
「何がだ」
「今イカれてるって思ったでしょ」
「え、いや」
バレバレだったか、顔に出ていたのか? そんなのはどうでもいい、問題は組織に入れるか入れないかだ。
「それで、どうするの?」
「どう……するか、だな」
二択しかない、依頼だからこの仕事を投げ出すことは出来ない。
誘拐にするか、組織に入れるか、この二択しかない。
誘拐すれば、俺に疑いの視線が向けられる。
組織に入れれば、俺は組織のルールに反することになる。
ルールを破れば場合によっては処分、殺されることもある。
どうする、俺!
「どうするの?」
「ま、まて、今考えてる」
「まぁ、どっちを選んでもあなたは後悔する人生ね」
くそ、どうすれば、ずっと考えていると、呆れたため息と共に彼女は言葉を放った。
「私を殺すこともできるのよ?」
予想外の言葉に俺は少し戸惑った。
「殺すことは……出来……ない」
「へぇー、」
俺は予想外の言葉に戸惑いながらも言うと、今度は微笑みながら俺を見た。
その瞬間、俺に近ずき顔も近ずけて来た。
息が交わるこの近さ、でも俺には恐怖といった感情しかなかった。
「私を殺しなさい?」
「は?」
ここまでみてくれてありがとうございます。
まだまだ未熟な点もありますが、続話も見ていただけると幸いです!