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令嬢の悪夢


「……フフフ……フフフ……」


「誰?」


 シャルティエは寝室で懐かしい声を聞く。その声の主は若く。いつだって……偉そうにし。実際……本当に偉かった。誰よりも考えを持ち、誰よりも勇敢で……そして残酷。


 そんな人の声が寝室に響く。


「こんにちは……シャルティエ」


「め、メアリー? どうしてここに!?」


「ふふ。王国……滅んじゃったね」


「えっ!? ど、どういう?」


 グチャ……


 赤いドレスのメアリーが何かを投げつける。それが床に転がり、私はそれを恐る恐る拾い上げる。


 レイチェルに似ているそれを見ると……ズルッと髪が落ちる。


「レイチェル!?」


 髪が落ち、目が開けたまま口から血を流す憐れな姿にシャルティエは悲鳴をあげてそれを落としてしまう。


 グチャ……


 そして落とした先から……血糊の海が広がり一瞬で部屋が黒くなる。


「あら、可愛い娘を落とすなんて」


「ひぃ……」


「まぁ、かわいそう。せっかく会えたのに……かわいかった。ハリツケでお母さん、お母さんだって。王国の後宮から出ないのにねぇ!!」


「いや、いや!! いや!!」


「耳をふさいでも聞こえない?」


 シャルティエがへたりこみ。耳を塞ぐが声がする。いろんな声が耳に入ってくる。


「全く……帝国の女王は……しかし、我が国の女王も無能だからな」


「女王は王にアイサレタダケデ」


「シャルティエは……所詮。お飾り」


「「「「シャルティエのせいでメアリーに殺された」」」」


「違う……違う……私は……私は……メアリー姉さんを……そんな……違うの」


「何が違うの? 私の場所を奪っておいて……フフ。シャルティエ……見てみなさい」


「いや、見ない見ない!!」


ガシッ


「ひっ!?」


 シャルティエの足に手が伸びる。知り合いのメイドや使用人が血を流しながら手を伸ばす。


「あーあかわいそう。私と敵対したから殺された。復讐された……関係ない? 関係ある」


「「「女王さま……メアリーが……メアリーが……復讐に……来ます……女王もこちらへ」」」


 腕がシャルティエを引っ張り。メアリーの刺々しい爪を見せつける。そして……大きく振りかぶり。


「いやああああああああ!!」


 シャルティエの頭を削りとろうとしたのだった。





「いやああああああああ!!」


 シャルティエはベットから起き上がる。叫び起きてしまい騒ぎになるかと思ったが……彼女の元には誰も来なかった。


「はぁ……はぁ……んぐ」


 汗だくの状態でコップに入れていた水を飲む。冷たくない水を飲み干すと少し落ち着く。


「はぁ……」


 夢で良かったとシャルティエは思いながら窓の外を見る。メアリーと言う令嬢の夢はこれで何回目かはわからないと思った。


「…………」


 いつだって夢でメアリーはシャルティエに迫る。女王は私の方が相応しかったと言うように。


「……わかってる。わかってるわ……」


 そして、シャルティエは惨めになるのだった。







「……ふぅ」


 ミェースチは一つ息を吸い込んだ。そして……人の気配がし周りを見る。誰もいない……そう誰もいない場所で声が聞こえる。


「ミェースチ……なんで……彼女を殺さなかったの?」


「だれ!?」


 幼い声がミェースチに届けられる。剣を抜き、周りを見るが全く誰かわからない。


「だれ? 誰じゃないよ……メアリー」


「……その名は捨てました」


「捨てたの? 捨ててない。だって復讐しようとしてる」


「……そうよ」


 ミェースチはその声に答えていく。


「嘘」


「嘘じゃない!! 現に王国へ行った!! 力もある!! 強さも!!」


「ならなんで……死にたいの?」


「つっ!!」


「メアリー忘れてない? あの虐げられた日々を……努力した。いっぱいいっぱい。だけど光を浴びたのは……奪ったのは彼女よ」


「うるさい!! 忘れてないわ!!」


「なら……なんで?」


「……」


「なんで……王国で彼女を殺さなかったの?」


「!?」


 その優しい少女の疑問の声にミェースチは舌を噛む。


「出来たよね。殺せたよね? 後宮に忍び込んでアイツを殺せたよね? なんで? 忘れたの? 復讐心」


「王国を苛め、困らせ、そこから帝国が攻める!! それで復讐できる!!」


