【母上の】ウリエル
「母上、落ち着きましたか?」
「落ち着きました……落ち着きました……これから私はどうやって生きていけばいいか悩んでるところよ」
「悩みをお聞きしましょう」
「あなたの奇行に悩んでるの!! 関係を持つことを家族に知られ……憎きシャルティエさえ……息子に股を開く糞ビッチと思われて……死にたい……殺して」
「却下。母上、死んだら僕の物になりますよ。死後すべてをバラし嘘も混ぜます。いいですね?」
「くっ……その脅し。どこで学んできたのよ‼」
「母上」
皆の前でウリエルがミェースチと会話をする。その光景は誰も想像出来ない結果を迎える。
「まぁ落ち着いた事ですし、母上とシャルティエ女王だけ残して遊びに行きましょう。いいですね?」
「いや、ウリエル。二人にしたら……」
「大丈夫です。発作はなくなりました。それよりも……バレる方が母には辛いでしょう」
「うぐ……」
ミェースチは母親であり、息子が歪んでいるのを帝国でバレ。ウリエルの地位が危うくなるのを嫌う。結局、自分より息子が大事なため……ウリエルを監視する事に決める。
「ここにいる皆に言うわ……他言無用よ……殺すから」
((((絶対に言えないよ!?))))
ミェースチは仕方ないと諦め。ウリエルたちはウリエルの指導のもとで寝室を抜け出す。残ったシャルティエはミェースチに椅子に座るように促した。
「ありがとう……疲れたわ」
「は、はい……ワイン飲みますか?」
「いただく……叫んで喉がカラカラよ」
シャルティエはワイングラスとワインを棚から取りだして注ぐ。ミェースチはグイっと飲み干し。深い溜め息を吐いた。
「………」
「………」
沈黙が少ししたあとに。ミェースチが語り始める。
「結局……いつからあなたを越えて。復讐する意味を見失ったのでしょうね……ウリエルに落ち着かされてやっと気付いたわね」
「……帝国へ渡った時から。この結果は見えていたのかもしれません」
「……あなたがこんなに弱いと思わなかった」
「姉様が帝国の地位を登り詰めると思いませんでした」
「………はぁ。暴れ疲れたわ。シャルティエ……問うけど。なぜ娘を送り出した」
「……気付いた時には旅立ってました。それを止める勇気も行動もしませんでした」
「したわね。ウリエルに書を送った。あの手は卑怯よ」
「ふふ……息子さん大好きですもんね。あっ……」
「うっ……」
「この話しはやめましょう」
「ええ」
二人は話を変える。ミェースチは落ち着きながらレイチェル姫の事を聞いた。
「レイチェルはあなたの実子?」
「実子です。あの子しか……生むことができませんでした。からだが弱く」
「そう、わかったわ。なら……いただくわよ。ラファエルが」
「はい。私がどうこう出来ることはないです。ただただ祈るだけ……」
「ふぅ……昔から変わらないわね。そんな、諦めたような姿。何年経ってるのよ」
「……」
「でも、母親としてはしっかりとしてたのもある。レイチェルが殺すのをやめてと言うほどにね。仕方ない……可愛い可愛い娘のため。見逃してあげるわ」
ミェースチはヤレヤレと手を水平にし首を振る。ウリエルのせいで毒気が抜けてしまい。ミェースチは立ち上がる。
「結局、あなたを殺す気も失せたし。復讐も長い年月あなたを蝕んだようだし。これで満足するわ。自由に生きなさい。何もしない」
「………結局、復讐される価値もないのでしょうね」
「そうよ……もっと早く目が覚めれば良かった。ゴメンね。結局、私は追放された先で幸せになってしまった」
「……いいえ。良かったです。ずっと心残りでした。奪う形のこの場所でしたが……狭く苦しい場所でしたよ」
「何事も……終わったあとでどうするかよ。狭く苦しい場所なら抜け出すわ」
「それが出来るのは……力がある人のみです」
「……話が合わないわね」「話が合わないですね」
「「ふふふ」」
ミェースチはそのまま、シャルティエに近付き頬を撫でる。優しい笑みを無理矢理作って我慢する。
「結局……あのときは子供だったわ」
「はい……若かった。そう、ラファエル王子に教えて貰いました」
「そう。あの子たちに教えて貰った」
「……今の私なら。どうするでしょうね?」
「……今の私なら。どうしたでしょう?」
シャルティエはミェースチの手に触れる。ミェースチは虫酸が走ったが舌を噛み我慢を続ける。
