令嬢・ガブリエル
「母上……ガブリエル。ミカエル入ります」
「はい」
屋敷の寝室、母上に呼ばれ。すぐに伺う。中に入るとワインを飲む母上が妖艶な笑みを向けていた。怖く震えるミカエルに僕が許しをこう。
「母上……申し訳ありません。ミカエルは自分が連れ出しておりました。王子の身でありながら……」
「黙りなさい」
「………」
空気が重くなる。
「見逃してた。知ってたわ」
母の言葉にミカエルが驚く。自分はすでに知っていた。なら……何故呼ばれたかがわからない。
「門は閉鎖した。ちょうど東側に4人づれが逃げている情報が上がったわ」
「………」
「悔しくない? やられっぱなしは? 復讐したくない?」
母が嬉しそうに語る。まるで……殺ってこいと言わんばかりに。
「悔しい……悔しいです母上」
「ミカエル?」
そんな問いにミカエルはしっかりと胸を張り言い切った。
「兄を汚した。許せません」
「ミカエル!?」
「行こう。ガブ兄」
「ふふふ………もし終わったら。ガブリエルだけで来なさい。それと不問にするわ」
「「ありがとうございます」」
その日、僕は何も言わずにミカエルと一緒に人を殺めた。何も話をせずに。
*
私が捕まってから数週間。ミカエルから離れることになった。母親は令嬢として私を育てることを決めたらしく。父親に殺すなと釘を刺したようだった。もちろん。父親は驚き……私に土下座をしたが母親と一緒にふんずけて終わりにする。歪みを正すと母親の意思だった。外交で婚約者も選べるからだろうから。
皆は驚いていた。本当に母親しか知らなかったらしい。そして……私は言葉も全部。女として調教された。
しかし、母親の予想よりも覚えがよく。数週間で作法を覚えきる。元々多くの令嬢と触れあって来たために目で覚えていた。
だが、一番は心持ちが変わったからだろう。もう兄貴を出来ないと言う心持ちが男を捨てさせたのだ。
だが……ある日。母のつきっきりの調教明けのガゼボで大人しくしていた日だった。
「……ガブリエル兄さん」
「……あら。ミカエル……」
赤い髪の弟が優しい笑みを浮かべて近寄ってくれる。昔のように。
「母さんから聞いた。俺のためにありがとう……ずっと我慢してたんだろ?」
「………違うわ。男として育てられ今さら変えるのもと思っただけよ……それに。兄弟だったから」
「ガブ兄さん。笑わなくなったね」
「………」
「大人しくなった。昔は飄々として、いつだって俺の前に立ってさ。かっこつけて」
私は今はドレスを着ている。なれるために……そのスカートを強く握った。
「ごめん。ミカエル。もう………お兄さんでいられないんだ。3男じゃない……長女だよ。それに護る事も必要ないぐらい強いミカエルは」
そう、もう終わり。この関係も……ギクシャクしたままで……
「………はぁ? ガブリエル兄さんらしくない。兄さん何か変なもん食った? それよりも前から兄さん女だったの俺は知ってたし。俺だけが知ってるかと思ってた」
「……えっ?」
「一月1回調子は悪くなる。風呂も昔は一緒に入ってたが今は入らない。その時に……あれがついてないのも知ってたし……全く気にしなかったよ。まぁ色々とあっての事だろうと憶測で考えてね」
「なら……どうして今までお兄さんって!?」
私は机を叩き、体を乗り出した。バレてないと思っていたのは私だけなのかと。
「どうして? そんなもん。ウリエル兄ちゃん、ラファエル兄ちゃん。ガブリエル兄ちゃんが俺の自慢の兄貴たちだからだよ。この世でガブリエル兄ちゃんは目の前の人だけだ」
「…………」
「まぁ、もう令嬢だけどね。姫として生きていくって聞いてるから。兄貴なんて言わず姉さん呼びにしなきゃいけないだろうけど。今まで護って貰ったガブリエル兄さんは世界でたった一人だけさ。まぁいつも通りではないけど、少しずつなれてくよ。また外抜け出そうぜ~兄さん」
私は目頭が熱くなりポロポロ溢れる。
「う、うぐ……ぐす……」
「ええ!? 泣くの!? はぁ……全く女になって弱くなったか? でも……まぁ女性だし。姉さんだし……」
「ごめん……ごめん……でも……嬉しくって……」
「なんかわからんけど。姉さんに今まで護って貰った分。今度は俺が騎士として姉さん護るよ。姫のようにな……なーんてね。綺麗だよ姉さん。安心してね」
「くくく……私より弱いくせに」
「油断はしないし捕まらない」
「ええ、ええ………そうね。また抜け出しましょう」
そう、私は……本当に隠し事のない兄弟になれた気がしたのだった。
*
「でっ……そういう告白を私は受けたの。ミカエルの姫として」
「ガブリエル姉さん!? あれ!? 告白じゃないよ!?」
「うおおおおおんうおおおおおん!!」
「父上……泣かないでください。にしても……ガブリエルに会ったとき驚いた」
「ウリエルと一緒に屋敷に帰ってきたら綺麗な婚約者がと思ったよ。でも、一瞬で見抜いた。ミカエルがいたからね」
ウリエルとラファエルは腕を組んで頷く。
「……まぁ。ミカエルがしっかりとね。一緒に居てくれたから。令嬢として居られたのよ。それに……その時からね。ここが暖かく。ミカエルが他の令嬢と仲良くしてると痛くなるのよ。ウリエル兄さん、ラファエル兄さん。これが私が……ミカエルとの懐かしい想い出です」
「ガブ姉さん……昔のが」
「ミカエル」
「ミカエルくん」
「はい。兄ちゃん」
「君は罪作りだ」
「惚れてもおかしくない格好いいですね」
「でしょう!! だから……私は頑張った。色んな婚約者を用意されるのを拒むため。母と主席卒業したら自由にしてもいいと言う約束をつけてね」
「…………あれ? おかしいなぁ~俺逃げられない?」
「ふふ、ミカエル。母親は驚いてたけど約束は約束よ」
ミカエルが頭を押さえガブリエルは笑顔で首に巻き付く、ミェースチが昼食をメイドと一緒に持って机に置きながら。仲がいいのねと……諦めた声でガブリエルを見るのだった。
「全く……ガブリエルは令嬢なのになーんも役にたたないわ」
「それを許してくれてるお母さん大好きです」
「ミカエルの婚約者を用意するまでよ。それまで卒業しなさい」
「では、一生大丈夫ですね!! 得意なんです……令嬢の寝取り。暗殺」
「ウリエル兄ちゃん……助けて欲しい」
「運命を受け入れろ」
「ウリエル兄ちゃんが諦めた!?」
「ミカエル~ミカエル~ふふふ……ふふふ」
幸せそうにガブリエルはミカエルの名前を呼び続けるのだった。