「ふーんなら……すればいいのに……すればいいのにね? まるで逃げてない? 死にたがってない?」


「逃げてない!! 死にたがってない!! 誰だ!! 出でこい!!」


「誰だ? 誰じゃないよミェースチ。ほら鏡」


「……鏡?」


 化粧用三面鏡を見るそこでミェースチは笑っていた。そう……ミェースチは口を裂けた笑みを浮かべて言う。


「私はメアリー。王国への復讐者……ブラッディマリーよ」


「わ、私?」


 ミェースチは一歩引く。自分の頬に手をやり。歪んで無いことを確認する。


「フフフ、ミェースチ。いい顔……ねぇ。どうして……逃げてきたの? 殺せたでしょ? なんであの女の娘も殺さなかったの?」


「関係ないでしょ‼ あの子は!!」


「でも、殺せばシャルティエは悲しんだかもねぇ。逃げてると……早くしないとシャルティエ……壊れちゃって復讐できなくなるよ?」


「つぅ!! うるさいわね!! うるさい!!」


 ミェースチは胸のロケットペンタンドを無意識に強く握る。そしてを首を振る。


「……今さら。復讐しないのはないよ? ミェースチ。覚えてる? 王国でのあの日々を……皆のために勉強し頑張った。だけどシャルティエにその場を……光に当たる場所を奪われた。虐げられ、嫌われた」


「覚えてる!! 覚えてるわ!! でも!!」


「でも? ねぇ……本当に忘れてる。後ろを見て」


 ミェースチは後ろを見た。


 そこには多くの死体が積み上がっていた。


 そこには色んな国の騎士が顔を潰されて積み上がっていた。


 そこには一緒に戦場を駆けた同士の死体が積み上がっていた。


 そこにはボロスや若い騎士団員の死体が積み上がっていた。


 そこには……レイチェル姫と抱き合って首がないラファエルの遺体が転がっていた。ガブリエルとミカエルが泣きながら恨むような瞳で絶命していた。


ガシッ


「ひっ!?」


 ミェースチの足元が何かに掴まれそれを見る。そこには血だらけのウリエルが恨めしそうに顔をあげていた。


「……母上が……復讐し……復讐されました………母上のせいで……母上のせいで……皆……母上恨みます……」


「あっあっ………あっ……」


 ミェースチの周りが血沼となりベッタリとする。その中心で彼女は叫んだ。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫、思い出したように。昔に拷問されたときのように泣き叫ぶ。


「違う……違う!! そうじゃない!! もうやめましょう……もうやめましょう!! もうやめよう!!」


「やめない。ブラッディマリー。思い出そう……私は嫌われてる。どうやったって皆死ぬ。死ぬならやろうよ……復讐」


「違う……違う……」


「王国もいつか帝国だって。貴女を嫌う。だから……思い出した?」


「……くぅ!! うるさい!! 黙れ黙れ黙って!! お願い!!」


「メアリー……私も貴女もメアリーよ……復讐のブラッディマリーよ」


 ミェースチの近くにメアリーが降り立ち体を抱き締める。


「私は命に嫌われてる。メアリー。ねぇ……メアリー。私も貴女も……名前を変えようとメアリー」


「その名で私を呼ぶなああああああああああああああああああ!!」


 メアリーは泣き叫ぶ。命に嫌われてる事を嘆いて。





「ああああああああああああああああああ!!」


ガバッ


「……はぁはぁ……夢だった?」


 メアリーはベットから降り。水を飲み干す。


「ぷはぁ……はぁはぁ」


 落ち着かないまま……ミェースチは見てしまう。3面鏡を……そして。その中にいるメアリーが笑う。


「メアリー? 復讐しよ?」


「その名で呼ぶなと言ったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


ガシャン!!


 三面鏡にミェースチは拳を叩き込み粉々に砕く。そして……その破片が飛び散り拳を傷つけ血を流す。ミェースチの動体視力は捉えてしまう。


 破片の中で笑うミェースチを。


「メアリー。忘れちゃダメよ? 辛かった事」


「くぅ……うぅ……うぅ……うぅ……ダメよ……ダメよ」


 ミェースチはその場にへたり込む。そして……ロケットペンタンドを握りしめ泣き出す。大きく泣き出す。


「あああ……あああ……」


 そして……泣き出すメアリー。しかし、令嬢には部屋の扉を開け尋ねる人が居た。それは………














 


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