「まぁもう。過去は変えられない」
「はい……お姉さま」
「もう、行くわ。最後に私以外で復讐したい者がいれば相談に乗るわよ。あなたは姫で私は女騎士でもある。剣を抜くことが出来るわ」
「………」
「いないのね。優しいわね~じゃぁ……さようなら」
ミェースチがそのまま扉に出ようとする。その瞬間に微かな声が聞こえる。
「………」
シャルティエはただボソッと声を出しただけだったがミェースチは笑みを歪める。
「……ミェースチ姉さん。ありがとうございました」
「いいえ……ふふふはははは!!」
ミェースチは聞き逃さなず。大きく笑うのだった。
*
会議室。ミェースチは王に謁見を認められて足を運ぶ。会議室の中は騎士の護衛が所狭しと置かれ。長いテーブルに複数人の有力貴族が強張った状態でミェースチを見た。後ろにウリエルが付き従う。結局頼るのは長兄だった。
王の対面にミェースチは鎧を着て登場し剣を騎士に渡して。ドカッと座り、テーブルに足を置いて王に向けた。数人の貴族がムッとした表情をするが王はやめろと静止させる。
「久しぶりね~クレート。元気してた? 大分老け込んだわね」
「メアリー……テーブルは足置きではない」
「あら? 便利な足置きじゃなくって!? 知らなかった」
貴族たちがピクピク怒り出す。それを見ていたウリエルはミェースチに囁く。
(中が見えてます。それとも……見せつけるんですか? 僕の名前が書かれた文字)
「あっ……」ガバッ
ミェースチは途端に恥ずかしくなり。足を下ろし股を閉めて手で押さえる。
(いつ書いた!!)
(書いてません。騙されましたね?)
(くっ……!!)
ミェースチは苦虫を噛んだような表情でクレートを見る。クレートは睨まれていると思いながら。話をする。
「メアリー……君の考え、交渉はなんだ?」
「考えは復讐だった。けどももうそれは終わっているわ。交渉はレイチェル姫を送りt届けること婚姻を認めさせる事。ラファエル王子がいたくお気に入りでね」
「レイチェルを出せと言うのか……良かろう。国交も出来るだろうな」
「ええ、せっかくなんですし同盟も組んじゃいますか? クレート」
「そんな軽々しく。組めと……お前が行ってきた所業に目を瞑れと?」
「勝てる気でいるならいいわ。今回は本気よ……ただ潰すのは最後にしてやろうと言う事よ。私はね……北から攻めようかなーと思ってる。面白いでしょ? まぁ短い期間でいいわ。4ヶ月。春先まででいいわよ」
「……」
クレートは周りを見て頷く。
「……軍を引いてくれると言うのだな?」
「もちろん。囲んでいる兵は引かせる」
ミェースチが深い笑みを向けて全員に宣言する。
「絶対に……攻めたりしないわ。私が生きているうちに私が攻めることはない」
「……良かろう。筆記者。契約書を書け」
「はい」
「では、クレート。さようなら。軍を引くから自由にしてね。娘は貰ったわ。行くわよウリエル」
「はい」
ミェースチは立ち上がり契約書に血印を押して会議室に出る。ウリエルは皆に一礼をしミェースチに続いて会議室を出た。
「王……案外すんなり話が通りましたね」
「……シャルティエと会ったと聞いている。そこで奴は満足したのだろう。復讐もすんだと言っていた。シャルティエが何かを差し出したのかも知れぬな」
「シャルティエ女王は娘を売ったのでしょう」
「ああ、メアリーが何故……ああも。あの娘に執着するが分からないが。娘を利用できるならしよう。4ヶ月後契約は切れる。他に理由をでっち上げて攻めよう。そう……他の国が用意できると聞いているからな……期待しよう」
クレートは胸を撫で下ろす。危機が去った事に貴族も騎士も嬉しがるのだった。
*
廊下でウリエルはミェースチの隣に立ち、真面目に話を始める。
「結局、バレてませんね」
「そうね。目の前に多くの幻影の帝国軍に怯え……最大4ヶ月時間を稼げたし。レイチェルを我が姫に出来たわ。シャルティエも使えそうだし。まぁ面白いでしょ?」
「ええ……面白いですね。母上」
「毒は仕込めるの。クレートみたいな上級貴族院制はしっかりとしないとすぐにね……逝くわ」
「母上の狙いは何年後ですか?」
「さぁ……帰ってから考えるわ。今は」
「連合国から国土を護るですか?」
「ええ、そうよ……ふふ。まぁ時間はかかるわよ」
ミェースチはその日。虚報をばら撒いた。シャルティエの国印を使って。




