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帝国、冬の風物詩


 屋敷、早朝。ウリエルは父上が遊びに行く途中を引き留めたのだ。何やら道具を多く持ち出し。その竿等を見ると釣りに行くのがわかった。


「父上」


「ウリエルか?」


「少しだけ、お話いいでしょうか?」


「……ああ。短くな待たせている。いや……ミェースチが起きてくる」


「最近お遊びが激しくありませんか?」


「遊びに行けるほど平和だ。いいことだ……ちと戦の臭いもする。今を楽しむべきだ。今は楽しむべきだ。海がよんでいる」


「……そうですね。父上……実は母を抱きました」


「…………くく。ガハハハハハハハ!! 血が濃く出たな。ウリエル!! お前のその表情!! ワシの子だ」


「ええ、ええ、わかってます。父上。話は以上です。母上を貰ってもよろしいでしょう?」


「やらん!! ワシが死ぬまで待て」


「親を殺しておいてそれはないでしょう?」


「……そこを言われると痛いの」


「罪滅ぼしですよ。父上」


「……ウリエル。あまり歪むなよ。お前を誰よりも大切にして育てたミェースチが悲しむ」


「わかってますよ、父上。話はそれだけです。王国へ行く間のお留守を頼みます」


「春先だろう。わかった………」


 ロイドがウリエルの頭を撫でる。


「誰よりも色濃く出たな。ウリエル。だが……理性を失うな。わかったか?」


「はい。それよりも父上。どちらへ?」


「少し南下し、海で青物を釣りに行く。今の時期寒い以外に面白いからな……よく引き、そして……うまい」


「わかりました。お楽しみください。父上」


 そう言い。ウリエルは早朝、父上のボロスを見送る。


「あっ……ミェースチには黙ってくれ。仕事だと。お前が言えば安心する」


「………はい」


 ウリエルは父上の願いを飲んだ。







「母上……おはようございます」


「ウリエル……おは………………」


「母上?」


「つっ!?」


ガバッ!!


 朝、屋敷に帰ってきたミェースチは隣で冬なのに上半身を服を着ず白い肌を見せていたウリエルにビックリし、布団を引き寄せ体を守るように包む。


「昨晩は母上……大丈夫でしたか?」


「な、なにがだ!! ウリエル!!」


「いえ。すぐに気絶されましたし」


「気絶!? くっ……まて!! 私は昨晩なにも!! 何もなかった!!」


「母上? 覚えてないのですか?」


 ミェースチは考える昨晩を……もしかしたらもしかしたらとビクビクする。下半身を確認し……そして気が付く。


「ウリエル……おまえはあああああああああああああ!!」


 ミェースチは叫び。布団からウリエルに飛びかかる。耳を掴んだ。


「母上? 何を考えましたか? 面白いですね? いだだだだ!!」


「何も考えていない!! 騙したな!!」


「はははは。母上……可愛らしゅうございます」


「くぅ……お前は……お前は!!」


 ミェースチはお前はしか言えず。耳やほっぺをつねる。とにかく内から湧く恥ずかしさをウリエルに向けてぶつける。


「わかるか!! 同じ部屋で寝ることも卒業した!! もういい歳なの!! 子供帰りしてどうする!! すぅ……はぁ………ウリエル。心臓に悪いからやめなさい」


「わかりました。母上」


「……息子に対し身の危険を感じる日が来るとはおもわなかったわ」


「そうでしょう。では……今日は休日ですので……」


 ゴロゴロゴロゴロ……


「来ましたね」


「来ちゃったね……これは……」


 屋敷に大きい玉が転がる音が響きウリエルとミェースチは冬になったことを再認識したのだった。





 ミカエルは懐かしい夢を見ていた。庭で二人で遊んでいる時だった。


「ミカエル、ミカエル、おいで、おいで」


 ミェースチ母さんの呼ぶ声が聞こえる。しかし、ミカエルはそれを拒否する。


「イヤ、そっちに行きたくない!! お母さん来ちゃだめ!! なんにもいない!! なんにもいない!!」


 そう、ミカエルは何かを庇っていた。ミェースチはそれが何かを何となく察する。カサカサ音がするのだ。結果……ミカエルの足元から黒い魔物が顔を出す。ダンゴムシにしては少し大きい大きさの魔物はミカエルの足を登っていく。


「出て来ちゃだめだよ!!」


「ミェースチ様……魔物の幼生です」


「やはり魔物が入ってたのね……渡しなさいミカエル」


「いやっ!! お母さんでも!! この子は!! なんにも悪いことしてない!! だから……お母さん」


「魔物と人とは同じ世界には住めないの……何人も殺されてる」


 ミェースチは丸まった黒い魔物を拾う。


「ああっ!! お願い殺さないで!! お母さん!! 大切に育てるから!! 面倒みるから!! お願い」


 ミェースチは首を振り。その魔物を掴んだまま何処かへ持っていくのだった。その瞬間にミカエルはこれが夢だと気がつき自分を殴った。





 ミカエルは懐かしい夢を見たあと起き上がり。皆の待つリビングへ向かう。ガブリエルが抱きつき。おはようのキスを頬につけたあと。ソファーに座った。


 ウリエル以下父を除く家族が集まり。レイチェルもラファエルの膝の上にいる中で……皆が話をする。


「チィが帰ってきてるわよ。ミカエル」


「ええ。帰ってきてる。ミカエル」


「ミカエル……扉を開けたか?」


「まだ」


 皆がチィの事を話をしてくれる。もうそんな時期だ。


「あのラファエルさま。チィとは?」


「ああ。ミカエルのペットだよ。かわいいと言えないペットだね」


「そうなのですね!! 見てみたいです!!」


 レイチェルの無垢な笑みに皆が視線をそらせる。ミカエルは可愛いのにといい。ガブリエルは……そんな弟を複雑な目で見ていた。


「チィ……何処だろ?」


「外よ。ミカエル」


 ミェースチがそう答える。レイチェルが立ち上がり……ミカエルの手を持つ。おもった以上に力が強く。ミカエルは痛みで顔を歪ませた。


「私、見てみたいです!! 見せてください!!」


「う、うん!! 痛い!? 痛い!!」


「あっ……ごめんなさい」


 ミカエルの手をレイチェルは慌てて離し、ミカエルは彼女に少し力強さを覚え……そのまま庭に彼女を案内する。そこに……大きな大きな黒い塊のカサカサと動く生き物にレイチェルは固まったのだった。


「えっ……チィって可愛い名前だったよ? ペットって聞いたよ? な、なにこれ?」


「本当に大きくなったなぁ~ダンゴムシ」


 ミカエルはその大きい塊に触れる。モソモソと庭の雪を退かし雪の下の芝生を食べていた。


「えっと……だ、だんごむし?」


「帝国の大鎧ダンゴムシ。冬眠で俺の部屋に帰ってきたんだ。帰巣本能があるらしくって……牧場から抜けてくるんだよ。至るところで帰ってきてるよね。まぁ頭がいいからね……」


「………うぅ」


 目の前のカサカサする物に。レイチェルは身の毛がよだち、そそくさとラファエルの元へ逃げる。


「ラファエル様!! 気持ち悪いです!!」


「うん。ひっくり返ったらメッチャ気持ち悪い」


 ラファエルも肯定しながら、真冬の訪れを感じるのだった。











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