冬の商路~ミェースチ。痛い子にされる~
城の馬舎で軽装に身を包んだミェースチ以下家族たちは全員一つの小隊として動くことになった。現地集合のため皆が皆、冒険者の身なりで動くことになる。多くの騎士が我先にと冒険に乗り出す中でレイチェルはミェースチに疑問を呈する。
「雪があるのに馬は使えるんですか?」
「馬? ああ馬ね……馬に見えるのね」
「?」
ミェースチはラファエルに説明を促す。ラファエルは馬舎にいるものを見せると大きい大きい巨体がブルンブルンと震わせていた。
「馬ではないです。ヘラジカと言い。足が長く力強い生き物です。これで雪道を進みます」
「ヘラジカ?」
「北国の魔物です。馬と違い雪では力強いですね。レイチェル。君は乗馬は?」
「少しだけ……」
「では、その少しだけで頑張ってください」
ラファエルはヘラジカの手綱を持ち、レイチェルの前に誘導する。ヘラジカはレイチェルを嗅ぐ。
「これが魔物?」
「ええ、魔物を家畜化しただけです」
「ラファエル。皆がもう待っているわ」
「レイチェル。乗ってください……行きます」
「の、乗るって高いですね」
「馬の1,5倍近い大きさですからね」
レイチェルが恐る恐る乗り、そして皆と一緒に城門を潜った。雪が広がる中で一つ雪が積もっていない道があり、行商が行き来いする。レイチェルは雪がない事に驚き、ミェースチが得意げにレイチェルに自慢をする。
「私を阻む雪は我が帝国にはない!!」
「流石です!! お義母さま!!」
「ふふふ。ほーほほほ」
「……母上。行きますよ」
「そうやってすぐ自慢したがるから……レイチェルも合わせなくていいです」
「お母様……ただ騎士が一生懸命溶かしてるだけですね」
「お母ちゃん。行くよ」
「………うん」
ミェースチは少しだけ恥ずかしくなり。ヘラジカに前へと指示するのだった。
*
行商途中、途中に行商用の建物がある。旅の途中での休むためだけの建物であり、商人、旅行者などが雑魚寝で休んでいた。雪がしのげる。風がしのげることや夜営道具が少なくて済むと言う事が重要だった。帝国領内ではこういった安宿は多く用意されており。領内旅行者は多かった。
帝国には有名な礼拝堂もあり。殉教者であるならすぐに冒険者登録が出来ることも旅行者が多い。冬は危険であるがそれでも多くが行き交う。
そして、一団も宿につき。全員で一室借りる。ただこんなところで眠るのかとレイチェルは思ったのだが……全くミェースチ以下数人は手際よく寝袋を敷き荷物を置き鍵をかけてくつろぎ出す。その手慣れた雰囲気にレイチェルもそういうものだと考えてラファエルの隣に座った。
「ラファエル。商品は無事か?」
「ウリエル大丈夫だ。無事」
「ラファエル様。商品?」
「レイチェル。商品とは普通に行商で路銀を手に入れるための物です。ただの玩具ですが」
「売れるのですか? ただの玩具ですよね?」
「ただの玩具だが。来年発売予定の先行販売物だよ。レイチェル」
「ラファエル様なんですかそれは?」
「独楽」
「独楽ですか? なら売れますね」
「そう、絶対に売れる。なんと今回、帝国女王、皇帝と王子モデルだから」
「王子モデル?」
ラファエルがウリエルを見る。ウリエルが笑顔で答える。
「僕たちが想い描く独楽を権力でそのまま商品にしたんです。母上に頼んで……名前もそうですね。自分たちが恥ずかしいと思う名前をつけました」
「ウリエルお義兄さまは……どんなのですか?」
ウリエルが聞いてくれましたと胸を張る。レイチェルはこの人はと思うぐらいに子供っぽさに笑みがこぼれた。格好いい人が遊びに関しては本当に人が変わるのだ。
「私が考えたのは絶対の攻撃力。変重心の剣の先が出た独楽であり。重りも変重心に刃は片方ついています。その二つの剣で重撃で兄弟の魔物を倒す名を【ツゥヴァイエクスカリバー】とつけました。軸先は攻撃型で相手を弾き飛ばすのを目指してます。そう……レイチェル姫の使った物の改良型です」
「欲しい!? 欲しいです!! ラファエル様!!」
レイチェルがたまらないと言ってラファエルにねだる。
「すべてが終わった一個セット置いてあるから。帝国に。今持ってるのは商品だし渡せない」
「何でここにないんですか!!」
「ちょっとでも重量を減らすためだよ。王国で色々と終わったら……ね?」
「うわーん!! 辛い……辛いです」
レイチェルが唸る。それを聞いていたガブリエルは深い笑みを向けて言う。
「私のは完全に防御型で軸先も真ん中で回り続け最後まで回るように考えた物。円に近い形でいなす。【スキャライージス】とつけましたね」
次にミカエルが続く。
「俺はね……一番始めに貰った独楽が大好きでその形そのままで軸や中を変える事にせず。復刻版として一番最初のシリーズの奴の重量改良型にして貰ったよ。復刻版だから【リベンジャーハウンド】だね」
負けじとラファエルもレイチェルを見て言う。
「私のはですね。とにかく格好いい物をと言うことで一番人気の高かったヴァルキュリアと言う物を強化しました。防御型だったのをあえて攻撃型とし猛獣を従えての攻撃を目指した高めの軸先にし上から叩きつけるその独楽の名を【ライトニングヴァルキュリア】にしました。痛い名前ですね……」
「……いい大人がねぇ……」
盛り上がる皆にミェースチがボソッと言う。しかし、それに対しウリエルが反応した。
「母上が一番でしょう」
「……はい?」
「そうですね。ウリエルの言う通り」
ミェースチは皆の視線に戸惑う。何かあったかと考えるなかでウリエルが代表として語った。
「母上のモデルは【銘無し】意味はその独楽に名前はつけることが出来ず。可能性を秘めた全てのプロトタイプの決定版です。防御型ではあるんですが……武骨な小さな八角形のそれには母上は名付けなかったんです。中のパーツが重要で中のパーツで戦い方が変わるのです」
「い、いえ……そんな意図は」
ミェースチがたじろく。しかし、ウリエルは続けた。
「母上のが一番痛いですね。本当に……名前をつけることがおこがましいとか考えれますもんね」
「ウリエルと同意見。それは名前がないって言うのはくすぐられます」
「私も格好いいけど……痛いですね」
「ガブ姉さん。おれはめっちゃめっちゃそれ。ドキドキした。ああ……パーツを変えれる組み合わせの暗喩だと思ったよ」
「違うわ……そんな何も考えてなくって」
「お義母さん。格好いいですね【銘無し】。名はいらない……これが全てですか……格好いいですねー」
「……違うのよ……違うのよ……ただ……名前なんていらないわって……何も考えて……ないのに」
ミェースチは何故か何もしていないのに胸が痛み、息子たちはそれに対して笑い会うのだった。




