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戦争の火種姫


 家族間の風呂はいつでも問題になる。家族の風呂の順番は決まっていた。先ず、女性が先である。


 ミェースチとガブリエルとミカエルは一緒に。ミカエルは拒否しても3人と言う括りで問答無用に犠牲となる。そして次に年長者からと言われるが自由でありラファエルとウリエルにロイドが一緒が多い。


 風呂桶も3人入れるような大きさにしており。風呂を溜めない場合は体を流すだけにする。しかし、体を流すのも流量が決まっているため問題が起きる。


 貯湯槽が少なく。お湯が決まった量しか沸かせないのである。ミェースチがケチケチしているため大きいのは作らない。


 結果……溜めない場合はそこまで問題がないが……流す場合は量が増え……途中湧かし直しがあり時間がかかる。だからこそミェースチの後で順番を決めるのだ。


 ただ全員、仕事などで時間がずれたりし。一緒に合致することは少ない。しかし無いとは限らない。溜めればいいが溜めるのも時間がかかり。その分でも時間も長くなるため。湯の花を使う時だけしか溜めないのである。


「今日は一番、私が行くわ」


「「「「「どうぞ」」」」」


「………たまに代わっても」


「「「「「いいえ」」」」」


「………」


 ミェースチが譲ろうとしても必ず一番をすすめる。ミェースチはそれを少し寂しく思いながら席を立った。なお1番の理由は血を流す。血の付着率が高い事と皆が快く譲れる相手だからだ。


 そしてあとは平等である。と言うよりもここからは全員は席を立ち。決戦場へと移った。


 大きなバケツのような物にツルツルの魔物の皮を引っ張り。太鼓のようにした物を横にせず立て中央が窪んだ物の前にウリエルとロイドが立った。そして、各々が玩具を取り出す。


 そう玩具である。特殊な発射装置から鉄を削った独楽を放ち戦わせる……子供の玩具である。しかし……それは奥が深く。帝国内での玩具と言えばこれと言われるまで大人もやっている玩具である。基本の形から鉄を削り成型したそれは……ウリエルが学園の時にやっと完成したと言える。


 そう、ミェースチが息子のためになにか玩具をと考えたら。いつの間にか時間がたってしまい。予想に反して大人がやりだし。大人向けになってしまった物だった。なお、子供もしっかりとやっているので問題はない。今では基本から自分なりのオリジナルの形を作った鉄の独楽が流行っている。たとえば……


「……よし。今回は勝つぞ。ワシの【皇帝】で」


「父上……その蛮勇。僕の【聖剣】で挫いてあげましょう」


 ロイドはドラゴンを彫り。ウリエルは剣を彫り、非対称のピーキーな構成にしたものや。ラファエルの女神の体を丁寧に描いた物。ガブリエルのすべての形の頂点は円と言う理論の物や。ミカエルの純正こそ至高派もいる。


 とにかく……ミェースチが体を流している間に戦い。大人の子供遊びを行い。順番を決めるのがハウスルールである。


「「3、2、1、ゴー!!」」


 簡易決闘でも使われる方法で。怒っての決闘後、知らぬ間に目的を忘れて仲良くなると言う異常な魔法物。風呂を入るのをしばしば忘れるほどである。


 バキャーン!!


「ぼ、僕の【聖剣】が!?」


「くくく!! ワシの【皇帝】こそ独楽界の王……な、なに!? 割れている!? 崩御か!?」


 これを5回戦やり順位を決めていく。そして………それを外から見ているメイドはいつも思う。平和だなと。





「……上がったよ」


「ガブ姉さん!! 俺の【原初】と勝負だ」


「いいでしょう。ミカエル……でも容赦はしない。これが全て答え。祝福されし【完成】よ」


「………」


 ミェースチはまたやってると思いながら。わいわいとしている中を遠くで見続ける。開けたワインをチビチビ飲みながら、いつもその輪に入れない開発者ミェースチ。


 己が生み出した戦う玩具を呪いながら……指を銜える日々を過ごすのだった。全てアイツが悪いと逆恨みしながら。







 シャルティエは腹違いの子が最近ハマっている玩具を眺めていた。側室の子だがシャルティエは我が子として育てる事を強要されている。そんな子に貴族たちは玩具を買ってあげていた。


「よっしゃ!! 勝った!!」


 鉄に独楽が弾き飛ばされて転がっていく。相手のメイチェルは悔しそうに弾かれた独楽を取った。弟の相手をしてあげているのだ。


「うーん。今日は勝てない」


「そりゃーオリジンだからね。帝国玩具だよ」


「……いいなぁ。あっ……いやいや。それはあの女の物。絶対に使わない」


「でも。これが元だよね。真似たけど」


「ぐぅ……」


 メイチェルは悔しそうに唸る。面白い玩具の開発者が気に入らないが……面白いため。悔しいのである。シャルティエはと言うと……こんな物にまで彼女の影がと思いながらも、諦めに似た何かをその独楽に向けた。


 シャルティエは……本当に何処にでも彼女が見ている気がして心苦しくなる。メイチェルはそれを見ながら……ミェースチを嫌う。自分の母が一番だと信じ揺るがない。


「母上、大丈夫です。母が一番です」


「ありがとう。メイチェル……でもいいの。わかってるから……」


「母上……」


 メイチェルは舌を噛む。シャルティエはいつもいつもミェースチの影に晒され笑顔が少ない気がするのだ。許せないと思い。メイチェルは決断する。


 相手もやったんだから私もやると……帝国に復讐しに行くのを決めるのである。シャルティエが幸せになるにはミェースチを消すしかないと考える。


 ナイフや剣を習って来たのはそのためだ。


 だからこそ……雇った。メイチェルの貰える物を売り。メイチェルの護衛を。


「母上……安心してください」


「?」


「いい報せを渡せるように私!! 頑張ります!!」


 学園を休み。過酷な冒険を制しメイチェルは帝国に顔を出すことを決めるのだった。己が全く王位を継げない事を理由に……捨て身でミェースチに会う気であった。


 そして今夜……王から妻へと報告が渡る。







 後宮、王の寝室にワインを注ぐシャルティエはメイチェルの覚悟を王から聞いた。


「……どういうことですか?」


「王国に旅行だよ。メイチェルは帝国を見たいと言いだしたんだ……」


「そんな!! それは危険です!! 止めないと!!」


「シャルティエ……気持ちはわかる。危ない……だが後学のためだ。すでに出発した……昨日で挨拶を済ませてね」


「こ、後学ですか!? それならここでも!! あ、挨拶?」


「………婚約者の騎士団長に一晩。メイチェルは大人だ。冒険だって出来るだろう」


「………本当に。後学のためですか?」


「愛している。シャルティエ」


「…………はい」


 シャルティエはその問いに察し……自分の弱さを痛感するのだった。お飾りの女王だと。





 



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